北上市文化交流センター・さくらホールのオープングとして、11月27日から3日間、市内の中学校吹奏楽部や文化団体など計77団体が協力した「オープニング市民フェスタ」が開催された。その最終日。巨大なガラス張りの公園の中にホールや練習場が点在するかのような広い館内は、たくさんの家族連れで溢れていた。
中ホールでは、マジッククラブや合唱団、民謡保存会などの発表が次々に行われ、植栽のある「テラス」と呼ばれるロビーには、紙芝居や風船細工、高校生の鬼剣舞などが出現。2階に上がる吹き抜け階段の下では、子どもたちのエレクトーンリレー演奏が行われていた。
また、館内に離れのように点在する21部屋のアートファクトリー(すべてガラス張りの練習室群)では、吹奏楽部の公開練習や茶道協会のお茶のサービスなども行われていた。
「市長がせっかくお披露目をするのだから使っているところを見てもらえと。それで市民のみなさんに呼びかけて実行委員会をつくり、企画・運営をお願いしました」と佐々木進館長。実行委員長の加藤俊夫さんは、「最初はどうなることかと思ったが、来場者も3日間で1万人を超えそうです」とホットした様子だった。
このユニークな建物は、北上市民会館の老朽化による建替えで構想されたものだ。「催し物がある時だけ人が来て、それ以外は真っ暗になるような施設にはしたくなかった。プロポーザルの提案で公園と一体化したプランを出してくれた設計事務所に有識者を加え、公募などで集まった市民16名のワーキンググループと一緒に検討しました」と、市役所の建設室で開発を担当した高橋昌弘さんが説明してくれた。
設計者の野口秀世さんは、「普通の会館だとそこを利用する10%の人間をどうやって増やしていくかという発想。でもここはそういう祝祭の場ではなく、散歩の途中で立ち寄るような日常生活の中で遊べる施設を目指しました。共用空間を外部空間という認識にして、そこにそういう機能をもたせたかったけど、要望のあった施設を入れると余裕がなかったので、ワーキンググループの人たちと調整していきました」という。
公園と同じようにしたいという理想から、休館日はなく、開館時間も午前9時から午後10時まで。テラスは飲食自由だ。
この施設を運営しているのは、新たに設立された財団法人北上市文化創造である。市から出向の館長以外、職員は15名しかいないが、すべてプロパー。ワーキンググループのメンバーだったホール運営経験、裏方経験のある市民たちがリーダーになっていて、平均年齢28歳という若さだ。人件費、維持管理費は市が負担するものの、自主事業費は施設の貸館収入とチケット代で賄うという独立採算を目指している。事業プロデューサーの田村隆さんに聞いた。
──厳しい運営ですね?
「民間はもっと厳しい状況でやっています。苦しいかもしれないが、若い時にこういう状況を乗り切れば自信もつくし、免疫もできる。出演者が出られなくなったり、コンサートが延期になるなど、早速トラブルがありましたが、みんなには今だからこういう失敗も許される、いい経験だと言っています」
──事業の方向は?
「子どもたちが見て憧れ、自分も始めようかと思い、うまくなってプロと共演する…みたいな循環が生まれる事業ができればと思っています。それと年1回は自主プロデュースをやりたい。今回、大ホールのこけら落しで地元の鬼剣舞を音楽と映像と舞踊でアレンジした舞台をつくりましたが、地域の財産を発掘して彩りを変え、地元の人に再発見してもらえるような取り組みを続けたいです」
ホワイエの一角にある財団事務所には壁も扉もなく、若い職員が必死で働く姿がどこからも丸見えだった。子どもたちには、この職員たちの姿こそ見て欲しい、と思わずにはいられなかった。
(坪池栄子)
●こけら落し公演『飛翔・ONI』
[日程]2003年11月29日
[会場]北上市文化交流センター・さくらホール(大ホール)
[構成・演出・振付]大沼まゆみ
[オーケストラ]北上フィルハーモニー管弦楽団
●北上市文化交流センター・さくらホール
[施設概要]大ホール(1310席)、中ホール(450席)、小ホール(リハーサル室、平土間)、アートファクトリー(練習室群/ミュージックルーム2、大アトリエ、ミキシングルーム、レッスンルーム2、和室3、大アトリエ、アクティングルーム、スタジオほか全21部屋)、キッズルーム、サテライトスタジオ、サポーターズルーム、情報制作室など
[設計](株)久米設計、高橋設計(株)
[所在地]岩手県北上市町分4地割112番地
地域創造レター 今月のレポート
2004.1月号--No.105