NPOやネットワークをテーマにした
公共ホール職員向け企画が充実
「芸術見本市2003東京」が12月9日から11日までの3日間にわたり、池袋の東京芸術劇場、ホテルメトロポリタンなどを会場に開催されました。今回の見本市では、文化庁国際文化交流支援事業「インターナショナル・ショーケース」が同時に行われたほか、公共ホールの職員向け企画が充実。現在最もホットな話題であるNPO法人との連携や公共ホールのネットワーク事業をテーマにしたシンポジウムなどが連日開催されました。それぞれの事業担当者がパネラーとして問題提起をするなど、これまでになく刺激的な情報交換の場になったのではないでしょうか。
●地方自治法一部改正で新局面へ
公共ホール職員向け企画の中でも最も盛り上がったのが、地域創造と全国公立文化施設協会主催によるシンポジウム「公共ホールとアートNPOとの連携について考える」(12月9日)です。今年の6月に地方自治法の一部改正が行われたのに伴い、公の施設の管理運営を議会の承認を得た「指定管理者」に代行させることができるようになりました。こうした指定管理者の有力候補でもあるNPO法人がテーマとなっただけに、参加者の関心は高く、満席の会場は熱気に包まれていました。
パネリストは、福井市から福井市文化会館の事業運営を委託されているNPO法人福井・芸術文化フォーラムの岸田美枝子さん、大阪市の取り組みとして注目されている「新世界アーツパーク事業」(アミューズメント施設「フェスティバルゲート」の空きスペースをアートNPOの拠点として活用)を推進している乾正一さん(大阪都市協会文化事業部)、そして、民間的な発想による財団改革を訴えている熊本県立劇場事務局長の橋本博幸さんです。
岸田さんは、「NPO法人と行政が連携する場合、両者が一緒に同じ目標に向かって歩いていけるかがポイントになる。これからもお互いに学びあいながら取り組んでいきたい」と市民の側からコメント。また、乾さんは、「NPOありきで始めたのではない。大阪市の文化行政のあり方を検討する中で、今どうなっているのかを調べたら、まとめるべき活動が市内に点在していることがわかった。これをまとめられれば次のステップが踏めるのではないか、そういうセンターが低コストでできないかを考えるところから始まった」と言い、現状把握から出発することの重要性を指摘。NPOありきになりがちな傾向に対して警鐘を鳴らされていました。
また、熊本県立劇場の橋本さんは、「劇場は県と財団の“あうんの呼吸”で運営されてきたが、財団の中にお上意識が強く、顧客満足度もバリュー・フォー・マネーも向上していない」との反省から、「財団は行動原理を少しでも民間に近づけること。また、行政は財団の自立への努力を支援すること」が肝心と指摘。「これからの行政は、公共サービスの独占的供給者であることを止め、最も効率的にサービスを供給できるところが提供できるよう条件整備をする役割に変わっていくべきだ」と根本的な問題を提起されていました。
ミッションをもち、命令ではなく目的によって統制され、収益を上げて経営していくというもうひとつの公共=NPOの社会的役割の重要性を改めて確認させられた2時間となりました。
●拠点劇場をネットワークして共同製作
今、公共ホールでは、全国発信を目指して自主企画プロデュースを行っている劇場の連携が始まっています。演劇とダンスの共同製作について、関係ホールの代表者が揃って具体的なプレゼンテーションを行いました。
10日のランチミーティングでは、北九州芸術劇場、世田谷パブリックシアター、新潟市民芸術文化会館、まつもと市民芸術館(2004年オープン)の4館がこれから行う共同製作について説明。
「それぞれが考えている企画に参加し、北九州でつくったら後の3館でも公演するようなネットワークが組めれば、年4本は共同製作のオリジナル・プログラムを提供することができる。理想論だが、こういうつくり方もあるのではないかと相談しているところだ。まず、北九州と世田谷の第1回共同製作として3月に白井晃演出による『ファウスト』の公演を行う。問題は予算の関係でどうしても稽古が東京になってしまうことと、地方公演が中心になると出演者への交渉が難しくなること。課題はいろいろあるがこれからも4館で話し合っていきたい」(津村卓・北九州芸術劇場プロデューサー)
11日には、国際的に活躍する新進振付家、金森穣を芸術監督に迎え、ダンサー10人を擁するレジデンシャル・ダンスカンパニーを設立する新潟市民芸術文化会館がダンスの共同製作について報告しました(トピックス参照)。いずれもプロデュース力のある拠点劇場が全国に広がっているという期待感が伝わってくるミーティングとなりました。
●「公共ホールとアートNPOとの連携について考える」パネリスト発言要旨
◎岸田美枝子
市民グループに任せて大丈夫なのかという不信感が行政サイドには常にあった。当時の文化会館の館長がずっと話し合いに同席していて、その人がNPOの理事長に就任してくれたことで基盤ができた。NPOが運営するようになって一番変わったのは、文化のまちづくりにとって事業がどういう意味をもつのか、常にミッションに照らして議論するようになったこと。それと、鑑賞と発表の場だった会館に、企画や運営に関わる市民が出入りするようになり、ここが芸術を通じて市民が社会参加する場になったこと。社会で力を発揮していたリタイア組の人たちが経営面を支えていて、「ちゃんと儲かるのか」(笑)と厳しくチェックされている。
◎乾正一
大阪市の文化行政のあり方を検討した「芸術文化アクションプラン」を策定した。その中で、芸術家との協働なくして芸術文化行政はありえないし、こうした民間の専門家と一緒にやるためには対話しながら進めることが必要だという認識をもった。大阪の文化施設は民間が運営しているものが多く、公共の専門施設が少ないため、この人たちならと思ったアーティストのグループと相談しながら「新世界アーツパーク事業」をつくっていった。
◎橋本博幸
昨年4月に着任し、開館以来21年の間に顧客満足度とバリュー・フォー・マネーが向上していないことに驚き、職員に劇場改革を呼び掛けている。厳しい財政状況の下、このままでは県も財団も共倒れしかねない。財団は厳しいが希望に満ちた自立への船出をしなければならない。これからの公共ホールは、自主文化事業については、行政と民間とのパートナーシップに基づく取り組みが重要になる一方、ホールの管理運営は、完全なビジネスとなるのではないか。全国の財団やNPOはそのような新しい世界に対応すべく能力を向上させていくことが肝心だ。
●「芸術見本市2003東京」概要
[会期]2003年12月9日~11日(8日プレ企画)
[会場]東京芸術劇場、ホテルメトロポリタン、エポック10ほか
[主催]芸術見本市2003東京実行委員会(独立行政法人国際交流基金、財団法人地域創造、特定非営利活動法人国際舞台芸術交流センター)
[プレゼンテーション実施団体数]100団体
[総参加者数]4日間延べ2,000人
●「芸術見本市2003東京」地域創造主催事業
◎地域創造・全国公立文化施設協会主催シンポジウム「公共ホールとアートNPOとの連携について考える」(12月9日)
[コーディネーター]吉本光宏氏(ニッセイ基礎研究所 主任研究員)
◎地域創造・国際交流基金主催セミナー
(1)「劇場による人材育成」(12月10日)
[コーディネーター]稲葉麻里子(国際交流基金 舞台芸術コーディネーター)
(2)「劇場間ネットワークによる事業展開」(12月11日)
[コーディネーター]津村卓(地域創造プロデューサー)
◎地域創造主催セミナー
「リージョナルシアター・シリーズ5周年」(12月10日)
[パネリスト]鈴江俊郎(劇団八時半)、はせひろいち(劇団ジャブジャブサーキット)、泊篤志(飛ぶ劇場)
●芸術見本市に関する問い合わせ
芸術見本市事務局 Tel. 03-5960-9055
●「芸術見本市2003東京」地域創造主催事業に関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 福井・横山 Tel. 03-5573-4068