10月31日、今年8月にオープンした北九州芸術劇場を訪れた。劇場初のプロデュース公演『大砲の家』の初日を取材するためである。
同劇場は、ハード(アーツセンター情報参照)・ソフトとも演劇を核とする大型公共劇場として開館前から注目を集めてきた。オープニングには、東京から招いた人気プログラムがずらりと並んでいたが、決してこれが劇場の目玉ではない。北九州芸術劇場の掲げる事業の柱は“観る”“創る”“育つ”の3つ。「中でも“作品を創る”がベースです」と、チーフプロデューサーの津村卓氏は明言する。
「作品を創ることで、表現者は劇場に対し信頼感をもちます。そこで、北九州でやりたいという劇団やカンパニーが増えることが大切なんです。それはイコール鑑賞事業の充実に繋がり、製作過程に関わることで地元に舞台芸術のプロが育つ。プロが育てば、アウトリーチや各種講座も継続的に実施できるようになる。また、劇場自身も育つなか、市民へのサービスも充実してくる。こうした循環を起こす装置が、劇場のプロデュース公演なんです」(津村)
そこで問われるのが、どのような作品づくりを行うかである。地域外のプロに頼り切りでは意味がない。だが“人材育成”だけを目標にする自己満足的な公演では、決して人は育たない。このジレンマをクリアするため、初のプロデュース公演では“大砲プロジェクト”と銘打ちさまざまな仕掛けがなされた。
まず、当初から九州外で公演をすると決め(兵庫県伊丹市の伊丹アイホールでの関西公演を実施)、批評に耐えうる作品を目指したこと。次に、地域内外の人材をバランスよく配置したこと。脚本は、北九州在住で全国的に注目を集める泊篤志。キャストは、九州全域からオーディションにより選ばれた若手12人と、全国区で活躍する4人。スタッフも、関西のスタッフと地元キャストの組み合わせで、演出には集団をまとめ上げることに定評のある内藤裕敬を迎えた。また、今年の2月と4月に九州の役者を対象に内藤氏のワークショップを実施。3月には戯曲の第一稿によるリーディングを行い、ここでの観客の反応をもとに作家、演出家が改訂作業に入った。稽古開始は9月22日。大砲チームは1カ月半、北九州市に滞在して作品をつくり上げた。
そして開幕。泊氏の脚本は、架空の国を舞台にしながら、宗教、国家、戦争といった生々しい問題を突きつける3時間の大作だった。その世界をダイナミックな人間ドラマとして立ち上げる内藤演出に若い役者はじめチーム全体が懸命に取り組んでいた。
今回のプロジェクトが、北九州に何を残したか。内藤氏との改訂作業について泊氏は、「『言葉で説明しすぎるな』という“内藤美学”になるほどと思ったり、譲れない部分もあったり。そのせめぎあいがとても面白かった」と言う。しかし最も刺激を受けたのは役者陣ではないだろうか。
主人公を演じた寺田剛史は、「役者としてのイメージの広げ方について、衝撃を受けました。劇団公演より数倍台本を読み込みこんだと思います」。また、オーディションには落ちたものの演出助手として舞台裏についた守田慎之介は、「この劇場はチャンスだと思う。吸収できるものはすべて吸収したい」と意気込みを語る。
リスクの大きさから、現代演劇の作品製作に取り組む公共ホールはまだ少ない。津村氏は言う。「北九州は昔からものづくりの街。きっとDNAの中にものづくりの心が組み込まれていると思います」。すでに劇場プロデュース第二弾『ファウスト』(ゲーテ/構成・演出:白井晃)が来春3月に控えている。この劇場が今後どのような作品を生み出すのか、全国が見守っている。
(宮地俊江)
●北九州芸術劇場プロデュース公演『大砲の家』
[日程]10月31日~11月2日
[会場]北九州芸術劇場 中劇場
[作]泊篤志
[演出]内藤裕敬
[キャスト]ゲスト:陰山泰、荒谷清水、木村基秀、近藤結宥花/オーディション:寺田剛史、白石健一、権藤昌弘、有門正太郎、河原新一、藤原達郎、森光佐、橋本茜、沖田都、酒瀬川真世、門司智美、浅野かさね
[スタッフ]舞台監督:鈴木田竜二、美術:池田ともゆき、照明:時佐勝、音響:堤野雅嗣、音楽:藤田辰也、衣裳:内山ナオミ
地域創造レター 今月のレポート
2003.12月号--No.104