日本各地の伝統芸能、古典芸能等を2日間にわたって紹介する「第3回地域伝統芸能まつり」が、3月1日、2日の両日、東京・渋谷のNHKホールで開催されました。
今年で3回目を迎えたこの催しは、失われつつある各地の伝統芸能等を映像により記録・保存することを目的としてスタートした地域創造の「地域伝統芸術等保存事業」の一環として行われているものです。全国の芸能継承者の方々に発表の場を提供すると同時に、イベントやテレビ放映を通じてその魅力や価値を再認識していただき、芸能による地域づくりの向上を目指しています。
入場は無料で、昨年に引き続き鑑賞希望者が多数応募。約4倍の倍率の抽選を勝ち抜いて入場券を入手した延べ約4000人の観客が、各日4時間にわたった熱演を鑑賞しました。この模様は、4月30日(水) 15:45~18:44にNHK BS─2で放映される予定です。
第1回が「怨霊」、第2回が「恋(こひ) 」と毎回テーマを定めて催されてきたこのまつりの今回のテーマは「天地(あめつち) 」。2日目の舞台で挨拶した梅原猛・実行委員会会長により、「日本には豊作の祭りが多い。天の神や、地の神など、日本には八百万(やおよろず) の神がいて、いろいろな祭りで、豊作を祈り、感謝しています」と、“祭り”の本質に迫るテーマの狙いが説明されました。
●夏祭りを再現したかのような迫力
1日目のオープニングは、「南部俵積み唄」。山本謙司の歌に乗って200俵もの俵が舞台に積み上げられ、祭り装束の人々が日の丸の扇子を手に踊り、祭りの雰囲気を一気に盛り上げます。会場からは早くも手拍子が。さらに五穀豊穣の感謝の意を込めて奉納される佐賀県鹿島市の「面浮立(めんぶりゅう) 」、佐賀県上峰町の「米多浮立(めたふりゅう) 」と、農作にちなんだ踊りが披露されました。
司会は、昨年と同じく女優の竹下景子さんとNHKの阿部渉アナウンサー。竹下さんはそれぞれの演目が終わるごとに出演者に声をかけ、練習の苦労話などを巧みに引き出していました。また、紹介の仕方も、ただ単に演目が紹介され演者が登場して演じるというのではなく、途中でインタビューを挟んだり、演じている最中に解説をかぶせたりと、工夫されていました。
歌舞伎の元祖とも言われる新潟県柏崎市の「綾子舞」を交え、岐阜県・八幡町の「郡上(ぐじょう) おどり」でクライマックスへ。舞台上に民家の街並みが再現され、提灯の下がった真ん中の屋台で囃子が始まると、まるで夏祭りがそこに来たような雰囲気。4日4晩、毎日空が白むまで踊り明かすという郡上おどりのいろいろな踊りを全員同じ振りで踊る様はまさに迫力満点。途中で浴衣に着替えた竹下さんが踊りに加わると、場内からも次々と観客が飛び入りし、舞台上に大きな踊りの輪が広がりました。踊りの後、息を継ぐ間もなく青森県弘前市の高さ3メートル30センチもある「津軽情っ張り(じょっぱり) 大太鼓」が登場。ドンドンと雄壮な音を響かせて場内を震わせ、3本締めで初日を締めくくりました。
2日目は、三枝成彰作曲の『太鼓について〈太鼓協奏曲〉』で幕開き。日本の楽器・太鼓と西洋のオーケストラ、さらに野村万之丞の謡曲がステージ上でコラボレーションするという意欲的な作品です。その後、1日目と同じく農作にちなんだ伝統芸能として、宮城県仙台市の「秋保(あきう) の田植踊」、鹿児島県奄美大島・瀬戸内町の「油井の豊年踊り」が披露されました。
最後に登場したのが、三重県四日市市の「四日市の大入道」。日本一大きなからくり人形ということで、身の丈4メートル50センチ。首がにょろにょろと伸びて、目の玉がギョロリと動くと、そのユーモラスな表情に場内からは笑い声がもれます。首が伸びた時は高さ9メートルもある大入道は、トリにふさわしい“登場人物”。最後は場内が一体となって手拍子を打ち、2日間延べ8時間の熱演に終止符をうちました。
●“語り”の芸能に光を当てた試み
祭りにちなんだ派手な演目が並ぶ中、注目を集めたのが、これまであまり知られることなく埋もれていた“語り”の芸能にスポットライトを当てた試み。1日目の北海道・アイヌ民族の「ユカラ」と、2日目の長崎県・平戸島・生月町(いきつきちょう) の「オラショ」です。
「ユカラ」では、アイヌ語を母語として育った76歳の萱野茂さんが、子どもの時に父母から口伝えで教わった神話的な物語を語ってくれました。いろり端で節を付けながら語り、全部話すには翌日の朝までかかるという膨大な長編の、ごくサワリだけでしたが、「金の雨が竜神の上にふりかかる」といったイメージ豊かな世界が、萱野さんの声と翻訳の字幕を通して紡ぎ出され、感動を呼びました。「オラショ」は、戦国時代以降今日までのキリシタン信仰の中で唱えられていた祈りの言葉。口伝えで、意味は不明のまま一言一言、暗唱されてきた「オラショ」は、実はラテン語のグレゴリオ聖歌に源を持つものであったという皆川達夫・立教大学名誉教授による研究成果も説明され、その元の聖歌も中世音楽合唱団により披露されました。「ユカラ」と「オラショ」は、文献がなく実演できる人も少なくなる一方の口承芸術を紹介した貴重なステージでした。
古典芸能としては1日目に狂言『神鳴』、2日目に能『野守』が上演されました。また、地域の伝統芸能関係者等の情報や物産を紹介・販売する「地域情報PRコーナー」も設けられ、こちらも大盛況となりました。
梅原会長によると、来年は再び梅原会長の新作狂言と、瀬戸内寂聴さんによる新作能を上演の予定。3回目を迎え、定着してきた「地域伝統芸能まつり」の今後の展開も、目が離せないものになりそうです。
●「第3回地域伝統芸能まつり」概要
[日程]3月1日、2日
[会場]NHKホール(東京都渋谷区)
[主催]地域伝統芸能まつり実行委員会
[実行委員]梅原猛、板谷駿一、遠藤安彦、鎌田東二、三枝成彰、鈴木健二、中沢新一、林真理子、松岡正剛、松本英昭、山折哲雄、山本容子、香山充弘
[共催]財団法人地域創造
[後援]総務省、文化庁、NHK
[司会]竹下景子、阿部渉
○出演芸能等
1日:面浮立(佐賀県鹿島市)、米多浮立(佐賀県上峰町)、ユカラ(北海道)、継ぎ獅子(愛媛県今治市)、綾子舞(新潟県柏崎市)、古典芸能:狂言『神鳴』、郡上おどり(岐阜県八幡町)、津軽情っ張り大太鼓(青森県弘前市)
2日:古典芸能:新作『太鼓について〈太鼓協奏曲〉』(作曲:三枝成彰/台本:島田雅彦)、秋保の田植踊(仙台市)、オラショ〈かくれキリシタン行事〉(長崎県生月町)、古典芸能:能『野守』(天地之声〈短縮版にて〉)、油井の豊年踊り(鹿児島県瀬戸内町)、四日市の大入道(三重県四日市市)
●平成15年度地域伝統芸術等保存事業(映像記録保存事業) 助成内定事業一覧
青森県尾上町「八幡崎獅子踊り」、岩手県花巻市「幸田神楽」 (「九日神楽」) 、秋田県西木村「上桧木内紙風船上げ」、秋田県大館市「 (1) 大館囃子 (2) からからんず (3) 粕田酒こし舞 (4) 雪沢鹿島太鼓 (5) 池内獅子舞 (6) 大下町獅子舞 (7) 粕田獅子舞 (8) 川口獅子踊 (9) 白沢獅子踊 (10) 花岡本郷獅子舞 (11) 松木獅子踊 (12) 松原獅子踊 (13) 谷地町獅子舞」、福島県川俣町「八坂神社三匹獅子舞」、福島県矢吹町「三城目 獅子舞」、福島県船引町「 (1) 芦沢の八ッ頭獅子舞 (2) 大鏑矢神社夫婦獅子舞」、埼玉県両神村「甲源一刀流の形」、東京都三鷹市「新車」、神奈川県大磯町「西小磯の七夕」、新潟県真野町「豊田音頭」、富山県砺波市「 (1) 江波獅子舞 (2) 頼成 (下村) 獅子舞」、石川県能登島町「能登島の秋祭り」、岐阜県垂井町「 (1) 垂井曳車山祭 (2) 表佐太鼓踊り (3) 伊吹祭」、愛知県豊田市「石野の振り万灯」、三重県熊野市「大森神社どぶろく祭り」、兵庫県関宮町「 (1) 別宮のお綱打ち (2) 安井の大草履つくり (3) 丹戸のお当 (4) 葛畑の庚申待ち (5) 葛畑の農村歌舞伎」、島根県五箇村「隠岐古典相撲」、岡山県新庄村「新庄盆踊り」、広島県豊町「 (1) お舟歌 (2) 伊勢節 (3) 御手洗節 (4) 盆踊り」、広島県海田町「 (1) 火ともしまつり (2) 薬師町獅子舞」、広島県倉橋町「木造船建造技術」、山口県楠町「岩戸神楽舞」、愛媛県長浜町「 (1) 豊茂五ツ鹿踊り (2) 越後獅子 (3) 獅子舞」、高知県香我美町「 (1) 若-王子宮 (1. ) 『獅子舞』 (2. ) 『お烏喰いの儀』 (2) 浅上王子宮『山北棒踊り』 (3) 土佐凧」、長崎県上県町「稲作おどり」、熊本県南関町「 (1) 小原神楽 (2) 宮尾熊野座神社岩戸神楽 (3) 肥後琵琶人形芝居」、熊本県嘉島町「六嘉の獅子舞」、熊本県菊鹿町「 (1) 相良神楽 (2) 大林神楽 (3) 太田神楽 (4) 相良雨乞い踊り (5) 木山羽熊振り (6) 阿佐古かせいどりうち」、宮崎県高千穂町「 (1) ばんば踊り (2) 鬼の目はしらかし」、宮崎県高岡町「川原田城攻め踊り」、宮崎県串間市「 (1) もぐらもち (2) 市木柱松」、宮崎県木城町「 (1) 中之又神楽 (2) 比木盆踊り」、宮崎県高城町「 (1) 有水鉦踊り (2) 石山花相撲 (3) 桜木俵踊り (4) 星原奴踊り (5) 石山香禅寺奴踊り (6) 横原奴踊り (7) 穂満坊三月十日踊り (8) イヨブシ傘踊り」