一般社団法人 地域創造

ステージラボ・アートミュージアムラボ大分セッション報告

●ステージラボ・アートミュージアムラボ大分セッション報告
 (2003年2月18日~21日)
 -アウトリーチに感動、アートミュージアムラボも活気-

 2月18日から21日までの4日間、大分県立総合文化センターで開催中のラボ大分セッション。今回から、「美術コース」を公立美術館等の職員を対象とした「アートミュージアムラボ」として独立。「ステージラボ」と合わせて「アートミュージアムラボ」を実験的に開講し、研修事業の一層の充実を図っています。今号のレターでは、2日目を終了したラボの模様を、現地から速報します。

 

●アートミュージアムラボの意義

 コーディネーターになったのは、岡山県立美術館で数々の教育普及事業を立ち上げ、現在、大原美術館のプログラムコーディネーターとして活躍されている柳沢秀行氏です。

 「開講にあたって考えたのは、地域創造のミッション(使命)が“地域の活性化”にあるということ。それで、研修のテーマを、地域の活性化に係わる教育普及活動と地域との連携事業に絞り、講師にはトップクラスの取り組みをしている学芸員と、人と人を結びつけてアートの力で地域を盛り立てているアーティストを選びました」

 ラボ前からメールで参加者と問題意識の共有を図ってきたというだけあって、初日から活発な議論が行われていました。2日目のメニューは各地の事例発表で、名古屋市美術館、平塚市美術館、福岡県立美術館の学芸員から市民や地元のアーティストと連携した取り組みが披露されました。

 「学芸員の仕事は、収集・保存・展示・研修・教育普及と多岐にわたっています。研究会もたくさんありますが、“地域の活性化”というミッションを意識したものは少ない。ようやく情報交換が始まったばかりで、このアートミュージアムラボが開講される意義は大きいと思います」(柳沢)

 

●自主事業コースを彩るアーティストのパフォーマンス

 自主事業コースの最大の特徴は、入門コース、企画・制作コースともに多彩なアーティストが講師として参加していること。パントマイマーの本多愛也、ソプラノ歌手の大森智子、ピアニストの白石光隆と中川賢一、ジャズピアニストの佐山雅弘、囃子笛方の福原徹と囃子方の藤舎円秀……。

 ほとんどのアーティストが3日間にわたって受講生とカリキュラムを共にし、最後にはセッションまで予定されています。これに選択ワークショップの講師まで加えると、ちょっとしたフェスティバル企画ができるほどで、こうしたアーティストとのネットワークがつくれるのもステージラボの大きな魅力になっています。

 2日目、入門コースでは、そのアーティストたちが小学校と養護学校に出かける「実感!アウトリーチ」が行われました。コーディネーターの能祖将夫氏は、「アウトリーチでは、本物の演奏の魅力が伝わるだけでなく、自分の好きな音楽を人に届けたいと思っているアーティストの生き様そのものが伝わる。こういう活き活きした大人に接することで、子どもたちにもそういう生き方への憧れが生まれる」と前置き。

 大分大学教育福祉科学部付属養護学校では、大森さん、白石さんが、ランチルームの畳の上に座った子どもと先生たち約100名を前に、計8曲を披露しました。

news_b.gif

 アニメのテーマ曲を楽しく合唱した後、オペラ『ラ・ボエーム』の「ムゼッタのワルツ」で初めて本物のソプラノ歌手の生声に触れた瞬間、子どもたちの気持ちがすっと大森さんに集中。「大きな人と小さな人がいるように声にも大きな声と小さな声があります。今度は小さな声で歌うので静かに聞いてみてください」と話しかけると、自然に「シーッ」という声が上がり、『アメイジング・グレイス』の歌声が会場に染みわたりました。

 手拍子で表現する子ども、「アー」と声を上げる子ども、その子どもたちの中に入って一人ずつ目を見ながら歌いかける大森さん。そこには、アウトリーチの本質とも言える音楽を届けることの感動が息づいていました。
 企画・制作コースでは、初日から地域創造の公共ホール音楽活性化事業で鍛えられた中川さんのワークショップ・パワーが炸裂。楽器の音で自己紹介したり、ピアノの即興演奏に合わせて絵を描いたりと、受講生と中川さんのコラボレーションが連打されていました。

news_a.gif

news_c.gif

●江戸時代から続く糸あやつり人形の精神に学ぶ

news_d.gif

 共通プログラムの中で興味深かったのが、江戸時代から368年続く結城座の糸あやつり人形のワークショップです。講師は、伝統をふまえた人形遣いでは唯一女性の結城千恵さん。

 「日本には2000年前から動く人形の原形があったと言われています」と、成り立ちから始まり、江戸時代の原形そのままで先人たちの“知恵の固まり”という結城座の人形の仕組みを実物で解説。

 「日本には2000年前から動く人形の原形があったと言われています」と、成り立ちから始まり、江戸時代の原形そのままで先人たちの“知恵の固まり”という結城座の人形の仕組みを実物で解説。

 このほか、ラボの定番として人気のホール入門コースでは、舞台監督や音響、照明のプランナー、制作者など現場スタッフから劇場のものをつくる仕組みを徹底的に学ぶプログラムが組まれ、真剣な眼差しで講義を受ける受講生の姿が印象的でした。

 

●ステージラボ・アートミュージアムラボ大分セッション スケジュール表

  ホール入門コース 自主事業入門コース 自主事業企画・制作コース アートミュージアムラボ
2

18

(火)
開講式・全体オリエンテーション・地域創造紹介
大分県立総合文化センター事業紹介、施設見学
「自己紹介とコミュニケーションゲーム」吉田重幸 「パジャマで自己紹介」能祖将夫 「即興で自己紹介」中川賢一、楠瀬寿賀子 「とにかくみんなで自己紹介」柳沢秀行
「Q&Aで劇場・ホールの現状を考える」桑谷哲男 「絵本ワークショップ」能祖将夫 「コンサート企画の発想~テレビの音楽番組製作者に訊く」 小林悟朗 「『公立』美術館と、教育普及について考える」 柳沢秀行
2

19

(水)
「劇場・ホールの管理運営の基礎知識」小川幹雄 「実感!アウトリーチ」本多愛也、大森智子、白石光隆 「面白邦楽」福原徹、藤舎円秀 「常設展示場の生かし方・使い方」伊藤優子
「舞台監督の仕事」三上司   「ピアノ解体新書」中川賢一 「美術館に、市民を招いて」端山聡子
共通プログラム「選択ワークショップ」(糸あやつり人形:結城千恵、パントマイム:本多愛也、音楽:小林道夫・松田淳一・後藤敏子) 「美術館に、アーティストを招いて」川浪千鶴
全体交流会
2

20

(木)
「照明ワークショップ」桑谷哲男 「実感!今、ここで創る作品─稽古」能祖将夫、本多愛也、大森智子 「企画を立てよう!」中川賢一、福原徹、藤舎円秀、楠瀬寿賀子 「美術館と、街の関わり方」菅章
「音響ワークショップ」市来邦比古 「実感!今、ここで創る作品─稽古」佐山雅弘、本多愛也、大森智子、能祖将夫 「企画を組み立てる(1) ~設備・備品の活用と進行」 楠瀬寿賀子 「美術館人と、街の関わり方」菅章、川浪千鶴
「中島みゆき『夜会』のプロデューサーに聞く」 竹中良一 「実感!今、ここで創る作品─リハーサル」 「企画を組み立てる(2) ~ちらし制作のノウハウを知る」 高橋良味 「民間人・NPOからみた『美術館、街』あるいは学芸員の使い方」ふじわらやすえ
「制作の仕事」大石時雄 「超実感!今、ここで創る作品─発表」 「企画をステージに乗せてみる~リハーサル」 中川賢一、福原徹、藤舎円秀 「アーティストからみた『美術館、街』」きむら としろう じんじん
番外ゼミ 番外ゼミ 番外ゼミ 番外ゼミ
2

21

(金)
「共同企画でプロデュース」大石時雄 「この4日間の実感から(1) 」能祖将夫、本多愛也、大森智子ほか 「11時開演!~コンサート本番」中川賢一、福原徹、藤舎円秀 「みんなでお話」柳沢秀行
「企画発表と講評」大石時雄、桑谷哲男 「この4日間の実感から(2) 」能祖将夫 「本番を終えて」中川賢一、福原徹、藤舎円秀、楠瀬寿賀子 「伝えたいこと~しょうぎ作曲を紐解く」野村誠
閉講式

 

コーディネーター
ステージラボ
【ホール入門コース】
桑谷哲男(可児市文化創造センター館長)
【自主事業入門コース】
能祖将夫((仮称)北九州芸術劇場プロデューサー、美野里町四季文化館芸術監督)
【自主事業企画・制作コース】
楠瀬寿賀子(津田ホールプロデューサー、びわ湖ホール音楽プロデューサー)
アートミュージアムラボ
柳沢秀行(大原美術館プログラムコーディネーター・学芸員)

 

ステージラボ・アートミュージアムラボに関する問い合わせ
地域創造芸術環境部
齋藤・小澤・鈴木・福井
Tel. 03-5573-4067

カテゴリー

ホーム出版物・調査報告等地域創造レター地域創造レターバックナンバー2002年度地域創造レター3月号-No.95ステージラボ・アートミュージアムラボ大分セッション報告