『世界は日の出を待っている』の演奏が華やかに始まると、宮川泰氏がステージに登場。しかし指揮台には上がらず、手を振りながらそのまま退場? と思いきや、あわてて戻りタクトを振り出した─。
12月1日、島根県民会館大ホールで行われた「しまねポップスオーケストラ第1回演奏会~宮川泰としまねポップスオーケストラが奏でる音楽バラエティ」は、オープニングから観客をぐっとつかむ心にくい演出で幕を開けた。
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管・弦に加えてピアノ、シンセサイザー、ギター、ベース、ドラムス、ハープという編成で総勢60名。アマチュアでは全国的に珍しいポップスオーケストラが結成されたのは、島根発のオリジナルミュージカル『ビリーブ・イン・ミー』がきっかけだった。
島根県民会館では、94年に島根県教育委員会と市町村の共催で制作された市民参加の創作ミュージカル『あいと地球と競売人』をリメイクし、95年から会館の事業として上演。そして99年、レパートリーを増やそうと「21世紀に伝えたいこと」をテーマに全国から作品を募り、大賞受賞作をもとに『ビリーブ・イン・ミー』をプロデュース、2001年3月に公演を行った。その作曲を担当し、伴奏オーケストラを指導したのが宮川氏であり、2002年2月の再演後、オーケストラ団員から「いつかはステージに上がって宮川先生の指揮で演奏を」との声が自然に上がったのだという。
「多くのメンバーが、テレビの『宇宙戦艦ヤマト』を見て育った世代。アニメの音楽をフルオーケストラに編曲した『交響楽宇宙戦艦ヤマト』は、当時、とても斬新で画期的でした。みんなで『ヤマト』が演奏できたら最高、と言っていたんです」と話すのは、『ビリーブ・イン・ミー』の音楽監督で、今回のコンサートの実行委員長を務めた今岡正治さん。今岡さんは2002年6月に東京で開かれた宮川氏と日本フィルハーモニー交響楽団の公演に足を運び、バラエティーに富んだプログラムや観客の反応、客層の広さに刺激を受けた、という。「クラシックだけだと堅苦しいイメージが抜けませんが、このときは演奏者も観客も、とにかくみんな楽しそうだった。よし、これを島根でもやろう、と思いました」
その後すぐ宮川氏に要請し、8月には演目が決定。9月から本格的な練習がスタート、わずか数カ月でデビューコンサートとなった。
宮川泰氏は「これまでたくさんのアマチュアのオーケストラと関わってきましたが、これだけの実力があるところは初めて。みんな黙々と練習する。その熱意に打たれました」と言う。
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第1部では今岡さんの指揮でポール・モーリアメドレーや、『ビリーブ・イン・ミー』のナンバーを演奏。第2部は「It's a ミヤガワ・ワールド」と題し、クラシックの名旋律とおなじみの曲を比較して楽しむメドレー『宮川狂騒曲』などが宮川氏の軽妙なトークとともに披露された。そしてラストは『組曲「宇宙戦艦ヤマト」』。ゲストボーカリストも加わっての2時間のステージ。宮川氏のアドリブに戸惑ったり、応酬したりしながら演奏する団員の表情はみな生き生きしていた。
「終了後のアンケートでは、『音楽ってこんなに楽しいものだったんだ』という声が圧倒的でした。宮川先生からは『しまねポップスオケのテーマソングを作曲しよう』と言っていただきましたし、今後はプログラムにもっと島根県らしいものを取り入れていこう、と盛り上がっています」(島根県文化振興財団・久保田孝さん)
ミュージカルの“裏方”だけでなく、もっと主体的に活動したい。そんなメンバーのストレートな思いから発足したポップスオーケストラ。県内のホールや学校などにも積極的に出かけ、演奏したいという。県民に愛されるオーケストラに成長していきそうだ。
(土屋典子)
●しまねポップスオーケストラ第1回演奏会「宮川泰としまねポップスオーケストラが奏でる音楽バラエティ」
[主催]しまねポップスオーケストラ実行委員会
[日程]12月1日
[会場]島根県民会館 大ホール
地域創造レター 今月のレポート
2003.1月号--No.93