地域創造が埼玉県芸術文化振興財団との共同主催により平成9年度から実施している「ステージクラフト~舞台技術ワークショップ」。本年度の事業は11月5日から8日の4日間、彩の国さいたま芸術劇場を会場に開催され、全国から34名の受講者が集まり、舞台、照明、音響の3班に分かれてワークショップに取り組みました。
この事業の最大の特徴は、本物の公演の裏方を体験しながら舞台技術の基礎を学ぶところにあります。彩の国さいたま芸術劇場が、技術スタッフの研鑽と創作活動を目的に年1回実施しているプロデュース公演を実地研修の場として提供。その公演の演出家、音響・照明・美術プランナーや劇場の技術スタッフが指導者(インストラクター)となり、研修が行われます。
本年度の舞台となったのは、竹内銃一郎演出による『21世紀グリムIII~あらたま』。竹内私塾に集った若手劇作家がグリム童話をモチーフにして書いた短編を構成する『21世紀グリム』シリーズは、シリーズ第1弾からクラフトの研修作品になっている歴代の受講生にとっても思い出深いものです。
今回の作品は、新しくなることを意味する“あらたま”をテーマに「楽園を約束する神の小指を探し続ける子どもたち」「幻のぶんぶん鳥の誕生を待ち続ける少女」など、新たな旅立ちができないまま満たされない思いを抱き続ける人々の4話のオムニバス。研修プログラムでは、最初にプランナーから作品についての解説を受けた後、早速、担当ごとにテクニカルトレーニングと本番準備に取りかかりました。
このシリーズでは、本物の水を使った川など、テーマを表現するシンボリックな舞台美術が登場しますが、これが裏方で参加する受講生達の悩みの種になってきました。今回は“あらたま”を象徴した七色に輝く(もちろん照明で変化させるのですが・・・)巨大卵が場面に応じて移動。手動で動かす巨大ベルトコンベアも登場するなど、スタッフ全員に絶妙のタイミングが要求される作業ばかりで本番は緊張の連続でした。
反省会では、「これだけ短い研修期間で大過なく本番を終えられたのは素晴らしいこと。オペレーションを間違ってあわてて訂正したところもあったが、そういう時はそのままにしておけばお客さんにはわからない。カフカが“あらゆる過ちの根源は焦りである”と言っているが、あわてないことが最も大切なことだ」など、インストラクターからの厳しくも思いやり溢れた寸評が続きました。
受講生たちのコメントからは、「事業の企画制作担当なので裏方のことはほとんど知らなかった。今回参加してみんなで一つの舞台をつくるという、つくり手の心意気を初めて実感した」「本番の前の日は夢に見るほど緊張した。これまでは失敗しても“あっ、ゴメン”で流していたが、作業のひとつひとつに意味がある、無駄な照明はひとつもない、と言われて自分の甘さに気づいた」「本当に勉強になった。うちのホールでも舞台体験型の事業を企画したい」など、ものづくりの姿勢に目覚めた興奮が伝わってきました。
『21世紀グリムIII~あらたま』は埼玉県内2カ所で初の外部公演が行われることになっていますが、来年度からはより積極的に地域公演を企画していきたいとのことで、クラフトで生まれたネットワークの新たな展開として期待されます。
●「ステージクラフト~舞台技術ワークショップ」に関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 園田・齋藤・鈴木 Tel. 03-5573-4066