一般社団法人 地域創造

平成14年度公共ホール音楽活性化事業中間報告

 -5年目を迎え、絵とのコラボレーションなどアクティビティも多彩に-

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 本年度の「公共ホール音楽活性化事業」は、全国17地域の参加で行われていますが、10月末現在で6地域での多彩なアクティビティ&コンサートが終了しました。5年目を迎えて、演奏家にアクティビティについての理解が深まってきたこともあり、演奏家からの提案が企画に活かされるケースも増えてきました。今号は、前半を終え、特に印象に残っている取り組みとして、ピアニストで作曲家の中川賢一さんの協力により滋賀県安土町の文芸セミナリヨで実施された企画をご紹介したいと思います。

 

●「この夏はPianoがおもしろい!」

 安土町は滋賀県のほぼ中央、琵琶湖の東に位置する人口約1万2000人の、織田信長によって拓かれた城下町です。文芸セミナリヨはパイプオルガンを備えた380席の小ホールで1994年に開館。信長時代に開校されていたキリスト教の神学校「セミナリヨ」が名前の由来になっています。
 セミナリヨでは子どもを対象にした発表会「こども演奏フェスティバル」を開催してきました。昨年、通算10回を数えたのを機に、子どもを対象にした新たな事業を展開したいと、公共ホール音楽活性化事業に参加しました。
 セミナリヨが企画した「この夏はPianoがおもしろい!」は、独自事業の「こども演奏フェスティバル」と音楽活性化事業の「ピアノのワークショップ」「中川賢一ピアノリサイタル」を組み合わせたものです。ワークショップ、リサイタルともに演奏家が積極的に企画づくりに参加したのが特徴で、中川さんのアイデアを実現するため、会館の大林宏事務局長から担当者までが一丸となってバックアップし、大成功となりました。

 

●ピアノと創作の秘密に迫る

 「ピアノのワークショップ」に参加したのは公募で集まった小中学生計46名と飛び入りの幼児たち。2日間に分けてホールの舞台上で各2時間ずつのワークショップが行われました。
 「ピアノのひみつ!」と題した前半は、何と会館所有の本物のピアノを解体(!)してしまうというもの。現代音楽家でもある中川さんは、内部奏法などの特殊な演奏を行うため楽器の構造には人一倍詳しいとはいえ、会館の理解と信頼がなければとても実現できない企画でした。

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 サティとドビュッシーの演奏に続いて、中川さんは担当者と3人がかりで早速グランドピアノの解体をスタート。「これが鍵盤、これがハンマー…」と、目の前で見慣れた楽器が見たこともない姿に解体されていく様子に子どもたちは目を輝かせていました。
 後半は、アーティストの本領発揮とも言える創作ワークショップ。「ピアノを触ったこともない子どもでも創作はできるし、創作としてすべてのアートがリンクしていることをわかってもらいたかった」という中川さんのアイデアで、楽譜や音階を一切用いない作曲や絵を用いた即興演奏など刺激的な取り組みが行われました。
 鍵盤に4色の付箋を張り、子どもたちがアットランダムに選ぶ4色のカードの組み合せでつくった曲や声の組み合せでつくった曲に、中川さんの演奏を合わせて参加型創作曲『安土組曲I』を完成。

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 また、絵をつかった即興演奏では、好きな色の絵の具を垂らした子どもたちの「抽象画」に合わせて中川さんが即興演奏したり、逆に即興演奏に合わせて子どもたちが墨絵を描いたりと、絵と曲のコラボレーションを満喫しました。ここでもステージ上での墨絵づくりができるよう、会館が全面協力。
 事業担当の城奈緒美さんは、「中川さんのアイデアを“面白いやん”と楽しんでやったら、みなさんに驚かれて。エーッ、そんなにヤバかったのって感じです(笑)。アーティストが楽しんでいることはホールの職員にとっても面白いし、何より参加した子どもが一番楽しいはずと信じてました。ただ、子どもは瞬間的に興奮しても結構忘れてしまうので、これから継続していくことが大切だと思います」と振り返っていました。

 

●参加型のリサイタルも好評

 集大成のコンサートも参加型のアイデアが一杯でした。8月25日、リサイタル当日。ロビーにはA3用紙十数枚を繋いだ巨大五線譜が準備され、来場者が音符や音符代わりの言葉を自由に記入。コンサートの中でそれを実際に演奏すると聞いてみんな半信半疑でした。
 「今、一番聞かせたいと思っている曲目をプログラムしてください」との会館のリクエストに応え、ワークショップでつくった水墨画のタペストリーをバックに、中川さんがジョン・ケージの『無音』(ピアニストがピアノの前に座っているだけの曲)や一柳慧のミニマル・ミュージック、CDと生ピアノのコラボレーションなど難解といわれる現代音楽を次々に演奏。子どもたちやお年寄りは未知の音楽体験に逆に興味津々の様子でした。
 フィナーレの『安土組曲II』では、声の組み合わせや、巨大五線譜演奏で会場のお客さんも参加して新たに曲づくり。ラスト、中川さんの合図に合わせてみんなが折った真っ白い紙飛行機を飛ばすと、ホールの中をゆっくりと風が舞うように飛行し、本当に美しい感動のシーンとなりました。事務局長が自ら折り方を研究したとのことで、こうした参加館全体で企画を楽しみながら取り組んだ雰囲気が、今回の一番の成功要因だったのではないでしょうか。

 

●中川賢一ピアノワークショップ

時間 内容 詳細
11:00 ピアノの演奏と挨拶  
11:10 ピアノを分解!
(音の出る仕組み)
ピアノを分解。鍵盤を取り出し机に移動
アクション模型を使って音の出る仕組みを説明
子どもたちが弦になったつもりでハンマーの上に手をかざし、中川さんが鍵盤を叩く(→弦の強さを体験)
11:20 響板の役割
(響板の中の音を聞く)
響板・フレームをマレットで叩く
響板の下に潜り、下から響板を叩くなど
11:30 震える弦
(震動を感じる)
(音の出ている)弦に触ってみる
弦の上にピンポン玉を乗せ、思い切り鍵盤を叩くとピンポン玉が弾ける
鍵盤の不思議 鍵盤にビー玉を乗せて弾いてみる→決して玉が落ちない→鍵盤が本体
に向かって傾いていることを証明
11:40 場所によって違う
音の響き
ピアノの下、左右、奥に立ち、音の違いを聞き比べる
蓋が音の方向性を決めていることを体感
中川さんと連弾 「ドドド」「ドレドレ」など子どもたちが出す音に中川さんが伴奏を付ける
11:55 マーチで歩こう! 中川さんの演奏する曲にあわせ、舞台上を自由に行進
12:00~13:00 休憩
13:00 メロディーをつくろう 鍵盤のドレミファに4色の付箋を貼り、同じ色の4枚のカードをトランプの要領で子どもに切ってもらう
4音の組み合わせでメロディーをつくる(計4人4小節)
中川さんが和音を付け、曲(1)を完成
和音をつくろう 1オクターブの鍵盤の中から、自由に3音または4音を選んでもらい、和音をつくる(1人3和音×4人)
中川さんがメロディーを付け、曲(2)を完成
声とささやき作曲 4班に分かれ、「しっ」「くっ」「ぷー」「あ~」といった4種類の声の組み合わせで曲をつくる
ミニマル音楽をつくろう 鍵盤に赤青黄のシールを貼る(各色ごとに和音になる音)
4人の子どもに鍵盤の前に並んでもらい、中川さんの指示する色(赤青黄の風船を掲げて指示)を自由な早さで叩いてもらう
『安土組曲I』 中川さんの演奏する曲(1)(2)に、子どもたちが参加する「声で作曲」「ミニマル音楽」を組み合わせた「安土組曲I」の演奏
13:25 みんなの絵に曲を付ける 子どもが描いてきた絵に中川さんが1枚1枚、即興演奏で曲を付ける
13:40 ピアノに合わせて
墨絵を描こう
子どもたちが中川さんの即興演奏に合わせて自由に墨絵を描く
(1)半紙(1人1枚)
(2)模造紙(2人1枚)
(3)全員で大きな紙(模造紙10枚分)に一斉に描く

 

●「この夏はPianoがおもしろい!」概要
◎第11回こども演奏フェスティバル・オーディション
◎ピアノのワークショップ
[日程]8月1日、2日
[ワークショップ講師]中川賢一
◎第11回こども演奏フェスティバル
[出演]オーディションに合格した子どもたち
[講評]中川賢一
◎中川賢一ピアノリサイタル
[日程]8月25日
※こども演奏フェスティバルは文芸セミナリヨの独自事業。会場は全て文芸セミナリヨ。

 

●平成14年度公共ホール音楽活性化事業日程
・滋賀県安土町(8月1日、2日、25日)
・兵庫県西脇市(9月6日~8日)
・青森県六ヶ所村(9月26日~28日)
・北海道苫前町(10月10日~12日)
・岡山県井原市(10月11日~13日)
・岐阜県関ヶ原町(10月17日、18日、26日)
・福岡県大牟田市(11月8日~10日、29日)
・新潟県見附市(11月12日、13日、12月1日)
・和歌山県清水町(11月14日~16日)
・山梨県河口湖町(11月21日~24日)
・徳島県山川町(11月29日~12月1日)
・茨城県水海道市(12月6日、7日、21日)
・宮城県登米郡(12月18日、19日、2003年1月26日)
・福島県東村(12月24日、25日、2003年1月19日)
・鹿児島県知名町(2003年3月5日~8日)

 

●平成14・15年度登録アーティスト
田村緑(ピアノ)、中川賢一(ピアノ)、礒絵里子(ヴァイオリン)、唐津健(チェロ)、神代修(トランペット)、竹内直子(ハーモニカ)、浜まゆみ(マリンバ)、大森智子(ソプラノ)、薗田真木子(ソプラノ)、羽山晃生(テノール)

 

●公共ホール音楽活性化事業に関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 小澤・宮地
Tel. 03-5573-4074

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