-「アジア舞台芸術祭2002東京」との共同開催で国際色豊かに-
●国際色、地域色豊かなブース部門
今回の芸術見本市は、「アジア舞台芸術祭2002東京」との共同開催となり、これまでにも増して国際色豊かな催しとなりました。会期中、会場となった東京国際フォーラムの中庭には、アジア料理の屋台が並び、大道芸が登場するなどお祭り気分を演出。また、ブース会場の周囲では、邦楽器を一堂に集めた体験型の見本市「日本の音フェスティバル」が提携事業として無料開催されたこともあり、夏休みの親子連れと舞台関係者が入り交じった賑やかな会場風景となりました。
ブース部門には、「アジア舞台芸術祭2002東京」の主催団体である「アジア大都市ネットワーク21」の参加都市(北京、デリー、ハノイ、クアラルンプール、マニラ、ソウル、台北)が揃って出展。ソウル・ブースの広報担当で、(財)世宗文化會館芸術団支援チーム・マーケティング担当の徐智恵(リ・ジヘ)さんは、「これほど活発な交流があるとは予想していなかったので驚いた。これまでの日韓の文化交流はマネージメント会社を通したものが多かったが、こうした見本市を通してフリンジに至るまでの直接交流が実現できるのではないだろうか」と、高く評価していました。
このほか、小劇場演劇の制作者を支援するウェブサイト「fringe」が出展し、サイト上で公募した地域の小劇場20劇団を紹介したり、ダンスと社会を結ぶネットワーク型のNPO「Japan Contemporary Dance Network」が松山コミュニティホールと共同作業をしているダンスグループ「yummy dance」などを取り上げて紹介するなど、ネットワークによる情報発信に地域性が見られたのが新鮮でした。
「ブース出展者には、公演を売り込みたいところと、僕らみたいに存在自体を知ってもらいたいところがある。うちの場合は資料も関係者用と一般用の2種類を準備していて、できれば通りがかりの人にも情報を発信できる無料のゾーンがあればよかった」とfringe代表の荻野達也さん。こうした要望も見本市での情報発信に期待する現れと言えるのではないでしょうか。
●「アートアプローチセミナー」も同時開催
今回の芸術見本市では、地域創造と全国公立文化施設協会が共催で行った「文化が地域をつくる」、「これからの公共ホール・求められる公共ホール」、「地域の資源と文化の新たな出会い」をはじめ、関連団体、主催団体の企画で計17のセミナー、シンポジウムが開かれました。
地域創造では、見本市と合わせて8月19日、20日に「アートアプローチセミナー」(地方自治体の財政・企画担当部局の幹部向け研修)を実施しました。研修プログラムには、佐渡裕&シエナ・ウインド・オーケストラ稽古見学や河合隼雄氏(文化庁長官)、佐渡裕氏(指揮者)、川淵三郎氏(日本サッカー協会会長)によるシンポジウム「音楽文化の発展とボランティア活動」((社)日本クラシック音楽事業協会主催)など見本市関連企画が組み込まれ、いつにも増して充実した内容となりました。
川淵会長は、「地域の人々の助けを借りてクラブを運営するのはJリーグの理念」と語り、鹿島アントラーズのボランティアが“お客様に不快感を与えない”“鹿島アントラーズにとってマイナスにならない”“スタッフとしての自覚を持つ”という基本姿勢で大成功したエピソードを紹介。それを受けて、河合文化庁長官が「役に立つことをやろうと思う人はやらんでもええことをやる。最初からマイナスになることはやらないという黒子の発想があったところが偉い」と言うと、会場からは思わず賛同の笑い声が上がっていました。途中、長官と佐渡氏によるフルート合奏が披露されるなど、終始、和やかなシンポジウムとなりました。
このほか、見本市において行われた「REAL」と題したショーケースでは、現代美術のキュレーターである東谷隆司氏がジャンルを越えて過激なパフォーマンスを行うアーティストを選抜。日常の象徴である蛍光灯を暗闇で暴力的に点滅し、まるでマシンガンのように光りと爆音を発射する伊東篤宏など、はじめて触れる表現の数々に観客は息を飲んでいました。
●遠藤安彦(地域創造理事長)発言要旨~シンポジウム「文化が地域をつくる」より
地方行政と芸術文化の観点から、現状と今後の問題点について提言したい。地域創造の悉皆調査によると、平成11年度で全国に約2600館の公立ホールがあった。施設がたくさんあるから文化振興をするという考え方もあるが、私はそれは違うと思っている。最近の傾向を見ると、これまで教育委員会が所管することの多かった文化施設を市長部局、知事部局で所管するところが増えている。
先日、群馬県知事にお会いした時に「今度、地域創造課をつくったのでよろしく」と挨拶されたように、現在では、文化行政は知事や市町村長の直轄で行う傾向にある。それはなぜか。興味のある首長がおられるのも理由のひとつだが、私は、市民が首長のリーダーシップで文化行政をやってほしいと思っていることの顕れだと捉えている。つまり、首長の態度の変化は市民の意志の反映に他ならないのだ。
経済大国になり、所得も増え、自由時間も増大する中で、人間はみんな同じではなく、個性も違えば、考えていることも違うという、多様性を表に出せる時代になった。そういう市民の多様な感情(感動)を求めるニーズが、首長を動かしているように思う。感動というのは芸術文化に限ったことではなく、旅行での出会いやワールドカップも同じだが、旧来の体制ではこうした感動を求めるニーズに対応することができず、首長自らが乗りださなければならなくなったのではないだろうか。
実は、全国にこれだけ多くの文化施設が建設されたのには、私にも責任の一端がある。自治体が自主的、自立的に地域づくりができるようにとの発想で、補助金ではなく自分たちの財源で事業が実施できる「地域づくり債」という制度を立ち上げた。これによって都市基盤整備をしてほしかったが、その結果、全国にハコモノと言われる施設が生まれることになり、そこでソフトの支援を目的とする地域創造をつくった経緯がある。芸術文化振興は民間が担えばいいという考え方もあるが、地域住民を対象にした場合、公共団体としてやるべきことが必ずあるはずだ。幸いにしてハードは整備されているのだから、これからはソフトを充実させて、いかに地域住民に貢献していくかを考えていくべきではないだろうか。
これだけ地方分権が定着してくると、歴史の流れをみてもこのままで終わるとは考えられない。中央も地域も財政難で今までと同じ行政システムで運営していくことは不可能になっている。これからは、それぞれの地域でどうすべきかを独自判断し、地域の特性にあった行政を展開していくことになる。その中で、今や環境行政が極めて重要になっているのと同じように、文化行政が非常に重要な地位を占めることになるのは間違いない。加えて、合併という地域の将来を左右する大きな流れがある。こうしたことをすべて含めて、地域の人たちが話し合いながら新しい地域像をつくっていかなければならない時代になっている。微力ながら、地域創造もできうる限りのご協力をしていければと考えている。
●「芸術見本市2002東京」概要
[会期]2002年8月19日~21日
[会場]東京国際フォーラム
[主催]芸術見本市2002東京実行委員会(財団法人地域創造、国際交流基金、国際舞台芸術交流センター)
[出展登録団体数]103団体
[総参加者数]4日間延べ22,750人
●「芸術見本市2002東京」地域創造・公文協共催シンポジウム
◎シンポジウム「文化が地域をつくる」
[日時]8月19日
[パネリスト(五十音順)]遠藤安彦(財団法人地域創造理事長)、三善晃(社団法人全国公立文化施設協会会長)、山折哲雄(国際日本文化研究センター所長)
[司会]熊倉純子(東京芸術大学助教授)
◎公共ホール幹部向け企画「これからの公共ホール・求められる公共ホール」
[日時]8月20日
[パネリスト(五十音順)]川本雄三(熊本県立劇場館長)、榊原均(神戸アートビレッジセンター館長)、滑川進(社団法人全国公立文化施設協会芸術情報プラザアドバイザー)、細川紀彦(金沢市民芸術村村長)
[司会]津村卓(地域創造プロデューサー)
◎公共ホール担当者向けシンポジウム「地域の資源と文化の新たな出会い~これからの事業展開を考える」
[日時]8月20日
[パネリスト(五十音順)]篠田信子(ふらの演劇工房理事長)、照屋幹夫(沖縄市経済文化部文化振興課課長補佐 前市民小劇場あしびなー担当)、松田正弘(淨るりシアタープロデューサー)、米田誠司(由布院観光総合事務所事務局長)
[コーディネーター]坪池栄子(文化科学研究所研究プロデューサー)
●地域創造主催シンポジウムに関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 大坪・碇・園田
Tel. 03-5573-4064
●アートアプローチセミナーに関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 鈴木・齋藤・福井
Tel. 03-5573-4076