一般社団法人 地域創造

仙台市 「せんだい演劇工房10-BOX 『笑笑(わらわら)24~笑って笑って24時間~』」

  仙台市の東部、倉庫が建ち並ぶ卸町が久しぶりに若者の熱気に包まれたのは6月29日のことだった。かつてこの町は、3万人からの若者が働く労働者の街だった。けれどここ数年、若年労働者はめっきり減少。かつて勤労青少年ホームとして活躍した建物もその使命を終え、約1年間の準備期間を経て「せんだい演劇工房10-Box」として生まれ変わった。
 この夜は、そのオープニング・イベント。東北最大級お笑い博覧会と銘打って、地元の若手芸人が舞台にあがり、10代~20代の観客が客席を埋めた。敷地内でのフリーマーケットや屋台等、にぎやかなパフォーマンスも展開された。
 館には大小9つの練習場がある。各部屋とも天井まで4メートル、床にはコンパネが敷かれ、入り口も広く取られている。約80名収容の階段状のいす席があり照明や音響も劇場同様の大部屋。本読み用の小部屋。立ち稽古ができる中部屋。大道具や小道具製作ができる部屋(ベニヤ1枚を立てたままで切れるパネルソーや洗濯機もある)。さらに資料室等、演劇人の使い勝手が十分に考慮された構成だ。
 その誕生の由来を工房長の熊谷盛氏と(財)仙台市市民文化事業団の八巻寿文氏に聞いた。
「きっかけは1986年に市内にエルパークという劇場ができた時にそこの裏方スタッフを養成する講座を開いたことに起因すると思います」(八)「もともと劇団が多い(市内に約80劇団)街ではあったんですが、交流はあまりなかったんです。ところがその講座で照明、音響、装置の勉強をした人たちがいろいろな劇団の裏方をやってくれて、劇団同志が仲良くなっていったんです」(熊)
 その動きが6年前、市民の役者を集めて宮田慶子(青年座)らプロが演出するシアター・ムーブメント(劇都)事業に繋がった。演劇人フォーラムもできた。それが劇団の稽古環境の改善という声にまとまる契機となった。
「今までは公共の施設は夜9時30分までしか借りられないし、夜中に大道具製作なんて煩くてできません。せめて地下鉄が動いている時間までは心置きなく稽古や叩きができる場所が欲しいという要望を市に出しました」(熊)「その要望が市にあがった時期と、この勤労青少年ホームが次の使命を探しているという時期が重なったんです。行政の中で2つの部署から手が上がりました」(八)
 手を挙げたのは、演劇の稽古場を求める文化振興課と、知的障害者施設「のぞみ苑」の移転先を求める障害企画課だった。結果、この両者はこの敷地を共有することになった。
 開館に際しては、文化振興課、事業団、東北大学建築計画研究室の三者が数回にわたって工房建築と運営のワークショップを重ねた。新設される稽古場棟の使い勝手をよくするために演劇人の意見が取り入れられ、運営にも公演前の劇団の連続利用、決まった曜日に稽古できる定期利用、22時以降の深夜の延長利用等々、さまざまな工夫が施された。
 さらに着目すべきは、準備室の段階で金沢の芸術村や名古屋の稽古場等、全国の練習場施設の運営方法と実体を研究し、よりよい展開を目指したことだ。例えば工房長の熊谷氏は劇団麦の代表者だが、市民ディレクターは置かずに事業団のスタッフが専任で当たる。市民は運営協力団体というサークルをつくって、そこから毎日2名ほど事務所に詰めて運営を手伝う。利用者は調整会議を開いて互いの便宜を図り、少しでも多くの劇団が稽古できるようにする。
 もちろん、課題も多い。
「のぞみ苑とも協働で芝居づくりを考えたい」(熊)「市からは一定の予算以外は独立採算を求められている」(八)「停滞している観劇人口を増やす取組みもしていきたい」(熊)
 工房の精神的な支えになっているのは、延べ3000人にも及ぶ裏方養成講座のOBたちの存在だという。かつてない経緯で生まれた施設だけに、これからの展開に期待は高まる。

(ノンフィクションライター・神山典士)

「笑笑(わらわら)24~笑って笑って24時間~」
[日程]6月29日、30日[主催](財)仙台市市民文化事業団

 

せんだい演劇工房10―BOX
[オープン日]2002年6月1日
[所在地]〒984-0015 仙台市若林区卸町2-12-9 Tel. 022-782-7510
[設置者]仙台市
[運営者](財)仙台市市民文化事業団
[施設概要]大練習場(214.2m2)、中練習場(音響・照明あり、129.6m2)、小練習場3室、ウォーミング・アップ室、作業場・工房、倉庫

 

地域創造レター 今月のレポート
      2002.8月号--No.88

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