一般社団法人 地域創造

石川県金沢市 「金沢市民芸術村 『石川の石を彫ろう!』」

  6月2日、金沢市民芸術村の一角。木立と芝生のある前庭で「石川の石を彫ろう!」は行われていた。1メートル四方の大きな石や腰掛けほどの石がいくつも無造作に置かれ、ゴーグルにタオルで武装した参加者たちが石と向き合いながら、乾いた音を立てて削っていた。
 「みんなここに来るとほっとするみたいです。日常の煩わしいことから離れて、自分の気持ちを取り戻す場になっている。刃物を使う緊張感があるから逆に無心になれるんでしょうね」と、アドバイザーとしてスタート時から関わっている彫刻家の作内宣夫さんは言う。
 「石川の石を彫ろう!」は、石川県が「戸室石」など比較的加工しやすい柔らかい石の産地であることから、市民に石彫の楽しさを知ってもらおうと、金沢市民芸術村アート工房アクションプラン(*)のひとつとして1998年から取り組んでいる事業だ。6月から10月まで(今年は5月から)、石工さんによる講習会や彫刻家有志7名によるアドバイス(毎週土・日)を受けながら、参加者は24時間毎日、好きな石でどんな作品でも自由に彫ることができる。10月には完成作品を披露する「無名の彫刻家展」も行われる。
 「芸術村のオープニング企画で黒御影石のモニュメントを公開制作した時に、子どもの石彫ワークショップをやったのがきっかけ。画家や陶芸家は、カルチャーセンターなどで一般の人にその楽しさを伝える場をもっていますが、石彫にはない。石材組合でも営利でお客さんと接点を持つだけではなく、もっと石のことを知ってもらいたいと考えていて、協力してやろうということになりました。作家と職人が交流するようになり、お互いの仕事を再発見する場にもなっています」(作内)
 40名からスタートし、5年目の今年は参加者が100名を越えそうで、昨年並みだと4割がリピーター。小学生から最高齢81歳まで、猫や石の植木鉢ばかり彫る人、干支を順番に彫る人、オブジェにチャレンジする人等々、年齢も作品内容もいろいろだ。
 「まさか自分が石を削るなんて思ってもいなかった。石の前でボーっとしているだけでストレス解消になるし、何より自分のペースでできるのがいい。石は何もしないで置いておくだけで様になるし、手を加えれば加えるほど発展していくのが楽しい。道具ですか? 自前で揃えました。いつでも彫れるように車のトランクに積んであります(笑)」(46歳・久保幾代さん)
 「親兄妹が務めていた大和紡績跡地が芸術村になったというので、懐かしくて来てみたら石彫をやっていた。気長にやれて癒しになっています」(72歳・大畑豊さん)
 仲間づくりというのではなく、石と向き合う(自分と向き合う)時間を求めるこうした参加者の言葉は「作家」の姿勢に通じるものがある。市民の自主管理という芸術村の取り組みが、こうした作家性を育んでいるのだと改めて感じた。
 余談になるが、取材に行った日には、アンサンブル金沢の日本音楽家ユニオンオーケストラ協議会加盟演奏家たちが芸術村と共催で年に1回の「無料ふだん着ティータイムコンサート」を開いていた。普段着の演奏家が手作りのクッキーや飲み物を振る舞いながら市民と触れ合う企画だ。アート工房ではボランティアによる「しゃぼん玉ワークショップ」も行われていた。ちょっと立ち寄っただけで、これだけの取り組みが市民の手で行われていることに驚かされる。
 「アート工房では市民ディレクター2人がさまざまなアクションプランを実施しています。市民がもっと運営に参加してくれるといいのですが、なかなかそこまではいかない。でも美大生を中心にしたボランティアも少しずつ育ってきています」と、昨年から2代目ディレクターに就任した南淳史さん。
 市民の自主管理という重責を果たす人がいるからこそ市民作家が育つ土壌が生まれる、そんな思いを強くした取材だった。

(坪池栄子)

(*)アクションプラン
市民の自主管理により企画・運営されている事業。年間5~6本の企画展、アートアドバイスデーと名付けた大人向けワークショップ、大工さんなどから寄木や日干しレンガのつくり方を学びながら子どもたちが基地をつくるプロジェクト(5年計画)などがある。

 

「石川の石を彫ろう! 2002」
[場所]金沢市民芸術村 野外石彫場
[制作期間]5月11日~10月26日
[主催]金沢市民芸術村アクションプラン実行委員会

 

地域創造レター 今月のレポート
     2002.7月号--No.87

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