一般社団法人 地域創造

第2回地域伝統芸能まつり

●応募者が殺到、10時間の大イベントを堪能

 

 昨年に引き続き、全国の伝統芸能、古典芸能、民俗芸能が一堂に会する「第2回地域伝統芸能まつり」が3月30日、31日の両日、東京・渋谷のNHKホールで賑々しく開催されました。
 この催しは、財団法人地域創造が、失われつつある各地の伝統芸術等を映像により記録・保存することを目的にスタートした「地域伝統芸術等保存事業」の一環として行われているものです。全国の芸能継承者の方々に発表の場を提供するとともに、イベントやテレビ放送を通じて、その素晴らしさを再認識していただき、芸能による地域づくりの向上を目指しています。
 2回目となる今年は、「恋(こひ)」をテーマにした演目が結集。2日間合わせた公演時間が10時間を超え(!)、総出演者数695人という大イベントで、東京に居ながらにして地域やジャンルを横断した芸能がガイドブック的に見られるとあって、鑑賞希望者が殺到。応募総数約4万人から選ばれた約6000人がバラエティに富んだプログラムを堪能しました。

 

 

●ヤマタノオロチの立ち回りに拍手

 和洋混交のロックバンド「六三四」のテーマ曲『曼陀羅21序章』(宇崎竜童作曲)で華やかにオープニングを飾った後、神々のふるさとである島根県から「石見神楽」が登場。石見神楽は、明治以降に大衆化し、今ではその娯楽性の高い演出で地域の観光資源としても人気を集めています。現在、活動している130社中から、今回は小学2年生から60歳までの選抜チームが十八番の『大蛇』を披露しました。
『大蛇』はスサノオノミコトが放浪の旅の途中で出雲の国の奇稲田姫を助けるため八岐大蛇を退治するという神話もの。八つの頭をもつ巨大大蛇が白煙を吐きながら群舞する派手な演出に会場からは盛んに拍手が送られていました。

news4.jpg
越中おわら節(富山県八尾町)
news5.jpg
岩見神楽「大蛇」(島根県益田市)

  続いて登場したのが、山形県櫛引町で春日神社の神事能として500年にわたり氏子によって伝承されてきた「黒川能」です。その紹介役として登場したのが、元NHKアナウンサーで熊本県立劇場の館長を務めたこともある鈴木健二氏。「熊本県内98市町村を回ったときに目にしたのはすさまじい過疎の現実でした。伝承芸能のあるところは子どもたちに懸命に伝えようとしていましたが、このままだと過疎のために次々に消えてしまうと思いました。この催しを通してぜひ日本の芸能の素晴らしさを知っていただき、伝えていただければ」と、館長時代の経験を交えながら熱烈にアピールする一幕もありました。
 このほか、北海道内にある17のアイヌ文化保存会が参加した北海道ウタリ協会によるアイヌ古式舞踊も印象深い内容でした。鶴やバッタといった動物の所作を取り入れた踊り、女性が男性を取り合う踊り、「村の女の子が自分の居場所を恋人に知らせるために吹いた」というロマンチックな楽器ムックリ(口琴)の演奏が次々と登場。この世では人間(アイヌ)と自然(神々)がともに助け合って暮らしているというアイヌの世界観とその大らかさが伝わってくる心安らぐ時間となりました。

 

●野球界を風刺?! 「クローン人間ナマシマ」

 昨年に引き続き、今回も注目を集めたのが地域伝統芸能まつり実行委員会会長でもある梅原猛氏による新作狂言です。「狂言は風刺の笑い。室町時代に全盛だった風刺の笑いを現代に復活したい」という梅原氏が新作でターゲットにしたのが「野球界」。大リーグに選手を引き抜かれそうになったジャイガンツの社長は、キートン博士に愛する名選手ナマシマのクローン人間づくりをお金で依頼。内外野手7人をクローン人間ナマシマにすることに成功するが、4番サードのポストを巡って喧嘩が始まり…という展開で、某有名終身名誉監督の話し方や所作が散りばめられるなど遊び心が一杯。
 衣裳と装置を担当したのはアーティストの横尾忠則氏。ユニホームを模した着物、ナマシマ選手の似顔絵を書いた半紙を顔の前にぶら下げたクローン人間など、狂言の様式を踏まえながら現代のアイデアが躍動している秀逸な美術で、現代狂言の可能性が開花した舞台となりました。
 また、瀬戸内寂聴氏が『源氏物語』をモチーフに2000年に書き下ろした新作能『夢浮橋(ゆめのうきはし)』の上演も行われ、作者自らが作品解説をするという贅沢さでした。

news6.jpg
「クローン人間ナマシマ」

●日本の祭りを再現

 2回目にして「地域伝統芸能まつり」の名物ともなっているのが、テーマに応じて各地のお祭りを取り上げ、数百人規模でその模様を再現する試みです。今回は、長野県阿南町の「新野の雪祭り」と秋田県横手市の「梵天(ぼんでん)」が再現されました。
特に2日目の開幕を飾った大迫力の「梵天」では、巨大な頭飾りの付いた長さ約6メートル、重さ約30キロの梵天(神社に奉納する御幣の一種)10本を現地から運び込み、祭り装束の164人の市民が旭岡山神社への梵天奉納場面を再現。担ぎ手に支えられた梵天が、NHKホールの客席から次々と舞台上に駆け上がり、所狭しと練り歩いた後、頭飾りを外して激しいもみ合いをしながら本殿めがけて突入するという、本番さながらの演出でした。

news7.jpg
梵天(秋田県横手市)

  この他、説教上手で有名な壬生寺の住職が身振り手振りでたくさんの聴衆に見えるように説教をしたのが始まりの京都「壬生狂言」、素晴らしい声で観客を魅了した春野百合子の浪曲、二大踊りの競演となった山鹿灯籠踊りと越中おわら踊りなど、一度ならず名前を耳にしたことのある日本を代表する芸能が目白押し。
 「地域伝統芸能まつり」では、プログラムの選考に携わった専門家や地域芸能の伝承者による詳しい解説が行われるのが特徴で、単に実演を見るだけではなく、その文化的な背景を再認識できる希有な機会にもなっています。来年度は「天と地」をテーマに開催を予定していますので、ご期待いただければと思います。

 

●「第2回地域伝統芸能まつり」概要
[日程]3月30日、31日
[会場]NHKホール
[主催]地域伝統芸能まつり実行委員会
[共催]財団法人地域創造
[委員]梅原猛、板谷駿一、遠藤安彦、鎌田東二、三枝成彰、鈴木健二、中沢新一、林真理子、松岡正剛、松本英昭、山折哲雄、山本容子、香山充弘
[司会]葛西聖司、竹下景子
[出演芸能等]
30日:岩見神楽「大蛇」(島根県益田市)、黒川能「道成寺」(山形県櫛引町)、VTR紹介・糸満大綱引(沖縄県糸満市)、アイヌの古式舞踊(北海道)、新作能「夢浮橋」(作・瀬戸内寂聴)、浪曲「藤十郎の恋」(春野百合子)、山鹿灯籠踊り(熊本県山鹿市)、新野の雪祭り(長野県阿南町)
31日:梵天(秋田県横手市)、壬生狂言「桶取」(京都府京都市)、新作狂言「クローン人間ナマシマ」(作・梅原猛)、文楽「曽根崎心中・天神の森の段」、越中おわら節(富山県八尾町)、津軽三味線「海流・天風」(木下伸市・仙波清彦ほか)、奄美の島唄・六調(鹿児島県名瀬市)

 

●平成14年度地域伝統芸術等保存事業(映像記録保存事業) 助成内定事業一覧
北海道帯広市「アイヌ古式舞踊」、岩手県江刺市「江刺鹿踊り」、福島県只見町「小林早乙女踊り」、茨城県・金砂大田楽等保存連絡協議会「東・西金砂神社磯出大祭礼」、栃木県上河内町「関白獅子舞」、群馬県鬼石町「(1)琴平神社太々神楽舞(2)御倉御子神社太々神楽舞」、新潟県小国町「小国和紙技法」、新潟県能生町「能生白山神社春季大祭」、富山県福野町「福野夜高祭」、山梨県長坂町「筒粥」、長野県阿南町「(1)早稲田人形(2)お鍬様(3)深見の祇園祭(4)和合の念仏踊り(5)粟野の囃子屋台」、長野県麻績村「市野川太々神楽」、愛知県犬山市「石上祭」、滋賀県安土町「沙沙貴神社沙沙貴まつり」、島根県横田町「たたら製鉄用大炭窯築造炭焼き技術」、岡山県勝北町「新野まつり」、広島県東城町「大山供養田植」、高知県土佐町「南川百万遍」、福岡県津屋崎町「(1)津屋崎祇園山笠(2)豊山神社秋季大祭」、佐賀県鳥栖市「四阿屋神社の御田舞」、佐賀県基山町「荒穂神社の御神幸祭」、長崎県松浦市「精霊流し」、熊本県清和村「清和文楽人形芝居」、宮崎県山之口町「(1)山之口弥五郎どん祭り行事(2)六十田剣舞(3)川内嫁女踊り(4)下富吉地区の郷土芸能」、宮崎県西米良村「(1)小川神楽(2)越野尾神楽(3)団七踊り(4)尻振り盆踊り(5)桃と桜」、鹿児島県東串良町「(1)唐仁八月踊り(2)柏原相撲甚句」、鹿児島県輝北町「(1)朝倉太鼓踊り(2)棒踊り」、鹿児島県蒲生町「(1)太鼓踊り(2)バラ踊り(3)棒踊り(4)兵児踊り」、鹿児島県屋久町「原ごちょう踊り」、鹿児島県祁答院町「(1)兵児踊り(2)鷹踊り」、沖縄県名護市「屋部の八月踊り」

カテゴリー