●ユニークなアクティビティで、子どもたちを音楽の世界に!
4年目を迎えた「公共ホール音楽活性化事業」。本年度は、全国20地域でこの3月まで各地で開催されています。コンサートに先立ち、さまざまな場所で実施する “アクティビティ”がこの事業の特色ですが、本年度は過去3年間の蓄積の上に、これまでにないユニークな企画が生まれました。なかでも注目を集めたのは、ひたちなか市文化会館がピアニストの白石光隆さんの協力により実施した企画です。今号では、ひたちなか市の事例を中心に、本年度の事業の模様について紹介したいと思います。
●ワークショップ「ピアニストを写そう」
ひたちなか市は、茨城県の中部、太平洋を臨む海沿いに位置する人口約15万人の市です。文化会館がオープンしたのは1984年。これまで、鑑賞型事業を中心に展開してきましたが、子どもを対象とした普及事業に取り組むきっかけとして、今年度「公共ホール音楽活性化事業」に参加しました。
子ども対象と言えば、本事業でも実施例が多いのが学校訪問コンサートです。ひたちなか市でも、市内2校の訪問コンサートを企画しました。しかし、ひたちなか市の取り組みがユニークだったのは、子どもたちが受身で演奏を聴くだけではなく、主体的に表現に関わってもらう仕掛けとして、学校訪問の前に「ピアニストを写そう」というワークショップを行ったことです。
これは、舞台で演奏中のピアニストを子どもたちが自由に撮影するというワークショップで、カメラを媒介に、演奏を“見る”“切り取る”面白さを体感してもらおうというもの。しかも、撮影した写真は、チラシなど宣材に使用されるという特典つきです。対象は小学3年生以上とし、市内外から希望者を公募しました。
2001年10月8日、ワークショップの会場には、カメラ持参の子どもたち18人と保護者らが集まりました。通常のコンサートでは、もちろん撮影はご法度。客席の保護者らが興味津々で見守る中、ワークショップが始まりました。
子どもたちはまず、写真家の北村光隆さんにカメラの扱い方の指導を受け、北村さんによるデモ撮影の後、白石さんの撮影に挑みました。演奏曲は、ショパンの幻想即興曲を含め5分程度の曲を2曲。最初は緊張気味だった子どもたちも、白石さんのダイナミックな演奏に吸い込まれるように鍵盤に近づいていきます。子どもたちと対峙する白石さんも真剣そのもの。上からのアングルも狙えるようにと用意された2台の脚立も大人気で、子どもたちが夢中でシャッターを切る姿が印象的でした。
撮影を終えた子どもたちは「腕の動きがカッコよかった」「写真が楽しみ」と興奮さめやらぬ様子。緊張感溢れる演奏の一瞬一瞬が、子どもたちの胸に間違いなく刻まれたワークショップとなりました。
●写真を素材にした宣材作成
次に会館が取り組んだのが、この写真を素材とした宣材の作成と広報です。まず、撮影会の翌週に品評会を開催。そこでカメラマンと子どもたちに「自分の1枚」を選んでもらい、18種類のコンサート情報入りポストカードを作成しました。それをワークショップ参加者に記念に渡すとともに、10月25日、26日に市内の小学校で行った出前コンサートでも児童たちにプレゼント。両親や祖父母宛てに演奏を聴いた感想を書いてもらい、DMとして会館の経費で郵送しました。さらに、コンサート本番のチラシにも、子どもたちの撮影した写真をレイアウトし、広報に活用しました。
1月12日のコンサート当日。ロビーでは、ワークショップ写真作品展も行われ、会場内はたくさんの親子連れで埋まりました。子どもの書いたカードを見て興味をもったという父母もいて、“見る”“切り取る”“伝える”で繋がった一連のアクティビティが、結実したコンサートになったと言えそうです。
今回の事業を担当したのは、文化会館の安和人さん。ワークショップを企画するにあたり、子どもが楽器などで演奏に“参加”するという方法はあえて避けたと言います。「音楽自体の質は変えずに、子どもたちが主体的に表現に関われる方法はないかと考えたんです」。そこで、目をつけたのが写真。どの家庭にもある身近な素材でありながら、感性次第でアートとしての側面ももつ写真を媒介に、子どもたちと音楽の “幸せな出会い”を演出できないか。その写真を用いた宣材を作成することで、子どもたちにコンサートの協力者として関わってもらうこともできる。そうして生まれたのが今回の一連の企画でした。子どもたちの意識を高めるため、プロのカメラマンを講師として招いたのもポイントとなりました。
今回の企画が実現したのは、何といっても通常あり得ない設定を快く了解してくれた白石さんの協力があってこそ。白石さんは「耳で聴くだけが音楽じゃない。コンサート全体が僕らの作品ですから。こうした企画を通じて、皆さんが自分なりの音楽の楽しみ方をみつけてくれれば嬉しいですね」。
事業が終了して、「反省点も多くありますが、手応えはありました。この企画は大人対象も可能ですし、ワークショップから広報まで、精度を高めてインフラとして残していきたいです」と安さん。クラシックの普及事業の可能性を広げる面白い事例となったのではないでしょうか。
●ひたちなか市文化会館事業の概要
◎ワークショップ「ピアニストを写そう」
[会場]ひたちなか市那珂湊総合福祉センター
[日程]10月8日(撮影)、10月13日(品評会)
[出演]白石光隆(ピアニスト)
[講師]北村光隆(写真家)
[参加者]小学3年生~6年生18人
[内容]舞台で演奏するピアニストを子どもたちに自由に撮影してもらうワークショップ。カメラは各自持参(使い捨てとデジタルカメラ以外はすべて可)してもらい、フィルムは会館が提供(ISO1600/36枚撮)した。ワークショップでは、プロの写真家を講師に迎え、子どもたちが自由な視点で撮影できるようアドバイスをしてもらった。撮影した写真は、会館が現像し、1人につき1枚を、ポストカードに作成(18種各100枚)したほか、チラシに使用した。
◎訪問コンサート
[日程]10月25日、26日
[会場]佐野小学校、磯崎小学校、ひたちなか市総合福祉センター
[出演]白石光隆
◎白石光隆おしゃべりピアノコンサート
[日程]1月12日 15:00~17:00
[会場]ひたちなか市文化会館小ホール
●平成14・15年度登録アーティスト決定
平成14・15年度の公共ホール音楽活性化事業登録アーティストが決定しました。アーティストは、全国公募のオーディションにより選ばれた10名。オーディションでは、演奏技術はもちろんのこと、地域の方々がクラシック音楽に親しむためのコミュニケーション能力などを重視しました。登録アーティストは下記のとおりです。
◎登録アーティスト
浜まゆみ(マリンバ)、竹内直子(ハーモニカ)、田村緑(ピアノ)、中川賢一(ピアノ)、大森智子(ソプラノ)、薗田真木子(ソプラノ)、羽山晃生(テノール)、唐津健(チェロ)、磯絵里子(ヴァイオリン)、神代修(トランペット)
●公開プレゼンテーションのお知らせ
4月24日(水)、北とぴあつつじホール(東京都北区)を会場に、登録アーティストによるプレゼンテーションを実施します。これは、平成14年度事業に参加するホール担当者が、出演アーティストを決定するために開催するものですが、事業に関心のある公共ホール関係者を無料でご招待します。ご希望の方はぜひご参加ください(詳細については、担当までお問い合わせください)。
●公共ホール音楽活性化事業に関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 宮地・小澤 Tel. 03-5573-4065