10月20日から約2週間にわたり、岡山駅西口近くの奉還町商店街(※)を会場にした「奉還町アート商店街」が開催された。この催しは、地元の若手アーティスト58人が、営業中の72店舗で作品を展示する「テンポテン」を中心に、ワークショップやアーティスト手づくりのポストカード展示販売などを行うというもの。
マップ片手に宝探しの要領で作品を探しながら商店街を歩くと、アーケードには430メートルにわたって青空のタブレットが下がり、電気店の店先のテレビモニターでは商店主がビデオリレーした映像作品が流れ、古めかしい商品の並んだ棚にさりげなくオブジェが飾られていた。まるで商店街そのものが「作品」になっているかのようで、遊び心いっぱいの値札を付けている中古屋を発見し、つい店主と話し込んでしまった。
この企画を発案したのは、奉還町に愛着をもつ若者たちである。岡山で開催された「トヨタ・アートマネージメント講座」で出会った7人の若手アーティストが、アーティストの活動の場をつくろうと「アート互助会」と称して相談を始めた。その中心になっていたのが、東京の美大を卒業して地元に戻りギャラリーをやっていた大野亜希子さんである。
「高校卒業まで住んでいましたが、その頃は奉還町を何とも思っていなかった。でも東京のビルの谷間で見知らぬ人たちの間を通り抜けていると、皆が挨拶してくれるこの商店街が恋しくなる。ここをいつまでも残したい、そのために何かやれないかと、みんなに相談しました。この気持ちは、地元を離れた経験のある実行委員会メンバーに共通のもの。岡山人のDNAには奉還町がインプットされているのかもしれませんね(笑)」
全国の例にもれず、この商店街も空き店舗や高齢化などの問題を抱え、近年は、大学と連携して学生が運営するチャレンジショップを誘致したり、文化施設「りぶら」を新設して、カルチャー教室や地元学生のサークル活動の場として提供するなど、活性化に向けたさまざまな取り組みを行ってきた。
そこにやってきたのが大野さんたちだった。彼女らはまず、商店会の寄り合いで企画を説明し、「若者が商店街に興味を抱いてくれるのはよいが、アートと言われても何のことやら」という商店主たちの理解を求めて、300店を個別訪問。今年9月には商店主が店舗に展示する作品を選ぶための出展作家によるプレゼンテーション会も開催した。営業中で出席できない人のために、その模様はFMラジオで実況した。
空中に舞うTシャツのインスタレーションを展示した「藤井陶器店」の藤井隆章さんは、「食器の展示は置くもの中心。宙につるすTシャツなら、それらに埋もれることがない。私の作品の選択は正しかった」と少しばかり誇らし気だった。反対に作品の内容や展示位置を巡って商店主と意見が対立したところもあったが、顔をつき合わせているうちに互いの気心が知れ、問題をクリアーしていったという。
事務局長の真部剛一さんは、「店主との信頼関係をつくるのに時間を費やしてしまい、アーティスト側の受け入れなどに手が回らなかった。しかし、作品を展示し続けたい、購入したいとか、展示を継続的にやりたいのでアーティストの作品展示をプロデュースしてほしいというお店もでてきました。空き店舗をプロデュースする話もあり、商店街との信頼関係をベースに今後も奉還町で活動を続けたい」と言う。
今回の関連企画で招かれた藻谷浩介さん(日本政策投資銀行地域企画部)が、講演会の中で「住む人と来る人が共生していること」を元気なまちの要素のひとつに挙げていたが、今回の企画で育まれた若者と商店主の信頼関係が、地域とアートの新しい共生関係を育み、新しい奉還町文化となるかどうか、今後の取り組みが期待される。
(大坪真樹)
●「奉還町アート商店街」
[日程]10月20日~11月4日
[会場]岡山市奉還町商店街
[主催]奉還町アート商店街実行委員会、岡山県教育委員会、岡山県芸術祭実行委員会
[後援]協同組合西奉還町商店会、奉還町おかみさん会、奉還町商店街振興組合、日本政策投資銀行
※奉還町商店街
明治初期の四民平等の際、武士が藩からもらった退職金(奉還金)を元手に商売を始めたことに由来する。旧街道沿いに430メートルにわたって300店ほどが軒を並べる。
地域創造レター 今月のレポート
2001.12月号--No.80