一般社団法人 地域創造

第6回「芸術見本市」報告

ブースを無料公開した「ロビーギャラリー」で一般にアピール

 「第6回芸術見本市」が9月12日、13日の2日間にわたり東京国際フォーラムで開催されました。今回の見本市では、芸術文化団体や地域の公共ホールの活動をより広く一般にもアピールしようと、ガラスで囲まれたフォーラムの巨大ロビーに「ブースギャラリー」を設置。ブース部門の一部と特設会場での催しを無料公開し、ビジネスマンたちの興味を誘っていました。

 前日の11日、震撼すべきアメリカの同時多発テロ事件が勃発。見本市の特別企画「Focus on the USA」でアーティストのデモンストレーション映像を紹介するために来日していたアメリカのプログラムコミッティのメンバーには大変な衝撃となりました。一時は中止も検討されましたが、「テロに負けるわけにはいかない。こんな時だからこそ国や宗教を越えた文化交流の話をしたい」とのメンバーの意向で実現。期せずして、見本市に集った人々すべてが「芸術文化の意義」について自らに問い質さずにはいられない2日間となりました。

 不測の事態にもかかわらず、見本市にご協力をいただき、本当にどうもありがとうございました。

 

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ロビーギャラリー全景

 

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「アウトリーチ」シンポジウム風景

 

●大阪・東京連続シンポジウム「アウトリーチ」

 昨年に引き続き、今年も地域創造と全国公立文化施設協会の共催により、大阪と東京の見本市で「アウトリーチ」をテーマにした連続シンポジウムが開催されました。今回は、財団が発行した調査研究報告書「アウトリーチ活動のすすめ」で取り上げた公立文化施設のキーパーソンがパネリストとして参加(大阪:厚木市文化会館、小出郷文化会館、岡山県立美術館、東京:仙台市青年文化センター、小出郷文化会館、佐倉市立美術館)。地域の熱心な取り組み報告に会場にはメモを取る人の姿が多数見られました。

 東京では1日目のシンポジウムに続き、2日目に3つの施設ごとに分かれた分科会を開催。小出郷文化会館をテーマにした第1分科会では、6町村にまたがる広域文化施設として利便性の悪い地域に音楽を届けるアウトリーチ活動について、守門村議会議場声楽コンサート、城山トンネルコンサートなどの反響と事業の詳細が報告されました。

 

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「next」で対談する
西田シャトナー(左)と
角ひろみ(右)

 「小出郷文化会館では『文化のまちづくり憲章』にもとづき、すべての取り組みを育成事業と位置づけて実施してきた。アウトリーチ活動で地域に出向くことにより地域とホールとの信頼関係が生まれ、アーティストの才能を活かす場も広がった。しかし、(アウト)リーチはツモらなければ意味がない。これからは、リーチがツモって聴衆育成になるよう仕掛けていきたい」と桜井俊幸館長。「100年後には日本の人口が半減するというデーターもある。小出郷では30年後に現在の4万6千人から3万人にまで減るという。30年後に小出郷文化会館が地域社会で生き残っていたいとすれば、子どもを対象にした育成事業をやるしかない」。直接、事業を担当している榎本広樹さんの危機感溢れるコメントが印象的でした。

 平成16年の開館準備のためにホール運営について勉強しに来たという長野県松本市市民会館建設課の久保田忠良さんは、「小出郷の取り組みを聞いていて一番感じたのは、ホールとしてのコンセプトをきちんと持つことが必要だということ。松本市にはサイトウ・キネンのような国際的な催しもあればアマチュア劇団などの土壌もあるが、今はそれぞれが独自に活動していて、彼らが地域に入っていけてないように思う。個人が自主的にやっている活動をホールが吸い上げるのではなく、設備の整ったホールを媒介にして、仲良しクラブではなく彼らがうまく地域に出ていけるようにできればと思った」と手応えを感じた様子でした。

 このほか、「劇都(ドラマティックシティ)仙台」事業として演劇によるまちづくりを推進している仙台市青年文化センター、まちや人と美術や美術館の関わりをテーマにした「体感する美術」シリーズを市民と一緒に企画し、町中で展開している佐倉市立美術館など。いずれも継続的、多角的な取り組みばかりで、アウトリーチの奥の深さを痛感するシンポジウムでした。
 「芸術的な分野を題材にしてどのくらいまでまちづくりができるのか可能性を知りたかった」(さいたま市ふるさと振興機構・藤野富美子)といった参加者のニーズにも充分応えられたのではないでしょうか。

 

●リージョナルシアター・シリーズの女性演出家も登場

 今回の見本市では、これから活躍するカンパニーを紹介する「next」というコーナーを新設。その中で地域創造が主催する「リージョナルシアター・シリーズ」(詳細は2、3頁参照)の参加劇団も取り上げられ、このシリーズ初の女性演出家、角ひろみさん(芝居屋坂道ストア・神戸)と渡辺奈穂さん(演劇企画魚の目・沖縄)が地域で活動する先輩演出家と対談しました。
 角さんと対談したのは同じ関西を拠点とする西田シャトナー氏。「アメリカの連続テロ事件で阪神淡路大震災のことを思い出した。そういえば角さんが注目されるきっかけになった『あくびと風の威力』(第4回日本劇作家協会新人戯曲賞佳作)は震災が題材だったけど…」と問いかけると、「震災直後には芝居にするのだけは避けたいと思っていたが、何年かたって、まるで何もなかったかのように意外なほど遠くに感じている自分がいた。その感情をほじくり出してみたかった」と角さん。その後のたたみかけるような質問に、時折、「エー、わからへん」と戸惑いながらも、「めったに起こらないことを劇的だというのは違うと思う。私にとっては家でボーッとしている時の方が劇的」など、作家としての考え方が随所で聞けた対談となりました。

 

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特設会場でのデモンストレーション

 また、東京出身で芝居をやるために沖縄に移住したという渡辺さんには弘前劇場の長谷川孝治氏がアタック。稽古場の広さや劇団員の生活手段など、地域の劇団運営事情にはじまり、話題はふたりの芝居の共通テーマである現代口語としての方言へ。「母の実家があったので幼い頃から沖縄の芸能を見て育ち、言葉のかっこよさに惹かれて自分のルーツでもある沖縄で芝居をやろうと思った。しゃべっている言葉を録音して構成台本をつくったこともある」と渡辺さん。

 ふたりの話を聞きながら、地域から演劇を変えていける可能性を感じた人も多かったのではないでしょうか。

 

●第6回「芸術見本市」概要

[会期]2001年9月12日、13日
[会場]東京国際フォーラム
[主催]第六回芸術見本市実行委員会(財団法人地域創造、国際交流基金、国際舞台芸術交流センター)
[出展登録団体数]84団体
[芸術見本市総参加者数]2日間延べ1500人

 

●芸術見本市に関する問い合わせ

地域創造芸術環境部 碇・内田
Tel.03-5573-4069 Fax.03-5573-4060

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