一般社団法人 地域創造

富山県黒部市 黒部市国際文化センター・コラーレ ハマ・キッズ劇場2001『放課後のワンダーランド』

 8月5日、富山県の黒部市国際文化センター・コラーレで小中学生の演劇ワークショップ公演「ハマ・キッズ劇場2001『放課後のワンダーランド』」が行われた。
 幕が上がると、ブルーの照明に子どもたちのシルエットが浮かび上がる。手に持った小さな金属打楽器をゆっくりと鳴らしながら前へ進む小さなパーカッショニストたち。彼らの演奏する不思議な調べにのせて、放課後の校庭から「どこにもいけない森」に迷い込んだ子どもたちがカラフルな造形的衣裳で次々に登場。絵や工作をコラージュした舞台美術、ダジャレや回文交じりの台詞など、まさにそこは音楽と演劇と美術の玉手箱をひっくり返したワンダーランドだった。

 この「ハマ・キッズ劇場」は、1999年に当時の横浜市民ギャラリーの担当者だった仲原正治さんが、NHKの番組「ようこそ先輩」のような子どもたちがプロのアーティストの刺激を直接感じられる場面をつくりたいと、「横浜市こども美術展」の関連企画としてスタートさせたもの。1回目から関わっていた造形作家の金井ひろみさんがコラーレでワークショップを行っていたのが縁で、今回初めて横浜市民ギャラリーとコラーレの連携事業として企画が実現した。

 この企画の最大の特徴は、参加するアーティスト同士が子どもたちを通じてコラボレーション(交流)しながら作品づくりを行うところにある。今回の連携では、金井さん、パーカッショニストの越智義朗・義久さん、演出家の山本健翔さんらが参加し、横浜での事業を終えた後、俳優4名やスタッフとともに7月30日から黒部に滞在。地元で公募した小学1年生から中学3年生まで62名と1日6時間、6日間のワークショップを行い(6月にプレワークショップを実施)、横浜と同じ『放課後のワンダーランド』のモチーフを材料に演技グループ(20名)、音楽グループ(19名)、衣裳・美術グループ(23名)に分かれて新たな創作に挑んだ。

 コラーレは市民の主体的な参加を目指すホールとして知られ、これまでも子どもを対象にした「リトル・カルチャー・クラブ」(キーボードオーケストラ、ココロ合唱隊、ドラマキッズ)への取り組みを行ってきた。

 今回の連携について担当の新酒さおりさんは、「クラブに所属していない子どもたちを受け入れる新しい機会にしたかった。本当は子どもたちの交換滞在ができればと思っていたが難しかったので、文通で地域間交流を図った。ワークショップをとおして初めからつくることで子どもたちが創作の裏側まで見られて本当によかった。コラーレにはこれで舞台に興味をもった子の受け皿(クラブ)があるので、そこにも可能性を感じている」と言う。

 ワークショップの内容を取材したが、目隠しをして手を引いてもらいながらホールを探検する(演技)、館内にあるものを使って人のキャラクターを音で表現する(音楽)、「キレル」などの感情を形で表す、聞いたことはあるが細部まで覚えていない動物の絵を段ボールで立体にする(衣裳・美術)など。演劇や音楽や美術のベースである「表現するとは」を問いかけるところからコミュニケーションを図っているのがよくわかる。ここでつくられた作品の多くは実際の舞台にも使われていた。

 演出の山本さんは、「“決めない、まとめない、収めない”が方針。ワークショップは子どもたちに何かを教える場ではなく、子どもとのセッションを通して、僕ら自身が表現とは何かを問いかけられる、僕ら自身のワークショップの場だ」と言う。「同じものを一斉にやる連携ではなく、こういうワークショップを“よし”とする大人の連携を広げていくこと自体がワークショップかもしれない」と言う彼の言葉が、今回の連携の意義を最もよく表しているのではないだろうか。

坪池栄子

 

●ハマ・キッズ劇場2001『放課後のワンダーランド』

[脚本]加藤千恵 [演出]山本健翔 [音楽]越智義朗、越智義久、橋爪貴明 [衣裳]金井ひろみ [美術]日比野光希子 [横浜日程]ワークショップ(7月1日、23日~27日)、公演(7月28日)[横浜公演会場]横浜市教育文化ホール [黒部日程]ワークショップ(6月24日、7月30日~8月4日)、公演(8月5日) [黒部公演会場]黒部市国際文化センター・コラーレ

※主な舞台美術は横浜で創作したものを黒部でも活用。

 

●黒部市国際文化センター・コラーレ

[開館]1995年11月
[所在地]〒938-0031 富山県黒部市三日市20
[運営]市民の参加によるホール運営を目指し、一般市民で構成された「運営委員会」によって自主事業を決定。運営委員は15名(その他、芸術顧問1名)、任期2年で全員ボランティア。また、休館日を除き、事業の有無に関わらず夜10時半まで開館し、事業のない日は館内を市民に開放している。サポーター組織「コラーレ倶楽部」の会員数は現在約700人で、その中からホールを拠点に活動する文化団体(アクティブグループ)が12~13団体ほど育ってきているとか。平成13年度の自主事業総数は約40本、事業費は約5000万円。

 

地域創造レター 今月のレポート
2001年9月号--No.77

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