ワークショップ系、見学系、実践系とコースごとに特色
今回の開催地は、政令市として音楽、演劇、メディアアートなど幅広い芸術文化振興を展開している仙台市です。会場は大・小・映像ホールのほか、音楽や演劇の練習室をもち、アマチュアの活動拠点となっている緑に囲まれた仙台市青年文化センター。稼働率9割以上というだけあって、ラボの期間中も中学生や主婦などが練習や発表会に訪れ、仙台市民とともに過ごした感のある4日間でした。
仙台市の取り組みを少しご紹介すると、仙台市では市民の芸術文化活動を振興する目的で1986年に仙台市市民文化事業団を設立。現在、ここが中心となって青年文化センター、イズミティ21などを運営しています。一昨年、サントリー音楽賞を受賞した三善晃氏作曲の『オペラ支倉常長~遠い帆』をプロデュースしたのもこの事業団です。
舞台芸術の振興に力を入れている事業団では、設立と同時に音響、照明、舞台美術の裏方養成講座を開講。97年からは「劇都(ドラマティック・シティ)仙台」プロジェクトとして体系化し、プロと地元アマチュアが交流するプロデュース公演などにも着手。また、本年度から新たに戯曲賞(賞金200万円)を創設し、演劇振興係を設けて2002年春にオープン予定の演劇専用練習場の計画を進めているところだそうです。仙台市の事業につきましては、今後、レターでもご紹介していきたいと思います。
今回はこうした意欲的な取り組みを行っているスタッフの方々が裏方となってラボを支えてくださいました。お忙しいところ、本当にどうもありがとうございました。
●宮城県名物、“齋マジック”を堪能
美術コースは開催地仙台ならではの見学プログラムが充実。コーディネーターの熊倉純子さんの引率で宮城県美術館と1月にオープンしたばかりのせんだいメディアテークを訪問しました。特に宮城県美術館は15年前から、教育普及プログラムとしてワークショップに取り組んできた草分けで、受講生は同美術館教育普及部の齋正弘さんに導かれて、実際に幼稚園児が行うのと同じ美術館探検ツアーを体験しました。
短パン、アロハシャツ、肩から水筒を下げたトレードマークのスタイルで登場した齋さんは、早速、“教育普及とは? ワークショップとは?”を受講生に“普及”すべく絶妙のトークを開始。
曰く「ワークショップでは準備はしない(準備をするとそれを全うすることが目的になるし、準備中が一番面白いのだからそこをみんなで一緒にやる。筆者注:必要な準備はきちんと行われています)、成果を目的としない、経過を大切にする」「ワークショップでは個人が肯定されるので団体行動をしなくてもいい」「子どもは目にウロコを付けていないので何をやっても面白がるが、それは感動ではなく、はじめてのことに出合ってびっくりしているだけ。感動そのものは伝えられないが、感動というものがあることは伝えられるし、その練習はできる。芸術的な体験ができる大人にするためには、このびっくりする練習をすることが大切。僕らが子どもに対してできるのはそこだ」などなど。
探検ツアー中もワークショップが服を着て歩いているようなトークで、受講生たちは伝説の“齋マジック”にすっかり魅せられていました。
●ようこそ! ラボ俳優養成所へ
現役の演出家がコーディネーターを務め、最終日に作品を発表するスタイルが定着してきた演劇コース。今回も神奈川県芸術文化振興財団演劇部門プロデューサーで劇作家、演出家の加藤直さんによる厳しい(!?)指導に冷や汗をかく毎日となりました。
日常的なモチーフを舞台化して自作・自演するこれまでの発表会と異なり、今回の課題は、宮澤賢治の作品やみんなで創作した寓話を音楽的な語り劇にして発表するという超難題で、まるで短期集中の俳優養成所状態でした。最初は恥ずかしくて声も出せず、目線も定まらなかった受講生たちが、ワークショップで身体の使い方に目覚め、稽古を始めてたった2日間で台詞を覚え、見ている人を意識して演じる姿には感動すら覚えました。
発表を終えて、受講生たちは「これまで自分の感受性だけで舞台を見ていたが、これからはもっと客観性をもって見られるような気がする」「ワークショップを指導してもらった振付家の伊藤多恵さんに、役になっている時には自分の人間としての都合でよけいな動きを入れないほうがいいと言われてハッとした」「私は人と目を合わせるのが苦手で、視線というのは闘わせるものだと思っていたが、役柄では自然に視線が合わせられた」と、それぞれの俳優体験を振り返っていました。
加藤さんは今回の取り組みを総評して、「フィクションの肉体をつくる中でみんなそれぞれに自分の肉体を発見し、発表会では肉体と知性とを付き合わせようとする姿が出ていたと思う。こういう“表現”に一人一人が向き合うような場を公の機関が提供していることを評価したい」と言い、「これからも表現を媒介にして、人間や地域や国といった問題と出合ってもらえれば」とのことでした。
●実践型の音楽とワークショップ三昧の入門
ラボのベテランコーディネーター、児玉真さんによる音楽コースは、インタビュー取材から原稿の書き方、企画のつくり方まであくまで実務を前提とした極めて実践的なカリキュラムとなりました。特に企画ワークショップでは、ヴァイオリニストの森下幸路さんが実際に各地で行っているレクチャーコンサート「音楽の種あかし」の企画書を、森下さんと受講生とのディスカッションで添削する試みにチャレンジ。「もっとターゲットを絞ってほしい」「司会が進行するのではなく森下さん自身に仕切ってもらいたい」「客席から登場してもらえないか」など、さまざまなアイデアが出されていました。
また、小・中学校の指導要綱改訂で注目されている邦楽では、演奏家を招いた企画づくりと尺八、琴に触って音を出すワークショップが実施されました。「“ぺ”と言うつもりで口を結んだまま、前に向けて息を吐きましょう」との説明で、受講生たちがひとりずつトライ。息の音がブオーという尺八の音に変わると思わず目を輝かせていました。
「ワークショップを一通り体験してもらいたかった」という入門コースは、コミュニケーションゲームに始まり、音楽、演劇、ダンスのワークショップ、最後は企画づくりまでと、まさにワークショップ漬けの4日間でした。
関西の劇団太陽族を主宰し、高校生なども指導している岩崎正裕さんのワークショップでは、「行く」「行かない」という3人の短い会話のテキストを用い、グループごとに設定を考えて実演。お化け屋敷からオカルティックな洋館、警察署などを舞台に三角関係の恋人からドロボーまでが登場する、見事な寸劇を披露していました。演劇的なイメージのつくり方をわかりやすく体験できた、面白いワークショップだったのではないでしょうか。
ホール入門コース
|
演劇コース | 音楽コース | 美術コース | |
7月3日(火) | 全体オリエンテーション・地域創造事業紹介 | |||
仙台市青年文化センター場施設見学、事業紹介 | ||||
自己紹介~自分自身そして街、ホールを売り込もう~」 坪池栄子 |
「自己・他己紹介~そして他人を作る~」 加藤直 |
「自己紹介と歌唱体験~演奏家のしたいこと~」 村上敏明、仲田淳也 |
「これからの美術館・誰のための美術館?」森岡祥倫、蔵屋美香、熊倉純子 | |
交流会 | ||||
「〈音楽劇〉を提案する」 加藤直 |
番外ゼミ | 番外ゼミ「ガイダンスと自己紹介」 | ||
7月4日(水) | 「簡単な演出を実現する」 村上敏明、仲田淳也 |
「報告劇を試みる~劇場を再発見する」 加藤直 |
「楽しい公共ホールのすすめ1~公共ホールの役割」 津村卓 |
「見学とお話1~宮城県美術館の普及活動:幼稚園児と美術館を探険!~」 齋正弘 |
「楽しい公共ホールのすすめ2~地域の催しを分析してみる~」 宮地俊江、津村卓 |
共通プログラム「広報をいかに考えるか~広報の活用術について~」 講師:河野孝、中山弘美 | 「ハナハトマメマス」児玉真 | 「ランチ・ミーティング」 齋正弘 |
|
共通プログラム「広報をいかに考えるか~広報の活用術について~」 講師:河野孝、中山弘美 | ||||
「楽しい公共ホールのすすめ3~ワークショップを体験してみる【音楽編】~」 瀬尾宗利、宮地俊江、津村卓 |
「〈音楽劇〉の作業場1~自分の身体を知り使う その1~」 加藤直、伊藤多恵、萩窓子、大月秀幸 |
「記事を書く1~インタビュー~」 箕口一美 |
「プログラムを市民とつくる」 木ノ下智恵子、永山智子 |
|
7月5日(木) | 「楽しい公共ホールのすすめ4~ワークショップの目的を考えてみる~」 津村卓 |
「〈音楽劇〉の作業場2~語る~」 加藤直、萩窓子、大月秀幸 |
「記事を書く2」 箕口一美 |
「まずは敵?を知ろう~企業メセナの方針とは?~」 渡辺大輔、田中典子、岩本直子 |
「企業への支援要請・実例1」 木ノ下智恵子 |
||||
「楽しい公共ホールのすすめ5~ワークショップを体験してみる【演劇編】~」 岩崎正裕 |
「〈音楽劇〉の作業場3~自分の身体を知り使う その2~」 伊藤多恵 |
「邦楽の企画を考える」 米澤浩、熊沢栄利子、児玉真 |
||
「企業への支援要請・実例2」 蔵屋美香 |
||||
「楽しい公共ホールのすすめ6~ワークショップを体験してみる【コンテンポラリーダンス編】~」 井手茂太 | 「〈音楽劇〉の作業場4~動きながら語り・歌い・演技する~」 加藤直、萩窓子、伊藤多恵、大月秀幸 |
「邦楽体験ワークショップ」 米澤浩、熊沢栄利子 |
「グループ・ディスカッション~作戦会議:企画書を練る・戦略を立てる~」 | |
「プレゼン大会~グループごとに支援要請にトライ!~」 渡辺大輔、田中典子 |
||||
「ミーティング~明日のための準備」 | 「対論講座~〈劇場〉は何故必要か?~」 佐伯隆幸 |
「演奏家という生き方」 森下幸路 |
||
番外ゼミ | 番外ゼミ | 番外ゼミ | ||
7月6日(金) | 「企画書をつくる」 | 「〈音楽劇〉の作業場5~発表のための準備~」 加藤直、大月秀幸 |
「企画会議1~グループ討議~」 児玉真、箕口一美 |
「見学とお話2~せんだいメディアテーク~」佐藤泰 |
「発表会」 | ||||
全体ミーティング | 「発表、相互批評」 | 「企画会議2~アーティストと一緒に考える~」 森下幸路、児玉真、箕口一美 |
「反省会とメセナよろず噺」 加藤種男、熊倉純子 |
|
全体会(まとめ) |
●コースコーディネーター
◎ホール入門コース
宮地俊江(地域創造ディレクター)
津村卓(地域創造プロデューサー)
◎演劇コース
加藤直(劇作家・演出家、神奈川県芸術文化振興財団演劇部門プロデューサー)
◎音楽コース
児玉真(株式会社セカンドプロデュースプロデューサー)
◎美術コース
熊倉純子(企業メセナ協議会シニアプログラムディレクター)
荻原康子(企業メセナ協議会シニアプログラムオフィサー)
●ステージラボに関する問い合わせ
芸術環境部 研修交流担当 山口・坂田・齋藤
Tel. 03-5573-4068