一般社団法人 地域創造

東京都墨田区 メイド・イン・すみだ ~鳥光桃代と町工場

  気鋭の若手芸術家が異なる分野の人々とコラボレーションを試みる「アサヒビール・アート・コラボレーション(AAC)」。その第2弾「メイド・イン・すみだ~鳥光桃代と町工場」が、墨田区役所内のリバーサイドホール・ギャラリーで6月2日から7月1日まで開催された。

 「AAC」は、若手アーティストの創作活動を支援する目的で昨年スタートしたアサヒビールのメセナ事業。第1弾として作品づくりを依頼した福田美蘭氏が、「墨田区で発表するなら、その必然性が欲しい」と申し出たことがきっかけとなり、墨田区の地域資源とアーティストがコラボレーションする「AAC」の企画方針が決まっていった。
 第1弾では、墨田区で今も盛んな「伝統工芸」に着目。墨田区地域振興部文化振興課の協力を得て、べっ甲や象牙、押絵羽子板、市松人形などの職人さんと共同制作を行い、伝統工芸の技法を用いた現代美術作品の展覧会「たくみなたくらみ─福田美蘭と墨田の伝統工芸職人による」が実現、話題を呼んだ。
 そして今回は、プラスティック成型やゴム、金属加工、板金塗装など区内に5000軒以上も集中する「町工場」を題材にした新作を、ニューヨークを拠点に活動する鳥光桃代氏が発表した。鳥光氏は1967年生まれ。94年、ほふく前進する等身大のサラリーマン・ロボット「宮田二郎」によって鮮烈な印象を残した。独特のアイロニカルな視点とユーモアのある作風が特徴だ。鳥光氏はニューヨークと墨田区を往復しながら、区内の工場約30軒を訪ね歩き、延べ2カ月をかけフィールドワークを重ねていった。

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フライス盤講習を受ける
鳥光桃代氏(左)

 「最初はベルトコンベアなど工場の視覚的なイメージに興味があった。でも、働いている人たちに話を聞くうちに、これまで抱いていた町工場のイメージが変化してきて、この取材の過程それ自体が作品になるのではないかと思うようになりました」(鳥光)
 町工場でつくられている製品(消しゴムや吸盤、ソースビンやおもちゃ)の中にそこで働いている人のインタビューや工場の機械音を仕込んだサウンド・オブジェ。異業種の工場主に集まってもらった座談会や普段は行き来のない人たちがお互いの工場を見学したバスツアー、さらには鳥光氏が受けたフライス盤(金属やプラスティックなどの形状を加工する工作機械)講習の模様を収めたビデオの上映。町工場の場所を塗りつぶしたドローイング・マップ。バルーンのウサギのお腹の中で、工場でつくられているプラスティックパーツが舞うインスタレーションなど。会場はアーティストによって声を与えられたメイド・イン・すみだで埋め尽くされていた。

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「メイド・イン・すみだ」会場風景

 企画をプロデュースしたアサヒビール環境文化推進部・副理事の加藤種男さんは、「気鋭の芸術家の斬新な試みを支援していくのがこの事業の目的です。前例がなくて、成果がすぐに見えないからこそ、そこに光を当てたい。芸術には人の心を動かす力があるのだと思います。こうした芸術を生み出すアーティストと町の人が触れ合うことで、自分たちの住む町の力をもう一度見直し、地域の活性化に繋がっていけばいいですよね」と言う。
 座談会や工場見学ツアーにも参加した須田金属製作所の伊台康さんと荒木肇さんは、「会社ではおもちゃをつくっていますが、不況の中、いかにコストを抑え、売れるものをつくるかに終始している。夫婦2人で切り盛りしているような町工場では、後継者不足などの問題も抱え、諦めムードが漂っている。そんな時、このプロジェクトに参加して、町の人々が持っている技術の高さを改めて教えられて、前向きに新しいものを生み出していこうという気持ちになれました」とのこと。
 第1弾で職人さんとの橋渡しをした文化振興課の浮田康宏さんは、「墨田区を知ってもらう、外への情報発信という点でも意義がある」とこの企画を評価している。
 鳥光氏が「いずれは商品の開発までいけば面白いと思った」と語るように、この事業で生まれたアーティストと町の絆がさらなるプロジェクトに繋がっていくのを心待ちにしていたいと思った。

(ライター 土屋典子)

 「メイド・イン・すみだ~鳥光桃代と町工場」展
[日程]2001年6月2日~7月1日
[会場]すみだリバーサイドホール・ギャラリー
[主催]アサヒビール株式会社
[共催]墨田区
[企画協力]現代美術製作所、社団法人企業メセナ協議会

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