一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.14 著作権と契約編(1) 著作権とは?

●著作物、著作権、著作権者について整理する

 これから、5回にわたりホール実務に関わる著作権や契約の基本について解説します。第1回目が著作権の基礎編、2回目が著作権の応用編(著作隣接権やパブリシティ、プライバシーなどの権利、およびホール業務における権利侵害の実例と実務)で、3回目から契約について取り上げる予定です。

 

●「著作物」とは何でアルカ?

 著作権を考えるスタートは、果たして問題になっているソレは「著作物」かどうか、ということです。法律では、著作物は『思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの』なんだ、と定義されています。これだけではあんまりだと思ったのか、次のように著作物の例が挙げられています。

◎著作物の例

(1)小説・脚本・講演など (2)音楽 (3)舞踊・無言劇(パントマイム)
(4)美術 (5)建築 (5)図形 (6)映画 (7)写真 (8)プログラム

 もっとも、いくら形式的には例示の中に入るものでも、あくまでも冒頭の著作物の定義に当てはまるものでなければ著作物ではありません。そこで、問題のソレははたして、「思想又は感情」を「創作的」に「表現」した「もの」かどうか、が問題になります。このことから色々なことが言えてきます。

 まず、「思想又は感情」でなければならないので、単なる歴史的事実やデータは著作物ではありません。ですから、例えば、歴史的事実や実在の人物を取材したノンフィクションに基づいて戯曲を著作したという場合、歴史的なナマの事実をノンフィクションから借りてくる限りにおいては、これは他人の「著作物」を利用したことにはなりません。

 次に、著作物であるためには「創作的」でなければなりません。「創作性」とは「オリジナル性」のことですが、著作物になるためにはさほど高いオリジナルティが求められるわけではありません。例えば個人の日記や手紙だって、著作物になる資格は十分にあります。もっとも紋切り型の挨拶状などは創作性はないでしょう。
 第3に、「表現」とは何かと言えば、単なるアイディアは著作物ではないということです。例えば、他人の作品からおもしろいトリックのアイディアだけを借りてきても、それだけでは他人の著作物を利用したことにはならないのです。この関連で、いわゆる作風の模倣は、それだけでは著作権の侵害にはならないと言われます。例えば、タカラヅカ風のレビューを制作するだけでは、著作権侵害とは言えないのです。しかし、具体的な振付やストーリー、台詞が似てくれば、著作権侵害に当たる可能性があります。

 最後に、著作物の定義として「もの」という言葉がありますが、これは形のある物に固定されなければならない、という意味ではありません。例えば、即興演奏や即興講演は、たとえ誰もそれを書き留めていなくても、立派に著作物になることができます(注1)。もっとも、二度と再現不能かもしれませんが…。

注1 ただし、映画の著作物は物への固定が必要です。

 

 さて、それでは、舞台芸術のさまざまな要素について、それが「著作物」であるかを考えてみましょう。

 まず、「演劇公演」は著作物でしょうか?
 先の著作物の例には、「脚本」は挙がっています。「舞踊・無言劇」というのもあります。ここで、舞踊とは、ダンスなど舞踊作品の振付のことをいい、無言劇とは、パントマイムなどの無言劇の所作をいいます。しかし、「舞踊・無言劇」は挙がっているのに、「演劇」という言葉は意図的に除かれています。これはどういうことかというと、上演された公演全体を一個の独立した著作物とは考えず、「戯曲」「振付」「衣装・装置デザイン」「音楽」などの要素ごとに著作物と考え、演劇公演はこうした複数の著作物の集合体と考えるからです。

 つまり、戯曲については劇作家、衣装・装置デザインは美術家、音楽(楽曲と歌詞のこと)については作詞家・作曲家がそれぞれ著作者になるわけです。衣装デザインについては、一品製作のオリジナル衣装のデザインである場合、原則として著作物と考えてよいでしょう(注2)。また、舞台照明のデザインも、立派な「美術の著作物」に当たると考えられます(注3)。

注2 著作権法第2条2項「この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする。」

注3 舞台照明は、録画でもしない限り、見えた端から消えていってしまいますが、即興演奏と同じように、だからといって著作物でなくなるということはないでしょう。

 

 それでは、ダンサーの舞踊や俳優の演技、またミュージシャンの演奏はどうでしょうか。これは実は著作物ではなく、次回説明します「実演」として、別な形で保護されています。また、演出家や指揮者はどうでしょうか。彼らも、俳優やミュージシャンの場合と同様に、「実演」を行う「実演家」として別途の保護を受けます。

 では、主催者(自主事業の場合のホールなど)には、公演について何らかの著作権はあるのでしょうか。大変にポピュラーな質問ですが、一般的には主催者は著作者とは考えられていません。そこで、主催者や制作者が自らの権利を確保したいと思うのであれば、そういう内容の契約書を、劇作家や振付家らと結ぶことをお勧めします(契約については第3回以降)。

 なお、日本では、著作物として保護されるためには、ゥ表示や登録などの特別な表示や手続は必要ありません(注4)。

注4 ただし、一部の国では、こういう表示や手続きが必要な場合があります。

 

●それはどんな権利でアルカ?

 ある作品(音楽や戯曲、舞台美術)が著作物である場合、そこには「著作権」という権利の固まりが生まれます。どんな権利があるのか、下記の表をご覧ください。

 戯曲を例に説明すれば、執筆された戯曲を稽古のためにコピーするのは、「複製権」の問題です。また、戯曲を利用して公演を行えば、「上演権」の問題になります。上演された公演を録画すれば、これまた戯曲の「複製」となり、録画された公演が放送されれば「放送権(公衆送信権)」の問題になります。

 ここで言う「権利」とは、基本的に「禁止権」を意味しています。つまり、著作権者には他人の「複製」行為や「上演」行為を禁止し、差し止める権利があるということです。禁止できるということは、その裏返しとして「許可」することもできるということになります。これを「許諾」とか「ライセンス」といいます。

 また、「二次的著作物」という言葉がありますが、例えば、小説を原作として戯曲を執筆した場合、小説の方を「原著作物」、戯曲の方を「二次的著作物」といい、この戯曲を上演利用するには、原著作者である小説家と二次的著作者である劇作家の両方の許可がいることになります。

 

●それは一体誰のものでアルカ?

 さて、このような権利をもつ「著作権者」とは誰でしょうか?著作権法では、著作物を現実に創作した者を「著作者」と呼び、原則としてこの「著作者」が著作権をもつものとしています(注6)。ところが、この著作権は契約などで自由に譲渡することができます。また、相続の対象にもなります。そこで、著作権が譲渡されてしまって、「著作者」と「著作権者」が別々の個人・団体になるという事態も起こります。

 上で述べたように、「著作者」となって著作権を獲得するのは、著作物を現実に創作した人です(注7)。ところで、集団創作を旨とする舞台芸術の世界では、この「創作」をそもそも誰が行ったかということが問題になることがあります。例えば、演出家は、執筆された戯曲を上演台本化する過程でテキストレジーを行うことが少なくありません。また、主催者・制作者が完成した戯曲について劇作家との共同著作を主張することがあります。これらは、実際の創作過程の実態を見て判断するほかない問題ですが、基本的な企画の発案や執筆に当たってのアドバイスを行ったという程度の事情で、執筆された戯曲の共同著作者となるのはなかなか難しいでしょう。

注6 映画の著作物では例外があります。

注7 作品を現実に創作した者ですので、一般的には「著作者」は自然人になりますが、例外的に法人が著作者となる場合があります。これを「法人著作者」といいますが、そのためには厳格な条件を充たさなければなりません。

 

著作権(著作財産権)
複製権 印刷、コピー、写真撮影、録音、録画などの方法によって著作物を再製する権利
上演権・演奏権 著作物を公に上演したり、演奏したりする権利
上映権 著作物を公に上映する権利
公衆送信権など 著作物を放送・有線放送したり、インターネットにアップロード(送信可能化)したりして、公に伝達する権利
口述権 著作物を朗読などの方法で口頭で公に伝える権利
展示権 美術の著作物と未発行の写真著作物の原作品を公に展示する権利(注5)
頒布権 映画の著作物の複製物を頒布(販売・貸与など)する権利
譲渡権 映画以外の著作物の原作品又は複製物を公衆へ譲渡する権利
貸与権 映画以外の著作物の複製物を公衆へ貸与する権利
翻訳権・翻案権など 著作物を翻訳、編曲、変形、翻案する権利
二次的著作物の利用権 二次的著作物については、二次的著作物の著作権者だけでなく、原著作者も上記の各権利を持つ

注5 この展示権をめぐっては、おもしろい問題があります。装置・衣装などの舞台美術は美術の著作物に当たる場合が多いでしょう。その著作権は、特に特別な取り決めがない場合には、美術家にあると考えられます。ところで、デザインに対する「著作権」ではなく、製作された装置や衣装そのものの「所有者」は誰かというと、これは製作費用を出した主催者になる場合が少なくないと思います。言うまでもなく、「物」の所有者と言っても、著作権者の許可がなければ表に挙げたような著作物の利用行為はできません。ですから例えば著作物の上演利用はできません。

ところが、著作権法には、「美術の著作物の所有者は、そのオリジナル作品を公に展示することができる」という例外規定があります。そこで、制作者の中には、この例外規定を理由に、「自分は装置や衣装の所有権を持っているから、著作権者である美術家の許可などなくても、舞台美術の再演利用はできるはずだ」と考える方がいるようです。ところで、この例外規定で認められるのは展示利用だけで、上演利用はたとえ所有者といえどもできません。ですから、上のような意見を持つ主催者は、「装置や衣装を再演利用するのは、装置を舞台の上に展示しているだけ、衣装を俳優が着て展示しているだけであって、上演利用ではない」と解釈しているのです。随分無理な読み方のようにも聞こえますが、いかがでしょうか?もちろん、最初から契約で、舞台美術の再演利用について取り決めをしておけば、こんな問題は生まれませんが。

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