3月24日と25日、沖縄市民小劇場あしびなーで、コザ(沖縄市)出身の人気バンド“ディアマンテス”と子どもたちが共演するミュージカル 「あしびなーKid's Fiesta!」が開催された。
「ポンテ元気!」。5歳から中学1年生まで83人の子どもたちが、舞台狭しとディアマンテスのオリジナル曲にのって歌い、踊る。バックは、バンドのメンバーによる生演奏。5曲目、ヴォーカルのアルベルト城間が登場し、子どもたちと一緒に踊り出すと、舞台と客席の盛り上がりは最高潮となった。
ディアマンテスは、ペルー出身の日系3世、アルベルト城間を中心に91年に結成され、コザのライブハウス「パティ」を拠点に活動をスタートしたバンド。ラテンのリズムに沖縄の音を融合させた独特のサウンドで人気を集め、沖縄県内から全国へとブレイクした。一方、あしびなーが開館したのは、98年。笑築過激団の団長という現役の芸人、玉城満氏を館長に迎え、「あしびなー歌舞団」(※)の立ち上げなど、沖縄ならではの“チャンプルー(ごちゃまぜ)”文化を生かした事業を次々に企画し、注目を集めている劇場だ。
その、あしびなーがどのように“コザの顔”ディアマンテスを口説いたのか、アルベルトに聞いてみると「僕から館長に話を振ったんです」と明快な答えが返ってきた。きっかけはオープニング記念の館長との座談会。「本当の地域活性化とは、住んでいる人たち、特に子どもたちが、町の中での遊びを通して自分の町を大好きになることだと思う。それに僕のやっている仕事(音楽)を通じて関わりたいと思ったんです」。基地の町として外国人が闊歩し、日系人も多く暮らす“文化の交差点”コザへの特別な思いもあった。「“平和は大切”と理屈で言っても、子どもたちにはわからない。実際にどうコミュニケーションすればよいのか、その手段を伝えないと」。
当時、学校の隔週休2日制導入に対応して、小学生を対象にした事業を立ち上げようと考えていたあしびなーの副館長、照屋幹夫さんは、その話を聞いてすぐ「本気ですね」と確認しに行ったという。“チャンプルー”がテーマのあしびなーにとって、日系、ラテン、沖縄、と多彩な要素をもつディアマンテスは最適な素材だった。
「あしびなーKid's」と銘打ち、プロジェクトがスタートした99年。当初50人の募集枠に集まった子どもたちは350人。中にはタレント志望の親子も多かったという。しかし、コンセプトはあくまで“遊び”。「ミュージカル公演だけなら2、3カ月でできる。でも、大事なのはプロセス」と考えるアルベルトのコーディネートで、月2回、ゲームや、合唱、ダンス、朗読、世界の楽器など、さまざまなワークショップが企画された。運営はディアマンテスの事務所に委託。バンドのメンバーと、応援を依頼された演出家の平田大一氏をはじめとするアーティストたちが指導にあたった。会場では、日本語とスペイン語が飛び交う。ディアマンテス側もこうした取り組みは初めてで、「毎回手探りでした」と、制作の新里美奈子さん。予算は決して潤沢ではなく、スタッフは実質手弁当。途中からは“てぃーだキッズ”という市民による子ども支援組織が、ボランティアで応援に加わった。いよいよ舞台の稽古に入ったのは、今年の1月。
「全然緊張しない。みんながいるから」。25日の晩、最後の舞台を前に、子どもたちは元気いっぱいだった。2年間“チャンプルー文化”の中で遊んだ子どもたち。国や価値観の違いを超えて通用するタフな表現力をつけてほしいという劇場とアーティストの思いは、間違いなく子どもたちに伝わったように感じた。
今回のプロジェクトは、玉城館長のアンテナで劇場の外の人材を呼び込み、最大限に活用しようという“あしびなー方式”の成果のひとつだろう。キッズの事業は一旦終了するが「何らかの形で継続したい」と照屋さん。「学校との連携が弱かった」など、次への課題も話題にあがっていた。あしびなーとそれを取り巻く人たちが、次にどんなことを立ち上げるのか、興味が尽きない。
(宮地俊江)
● あしびなーKid's Fiesta! 概要
[日程]2001年3月24日、25日(2公演)
[会場]沖縄市民小劇場あしびなー
[演出]新垣ハイメ、仲地貴子、アルベルト城間(オフィス・ディアマンテス)
[演出協力]平田大一、城間エドゥアルド
[振付]前川パトリシア、前川顕治、平田大一
[企画]沖縄市民小劇場あしびなー
[制作]オフィス・ディアマンテス
※あしびなー歌舞団
流派を超えて、新しい琉球舞踊を目指すあしびなーのフランチャイズ専属の歌舞団。
20代を中心とした女性舞踊家15人が所属している。
※“あしびなー”は「遊びの庭」の意
地域創造レター 今月のレポート
2001年5月号--No.73