徳島市から路線バスで約1時間南西に下ると、なだらかな山々に囲まれたみかんの産地、勝浦町がある。そこの廃校になった旧坂本小学校で、3月10、11日の2日間にわたり子どもたちの造形ワークショップ「とくしま東方・験・文・録─わくわくショップ勝浦2001」が行われた。
徳島県では、明石大橋開通後の新しい県づくりを目指して、平成9年度に新長期計画を発表。今回のワークショップはその中の東部圏活性化ビジョン「とくしま国際文化村構想」のパイロット事業として行われたものだ。 「文化村構想」は、東部中山間地域の勝浦町、神山町、上勝町、佐那河内村の4市町村をモデル地区に、「自然資源と文化と交流の融合によって」地域の活力を高めていこうという取り組み。これまでに神山町でアーティスト・イン・レジデンス事業とこの「東方・験・文・録」が実施されている。 「東方・験・文・録」は、東京の武蔵野美術大学芸術文化学科との連携で実施されているもので、アーティスト・イン・レジデンス事業のプレ・セミナーに武蔵美から先生を招いたのが縁でスタート。平成11年に芸術文化学科が新設されたのを機に、地域や社会に根付いた芸術活動のためのフィールドワークを希望していた大学側と、「文化村構想」の中で文化による交流を模索していた県の思惑が合致し、この企画が持ち上がった。
今回、勝浦町で行われたワークショップのテーマは「光と影で遊ぼう」。町内外から30名の親子づれが参加した。初日は人型づくりのワークショップで、武蔵美の学生たちに手伝ってもらいながら、照明で自分の影を写しだし、段ボールを等身大の影の形に切り抜いていく。それにがらくたの山の中から材料を選んで飾り付けをする。色紙の心臓を貼ったり、キラキラ光るCDを目に見立てたり。さまざまに愉快で個性的な人型オブジェが出来上がっていった。
2日目はそのオブジェを使ったパフォーマンス。体育館にロープを張り人型を吊り下げ、照明を当てて白いスクリーンに影を映し出す。伸びたり、縮んだり、おばけのように自由自在に影が飛び回る･･･。 「おっきなものがつくれるから、楽しい」と小学6年生の新居健太郎君。「こんな風につくりなさい、というお手本のないところがいい」とお母さん。作品と並んで記念写真をとる親子や、孫を楽しそうにみつめるお年寄りの姿もあった。 「芸術は楽しいものなのに、芸術嫌いにしているのは学校教育なのでは…。生活の中にもっと芸術が浸透するために大学が地域にできることはたくさんあるはず」と芸術文化学科の今井良朗教授は語る。テーマの設定や材料の調達、当日の司会進行など、ほとんど学生たちが自分で行った。昨年から比べると驚くほど成長したと、教授は目を見張る。アートマネージメントの実践的学習としても貴重な経験であったに違いない。昨年、滞在した神山町の人々とは、今も家族のような交流が続いているそうだ。
今回も学生14名と教員スタッフを含めた19名が、地元の家々に民泊した。民泊先の負担を軽くし、住民に気軽に引き受けてもらえるようにと、食事は全員一緒に坂本集会所でとる。賄いは、自家製の寒茶などを製造販売している生活改善グループの主婦たちが受け持った。受け入れを担当したグリーンツーリズム実行委員会は、この廃校を宿泊施設にして農業や炭焼きなどの体験をしながら滞在してもらおうという、来年から実施予定のグリーンツーリズム事業の前哨戦として、このワークショップを引き受けた。「計画途中で不安は尽きないが、やってみなければはじまらない。神山町を視察したりして、自分たちでもできると思った」と山田善章委員長。
「文化村構想」としては、4町村の体制や思惑がそれぞれに異なるため、地域間の交流が進むにはまだまだ時間がかかりそうだが、「それぞれの町にあったやり方で、住民が自主的に考えたプランを実施していきたい」と県企画調整課の林恵子さんは考えている。3年計画のワークショップ事業だが、ぜひ継続させたいと県も町も大学も積極的だ。そのための体勢づくりの第一歩として、町を超えた実行委員会のネットワークづくりが、これからの課題である。
（パフォーミングアーツ・プロデューサー 花光潤子）
●『わくわくショップ勝浦』
［指導］楫義明（武蔵野美術大学芸術文化学科教授）
［企画実施］武蔵野美術大学学生 ［日程］3月10日、11日
［会場］勝浦町旧坂本小学校体育館
［問い合わせ］勝浦町役場産業振興課 Tel. 08854-2-1505
地域創造レター 今月のレポート
2001年4月号--No.72