一般社団法人 地域創造

ステージラボ熊本セッション報告

2001年2月20日~23日

 回を追う毎にカリキュラムがラディカルになっていくステージラボ。今回は2月20日から23日まで、熊本県立劇場を会場に実施されました。演劇、音楽コースのコーディネーターが現役の演出家、作曲家だったこともあり、まるで創作合宿のような4日間でした。

 会場の熊本県立劇場は、東京文化会館も手がけた前川国男氏の設計で、1982年の開館当時は、コンサートホール(1808席)と演劇専用ホール(1161席)をもつ、日本で初めての複合文化施設として注目を集めました。2つの専用ホールをまたぐように巨大なモールがあり、入口を入るとまずその空間の広さに驚かされます。

 今回のラボでは、建築コンサルタントが案内するバックステージツアーをはじめ、搬入口や劇場事務所入口での演劇発表、練習室に音響機材を持ち込んだ作曲活動など、館内をくまなく使って研修事業が行われました。コーディネーターや受講生の無理難題を、嫌な顔ひとつせず聞いてくださいました技術スタッフやホール職員の皆さま、本当にどうもありがとうございました。こうした現場対応のあり方そのものが、受講生にとっては一番のお手本になったのではないでしょうか。

 

●ハイライトは創作演劇3本立て!

 これまでのラボの中でも1、2位を争うほどハードなカリキュラムが組まれていたのが、平田オリザさんがコーディネーターを務めた演劇コースです。講師は平田さんを筆頭にすべて青年団のプランナーで、青年団式の芝居づくりを学ぶワークショップと、実際に自分たちで脚本から演出、舞台美術まで手がける創作演劇づくりが平行して行われました。食事時間は脚本づくりの打ち合わせ、夜は平田さんによる現代演劇概論の講義という、演劇漬けのバラ色(!)の日々。

 

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平田オリザ氏の講義(演劇コース)

 まずはじめに、受講生たちがチャレンジしたのが、青年団の特徴でもある「同時多発の会話劇」です。別の人とボール投げをしながら背後の人に話しかけた時、隣のテーブルでは別の会話が進行している、とそこに誰かが割って入り・・・といった具合で、みんな、はじめてお手玉をした子どものようなはしゃぎようでした。

 「このテキストのポイントは、登場人物の意識の流れを明確にすること。意識の方向性としゃべっている方向性は、同じとは限らない。歩いたり、ボールを投げたり、他のことをやりながら同時多発の会話をやると、役者の意識が分散されて、演技がナチュラルになり、楽しそうに見える」と平田さん。

 この他、杉山至さんによる舞台美術のワークショップでは、「日常暮らしているところにも劇的な空間が潜んでいる」をテーマに、館内を歩いて魅力的な空間を発見し、実際にそこに見合う美術プランをつくって仕込む、大胆な試みも行われました。

 演劇コースのハイライトは、最終日に行われた受講生による創作演劇の発表会です。全員が宿題として考えてきた設定の中から3本を選び、3グループに分かれて登場人物、時代背景、プロット、上演場所(館内のどこかを選ぶ)、舞台美術などをみんなで検討。搬入口の荷さばき場を使った「幽霊バス」、演劇専用ホールのステージ上でセリを下ろしたまま上演した「こけら落とし前夜」、劇場事務所ロビーで来客を借景にしながら上演した「分娩室」の3本を、会場を移動しながら上演しました。

 

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『幽霊バス』リハーサル
(演劇コース}

 どれも爆笑ものの短編に仕上がっており、「ワークショップでは芸術家としてもっている技術を提供している」という平田さんの手腕には脱帽。八代市厚生会館ホールの中田好信さんは、「僕は自分で“四次元ぽけっと”という劇団をやっているので、脚本を書くヒント、役者を育てるヒントがもらえてとても有意義だった」と言い、早速、地元で応用しますとのことでした。

 ホール職員はアートという価値の定まらないものをやるのだから“闘う姿勢”を身につけて欲しい──平田さんの締めくくりの言葉が、受講生には重い宿題になったのではないでしょうか。

 

●ミュージシャンとコラボレーション

 

 作曲家の中村透さんがコーディネーターを務めた音楽コースでは、ラボ史上初の実験的なプロジェクトに取り組みました。そのプロジェクトとは、受講生が自分の町をイメージしてつくった「オリジナル詞、曲、ナレーション」を題材にして、中村透作曲、ミュージシャンと受講生のコラボレーションにより、「ストーリー構成コンサート《夢の中の四季》」を完成させるというものです。

 このプロジェクトに参加したミュージシャンは声楽家の玻名城律子さん、クラリネット奏者の當眞むつきさん、パーカッショニストの定成庸司さん、ピアニストの三上徹さん、そしてチェリストのイムレ・カールマンさんの計5名。もちろん最終日には受講生も全員が出演し、独唱、合唱、朗読、演奏、効果音で綴られた四季を巡るコンサートが開かれました。 中村さんと言えば、沖縄のシュガーホール芸術監督として市民参加によるコンサートや音楽劇を創作し、多大な成果を上げているプロ中のプロ。「足下から音楽素材を掘り起こし、音楽を創造するプロセスを体験してもらいたかった。地域の人とプロミュージシャンでどれくらい音楽コラボレーションができるか、という発想を磨いてもらうために、みんなにコラボレーションしてもらった。プロの方々には、チェロとクラリネットで花火の音をつくれないかとか、過酷な要求をした。パートナーとして本当によく協力してくれたと思う」と言う中村さん。

 受講生は、声を出すためのワークショップや合唱指導を受けた後、春、夏、秋、冬の4グループに分かれ、ミュージシャンとのコラボレーションでつくった音源素材、演劇素材、オリジナル曲の音楽素材などを構成しながら、コンサートの企画を詰めていきました。

 最終日、東京文化会館の米村由香さんの詞に中村さんが曲を付けたテーマ曲『When Know ?』でコンサートがはじまると、音楽コースの受講生の感動が客席に伝わり、会場の空気がすっとひとつに。静岡弁をつかった『ぬくといねワルツ~しぞーか弁』『カルガモ組曲』『雪』など、オリジナル曲は計4曲。コンサートを終え、ひとりひとりが握手し合っている姿はとても印象的でした。

 

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音楽コース発表会

 当日、舞台監督として、複雑な進行を一手に引き受けた益城町文化会館の西山広成さんは、「アーティストの気持ちが身近に感じられ、直接、話もできてとてもよかった。僕らがわけもわからず出した素材が、だんだん膨らんで、たった3日間でこんな作品になるなんて本当に凄い。これまでは、決められたことを終わらせるのに終始してきたが、今回のコラボレーションでイメージを広げられるようになった。今、益城在住の音楽家とアウトリーチを企画しているが、これを踏まえてアーティストにもアドバイスができるんじゃないかと思っている」と興奮気味でした。

 

●法律講座から小学校への出前コンサートまで

 

 演劇・音楽コース以外でも、大江小学校での出前打楽器コンサートやサロンコンサート(運営基礎と共通)を体験したホール入門コース、パパ・タラフマラ代表の小池博史さんによるワークショップやホールのミッションを達成するための事業計画づくりを行った運営基礎コースなど。いつもながらに盛りだくさんのプログラムで、受講生は受験勉強さながらの詰め込み状態だったのではないでしょうか。

 特に、共通プログラムとして約3時間半にわたって行われた「たのしく学べる公共ホールの法律教室」は、知っているようで知らない「舞台芸術と著作権」の話が満載で、まさに詰め込み式に覚えたくなる、久々のお勉強気分が味わえました。講師は世田谷パブリックシアターの顧問弁護士で、日本で唯ひとり、舞台芸術を専門にされている福井健策さんです。豊富な事例と軽妙な語り口で、あまりの面白さに時間を忘れるほどでした。話の内容をここで詳しくご紹介することはできませんが、次号のレターから福井さんによる「制作基礎知識シリーズ・公共ホール職員のための著作権と契約(仮題)」の連載がはじまりますので、そちらの方を参考にしてください。

 手前味噌になりますが、コーディネーター、講師、受講生の方々の尽力により、ステージラボは回を重ねる毎に意義深いものになっていくように思います。最後に、入門コースの受講者の初々しいコメントをひとつご紹介しましょう。 「アウトリーチやロビーコンサートなど、自分のところでやっていない事業に触れられたのがとても参考になった。有名な演奏家の売れそうなコンサートをもってくることばかりを考えがちだが、これからは来た人が楽しめるコンサートをやりたいと思った。自分のところで仕事をすすめるときに悩みを打ち明けられる仲間ができてとてもうれしかった」

こういう感想を聞く度に、ラボの基本はここにあると改めて思いました。

 

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大江小学校での打楽器出前コンサート(ホール入門コース/中谷孝哉氏)。5年3組30名の児童を対象に小学校所有の楽器を使って実施。子どもたちからは「(マリンバの演奏中に)どうして手で扇ぐんですか」「そんなに早く手を動かして痛くないんですか」など、素朴な質問が飛んでいた。

 

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運営基礎コース企画発表風景。グループ毎に、メンバーの中から選んだ対象ホールについて、ホールのミッション(使命)、それを実現するための具体的な事業計画とプロジェクト名、効果を図る方法を発表。「三世代総文化漬け計画」「プロジェクト近松」「ロミオとジュリエットの視点から」など力の入ったプロジェクトが並んだ。

 

●ステージラボ熊本セッション スケジュール表

 
ホール入門コース
2

20

(火)
全体オリエンテーション・地域創造事業紹介
熊本県立劇場施設見学、事業紹介
「コミュニケーション Ⅰ」
“ココハドコ? ワタシハダレ?”
松原千代繁、桑原三知子
交流会
 
2

21

(水)
「コミュニケーション Ⅱ」
“パブリックシアターって何?” 松原、小山内秀夫
「コミュニケーション Ⅲ」
“はじめにアイサツありき” 梅津千草
「コミュニケーション Ⅳ」
“役者の仕事ってなーに?” 小山内秀夫
 
2

22

(木)
「コミュニケーション Ⅴ」
“ステージマネージャーってなーに?” 猪狩光弘
「コミュニケーション VI」 
“スキマシゴト ウラシゴト” 桑原
共通プログラム たのしく学べる公共ホールの法律教室 ~舞台芸術と著作権・契約~  福井健策(ニューヨーク州弁護士)
「コミュニケーション VII」 
“トロンボーンって知ってる?”
宮下宣子、出水智子
2

23

(金)
「コミュニケーション VIII」 
“アウトリーチってなーに?” 
 中谷孝哉、幸子
「コミュニケーション IX」
“聞き足りないこと 話し足りないこと”
演劇・音楽コース発表会(演劇ホール、音楽リハーサル室ほか)
全体会

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