講師 星野もと子 (茂登子改メ)
(シアターマネージメントプラン代表)
● フロントスタッフの研修項目
最終回の今号では、フロントスタッフに必要な研修について整理します。研修の項目は、大きく次の3つに区分されます。
1.接客業としての基本を習得する「基本接遇研修」
2.フロントスタッフとして必要な知識・技術を習得する「専門知識・技術研修」
3.緊急時に必要となる避難誘導や救急処置などの訓練を行う「特別業務研修」
ホールのフロントスタッフ研修を行う場合、この3項目の研修をすべて行うことが必要となります。具体的なカリキュラムの内容は、ホールの規模や研修日程により変わってきますが、例えば、800席程度でクロークのあるホール(前回の制作基礎知識シリーズ「表方の体制づくりとマネジメント」でモデルにしたホール)の場合、接遇基礎研修1日、専門知識・技術研修3日で、右頁のスケジュールのようなカリキュラムが考えられます。研修対象になるホールが複数の場合は、これより研修日程は長くなります。また、体験型の研修のため、1回の受講生の数は20名が限界となります。
では、このカリキュラムに沿って少し具体的な研修内容をご紹介したいと思います。
● 接遇基礎研修
フロントスタッフの業務の基本は接客業だということ。接客業として必要なマナーを身につけるのが、接遇基礎研修の目的となります。 ホールのフロントスタッフに限ったことではありませんが、接客業におけるマナーの五原則は、『挨拶・表情・態度・言葉遣い・身だしなみ』だと言われます。接遇基礎研修では、その五原則が実践できるよう、正しい立ち方から歩き方、お辞儀の仕方、言葉遣いの基本まで、実例に沿って習得していきます。 特に“日常生活とは異なる”挨拶や感じの良い表情、スマートな動作(無駄がなく、効率の良い動き)、正しい敬語と感じの良い言葉遣い、おしゃれと身だしなみの違いなどを理解していただくことが重要となります。
● 専門知識・技術研修
フロントスタッフの業務の内、「通常業務」に関するすべてを習得します。 まず1日目は、知識編です。業務内容を正しく理解し、具体的にどのうようなタイムスケジュールで公演当日業務が進行するのかを、マニュアルに沿って理解していきます。 2日目以降は、実践編です。頭で理解した内容を実際のホールで対応できるよう、シミュレーション形式で進めていきます。 まずは、施設全体の構造(化粧室・座席番号・客席扉・ホール以外の施設など)を把握し、いつ、どの場所で、何を聞かれても、適確に、感じ良く答えられるよう、各場所でのさまざまな対応を想定しながら実践していきます。
次に、個別業務のシミュレーションを行います。例えば、『もぎり』では、効率の良いチケットのもぎり方(受け取り方・持ち方・切り方・渡し方)を習得し、お客様役とスタッフ役に分かれ、実際のチケットを使用し、エントランスで時間を計りながらロールプレイングを行います。1分間に20枚のチケットをもぎれることを目標とし、実際に何枚もぎれたか、アイコンタクトはできていたか、チケット内容の確認が正しくできていたかなどをチェックしながら行います。
『扉の開閉』では、開け方・閉め方、効率の良いストッパーのかけ方、時間帯(開場時・1ベル時・開演時・休憩時・終演時)に応じた扉の状態(特に1ベル時においては、どの扉が一部閉まっている状態なのか等)を理解し、瞬時に判断してお客様に対応できるよう実践していきます。 『遅れ客対応』では、ホワイエでの対応(なぜ入れないのか、あと何分で入れるのか、などをお客様へ説明する)と、客席内での対応(誘導する際の姿勢はできるだけ低くし、ペンライトはお客様が次に踏み出す足場を照らし、お客様が自席に着席したことを確認してから戻ってくるなど)の一連の流れを、客席内を暗くした状態で行います。
『クローク』では、ホール毎のクロークシステム(例:複数点同時に預る場合のタグの使い方・棚の使い方など)を理解し、自分たちのコートや荷物を使用してシミュレーションを行います。特に返却に際しては、1分間に3件の返却ができるよう、時間を計りながら実践していきます。
●特別業務研修
今回のカリキュラムには載っていませんが、特別業務に関しても研修を行う必要があります。避難誘導や救急処置については、消防署や日本赤十字社が主催する、防災訓練や救急法救急員認定講座の受講を義務づけるなど、専門機関における訓練を受講すると良いと思います。
ホールの研修では、車椅子のまま客席まで入場できる導線や点字ブロックの位置の確認、車椅子の押し方や白杖をご使用の方の誘導方法などを習得します。
こうしたフロントスタッフの研修については、業務に従事する人はもちろんですが、ホールに所属する「人」全員が受講する必要のある、ホール職員の心得というべきものです。自分は直接お客様と接する担当ではないから関係ない、ということではなく、お客様との接点は、問合せの電話1本から始まっているという心構えが必要です。ホール運営に関わる者として、ホールに所属する以上は、最低限お客様に不快感を与えないマナーを身につけることが大切なのではないでしょうか。
●研修カリキュラム
接遇基礎研修/実施期間:1日間
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時間
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内容
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10:00
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10:30
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2. 接客業務についての理解 【30分】 ①接客業務とは? ②接客業務に必要なことは? ③マナーとは? ④現在の自分の接客レベルは? |
11:00
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3. 基本マナーの習得 【4時間】 (5原則の実践) 1)挨拶 2)表情 ※感じの良い表情づくり |
13:00
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3)態度 ※スマートな動作 (無駄がなく、きびきびとした動き) ①正しい姿勢・立ち方 ②お辞儀の仕方 ③物の受け渡し方 ④案内の仕方 ⑤歩き方・座り方 ⑥その他 4)言葉遣い ①言葉遣いの基本 (正しい敬語の使い方) ②感じの良い言葉遣い・接客用語 ③苦情処理話法 5)身だしなみ ※おしゃれと身だしなみの違い |
16:00
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4.エゴグラム~自分を知る【30分】 |
16:30
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質議応答・まとめ【30分】 |
専門知識・技術研修/実施期間:3日間
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9:40
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1. オリエンテーション 【10分】 ①講師自己紹介 ②本研修の目的 |
1. オリエンテーション 【10分】 ①本日のスケジュール |
1. オリエンテーション 【10分】 ①本日のスケジュール |
10:30
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2. フロントスタッフの 業務について 【70分】 1) 業務内容の把握 ①もぎり ②クローク ③客席案内 2) 必要なスキルとは? 3) 業務の流れ ①タイムスケジュールについて |
2. ホールでのシミュレーション 【5時間】 1) 施設全体の把握(各階) ①各種施設 ②座席の構造 ③客席扉の把握 ④ホール以外の設備の把握 2) 5原則を活用した案内 |
2. ホールでのシミュレーション 【5時間】 1) クローク業務 ①クローク備品の説明 ②預りシミュレーション |
11:00
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3. 専門知識 【3時間50分】 1) 基礎知識 ①用語解説 ②公演説明書の見方 |
3) もぎり業務 ①チケットの切り方 ②口上 ※開場時のエントランス扉の 開け方 ③指定席の振り分け |
③返却シミュレーション |
13:00
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③公演ジャンル別基礎知識 ④施設概要の確認 ⑤扉の開閉の仕方について 2) マニュアルの理解 ①もぎり ②クローク ③客席案内 ④イレギュラー対応について |
④もぎりシミュレーション(通し) ※スタッフ役とお客様役に 分かれて シミュレーション 4) 扉の開閉 ①扉の開閉の仕方 ②ストッパーの使用方法について ③客席扉の開閉シミュレーション 5) 遅れ客対応 ①ホワイエ対応 ②客席内対応 |
2) リクエスト ※受講生からの希望項目 3) 全体シミュレーション ※朝礼~終礼までを タイムスケジュールに則り シミュレーション。 ※全員がスタッフ役をできる ように。 |
16:20
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4. まとめ 【40分】 1) 質疑応答 2) 2日目研修内容について |
3.まとめ 【40分】 1) 質疑応答 2) 3日目研修内容について |
3. まとめ 【40分】 1) 質疑応答 |
※昼休み1時間と、およそ1時間毎に10分程度の休憩が入りますが、表内で【 】で示している時間は、休憩時間等を含まない、実質所要時間です。