一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズ Vol.13 表方の仕事編③ 表方の体制づくりとマネジメント

講師 星野茂登子
(シアターマネージメントプラン代表)

 

● フロントスタッフの体制づくり

 今号では、実際にフロントスタッフを組織する際の体制づくりについて、整理します。体制を考える場合、誰がフロントスタッフの役割を担うのかが、ポイントとなります。一般的には、次の3種類が考えられます。

 

1. ホールの直接雇用者(アルバイト契約者を含む)で組織する場合
2. 民間業者へ業務を委託する場合
3. ボランティアスタッフ(ホールで組織)で組織する場合

 

 この3種類のうち、どの形式が一番良いかは、一概には言えません。そのホールの目的や規模、事業内容、立地環境、さらに運営管理体制等、さまざまな条件を考慮した上で、誰がフロントスタッフの役割を担うのかを決定することが大切です。

 最近の傾向として、ボランティアスタッフで組織するケースも増えていますが、導入時には研修を行い、また、常に正しい知識や技術力を維持するためのステップアップ研修を実施するなど、ホール側は運営管理の責任としてフロントスタッフを育成する環境を整えなくてはなりません。

 また、民間業者へ業務を委託する場合では、劇場・ホールを専門としている業者は全国でも数えるほどしか存在しないので、ホールでの業務経験が全くない他業種の会社が担当し業務に支障が生じることもあるため留意する必要があります。

いずれにしても、フロントスタッフは、業務内容を正しく理解し、専門知識と技術を身につけた人材であることが求められます。そのためには、まず運営管理責任者であるホール側が、その重要性を正しく理解し、フロントスタッフの体制をつくっていくことが不可欠です。

 

● 適性人数の把握

 次に、公演当日にフロントスタッフが何人必要になるのかを考えていきましょう。人数算出の根拠は、ホールの大きさ(客席数)、ホールの構造(階数および階層)、 附帯設備の状況(クロークの有無等)で変わってきます。この3点の条件を基に、通常業務および特別業務を支障なく行えるスタッフの人数を算出します。

 例えば、800席、3階・2層、クローク有(コートの預り250件+荷物の預り150件=計400件)というホールの場合、フロントスタッフの人数は、最低計15名が必要となります(内訳および算出根拠は以下の囲みのとおり)。

 この15名が、タイムスケジュール(地域創造レター2000年11月25日発行号・制作基礎知識シリーズ表参照)に則り、すべての対応を行っていくことになります。ただし、この数字はあくまで一例であって、客席の構造や客席扉の枚数など、ホールによって諸条件が異なりますので、あくまでも人数算出の例として考えてください。

 

● マネジメント業務(指示命令系統・管理)

 次に、全体を統括するマネジメント業務について整理していきましょう。フロントスタッフを組織する場合、全体を統括するマネージャーが必要となります。マネージャーの主な業務内容は次の通りです。

当然のことながら、マネージャーは、フロントスタッフ業務の全てに精通してしていなければ、その役割を果たすことはできません。このため、マネージャーはフロントスタッフの経験があることが必須条件となりますし、また、事前の打合せにも参加し、公演本番に際しては「表」に常駐できる体制でなければできません。

 フロントスタッフをボランティアで組織する場合には、このマネージャーをホール職員が担当していることが多く、また、その事業(公演)の担当者が兼任していることも多いようです。しかし、公演当日の事業担当者は、開場前から出演者サイドの対応に時間を取られてしまうことが多く、予定通りに朝礼が実行できなかったり、開場後も「裏」と「表」を行き来せざるを得ず、必要な時にはその場にいなかった、という事態になりがちです。可能な限り、フロントスタッフマネージャーは事業担当者が兼務するのではなく、専任者を配置することが望まれます。

 マネージャーもボランティアスタッフに委ねる、という考え方もありますが、事前打合せや非常時の責任問題などもあるため、常駐者でなければ対応できません。

 また、ホール職員がマネージャーを兼務する場合もボランティアを組織したのだから全てお任せ、という姿勢ではなく、ホールにおける運営管理の責任としてフロントスタッフ業務に精通し、全体を統括するマネージャーとして指揮が取れるよう研修を受けることが必要です。

 実際のフロントスタッフの体制づくりに際しては、まずは、ホール側が十分にその重要性と必要性を理解し、そのホールに合った体制をつくっていくことが大切です。いずれにせよ、専門的な研修が必要であることに変わりはありません。

 

◎内訳と算出の根拠

 

・もぎり2名
来場者1名当たり3秒で計算。新人の場合は4名体制)。
800人(来場者)×3秒(1人当たり対応時間数)÷1500秒(60秒×25分※)=1.6人=2名
※開場時間が30分間の場合、開場から1ベルまでの25分間として計算。

 

・客席案内9名
各階3名。開演中は1名:場内監視業務。2名:ホワイエ対応。
開演後は、各層最低1名は、場内監視業務として客席内にて待機。また、ホワイエ側においても、遅れ客対応・再入場者(客席から一旦退出された方の再入場)のチェックなど、上手・下手側両サイドに最低1名が待機。

 

・クローク4名
終演時は約2倍の人数が必要。
400人×20秒(1人当たり対応時間数)÷1200秒(60秒×20分※)
=6.6名=7名(終演時の必要人数)
→開場時=4名
→終演時=7名
※すべての返却に要する時間数は、20分間が限度。

 

●マネージャーの主な業務

① 事前打合せ
出演者サイド、主催者(事業担当者)、技術スタッフとともに公演内容等について事前打ち合わせを行う。

②公演当日の打合せ
曲名や各曲の時間数、遅れ客の入場タイミング、イレギュラー対応や、当日の天候等も踏まえた上での諸対応について、出演者サイド・事業担当者・技術スタッフと打合せを行い、最善策を決定。各セクションが共通認識を持つことが重要。

③「朝礼」の実施(フロントスタッフ対象)
②の打合せを基にして「公演説明書」を作成し、当日の公演ルール等を伝達するために朝礼を実施。「公演説明書」とは曲名や曲の時間、遅れ客対応のタイミング等、その公演に関する情報を1枚の紙にまとめたもので、スタッフに1枚づつ配布。

④フロントスタッフの情報の一元管理と指示
フロントスタッフ業務は連携プレーのため、情報をマネージャーが集中管理し、そこから瞬時に適確な指示・連絡を発信。

⑤公演時におけるイレギュラー対応

 

基本的な対応およびイレギュラーな事態の初期対応は各スタッフが担当するが、個別判断が必要な場合はマネージャーの責任となる。

⑥緊急・非常時における特別対応の実践と指示

 

◎打ち合わせおよび公演時における協議・連絡体制

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