一般社団法人 地域創造

公共ホール音楽活性化事業レポート(茨城県美野里町)

茨城県美野里町

 

 3年目を迎えた「公共ホール音楽活性化事業」では、新規登録アーティスト11人・組が、2001年2月まで全国12地域でアクティビティ(地域交流プログラム)とコンサートに取り組んでいます。本年度からハーモニカや木管五重奏などのアーティストも加わり、各地でバラエティに富んだ企画が続々と実施されました。

 その中の一つ、茨城県美野里町は、関東平野北部に位置する酪農の町。美野里町では2002年のオープンを目指し文化センターの整備を進めており、今回の事業はそのプレイベントとして企画財政課が仕掛けたものです。ハーモニカの小林史真さんを招き、12月5日から9日にかけて、町内の小・中学校と幼稚園、公民館を巡る計5つのアクティビティとコンサートが実施されました。今号では、さまざまな逸話が生まれたこの美野里町の事業をレポートします。

 

●子どもたちと開いた“森の音楽会”

 

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 今回のプログラムの中で、自然豊かな美野里町ならではの内容となったのが竹原小学校でのアクティビティです。3年生44人が、空き缶で楽器をつくり、小林さんと一緒に森の中で音楽会を開こうという特別授業に参加しました。

 12月7日、快晴。空き缶を手に理科室に集まった子どもたちはまず“水カンリンバ”づくりにチャレンジしました。これは、4つの空き缶を1本の筒状に加工し、その中を流れる水の音を楽しむという楽器です。「集中しないと、危ないよ」。小林さんの説明を受けながら、慣れない金切りばさみを手に何とか全員が2時間で自分の楽器を完成しました。

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 そして午後は、抜けるような青空の下、水カンリンバとリコーダーを手に、全員で校外に“遠征”。子どもたちは、道すがら水カンリンバを鳴らしたり、思い思いに歌を口ずさんだり、リコーダーを吹いたり、いつもと違う音楽の授業に大はしゃぎでした。そしてクライマックスは、畑の中の小さな森での音楽会。

 「みんなは、美野里の森からアイルランドの森へやってきました…」。

小林さんのハーモニカがアイルランド民謡を奏で、子どもたちが水カンリンバで演奏に参加すると、まるでそこはゆったりと川の流れる異国の森。鳥や蝉の鳴き声がする小林さん秘蔵の楽器たちも登場し、一層雰囲気を盛り上げました。夢見心地の表情の男の子が「催眠術みたい」とぽろり。誰もが音楽の不思議な力を体感するひとときとなりました。

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 実は当初、アクティビティはすべて校内で行う予定でした。しかし、9月に下見のため美野里町を訪れた小林さんが「外に出ましょう!」と提案。「持ち運び自由なハーモニカの魅力を生かしたかった。何より美野里の自然はすごく豊か。その自然の中でインスピレーションを受けながら音を楽しむ、そんな習慣を子どもたちに知ってもらいたかったんです」と小林さん。

 このほかのアクティビティも大好評で、最終日のコンサートは、大入りの満員に。小さな楽器が生み出す豊かな音色に感動したお客様が多かったのではないでしょうか。また、アクティビティに参加した小・中学生が小林さんと共演する場面もあり、美野里町らしい演出が光ったコンサートとなりました。

●学校との関係づくり

 

 文化センターのプレイベントとして取り組まれた今回の事業には、オープン後への布石として、いくつかの試みが盛り込まれました。その一つが学校との関係づくり。文化センターの基本構想には、“子ども”への取り組みを重視する事がうたわれています。「でも、実践してみると、お互いの立場もあり小学校との調整は大変でした」と、町企画財政課の深作拓郎さん。

 

 春に校長会で企画趣旨を説明し、ぜひ、と竹原小学校から手が挙がったところまではよかったものの、小学校側もアーティストを受け入れるのはあまりない経験。しかも、単なる“音楽鑑賞”ではなく楽器づくりと組み合わせた体験授業とあって、何の時間を充てるか、必要な道具、さらにはアーティストとの接し方といったことまで、町職員は先生方との連絡に追われたといいます。

 

 そして一つの山となったのが、小林さんが提案した“外に出る”というプラン。事故の心配などから学校は外に出ることには慎重です。しかし、保険の確認、救護車の手配など一つ一つ丁寧に話しあう中で、了解をもらうことに成功しました。そして図工と音楽の時間を組み合わせた4時間の特別授業として、あの森の音楽会が実現した訳です。
深作さんは「いくつかの問題はありましたが、子どもたち、先生方の反応はとても良かった。文化センターの事業では、子どもたちと“体温の感じられる距離”で接する事が大切だと思っていましたが、その方向性が間違っていないことを確認できたように思います」。

 

●町民スタッフの活躍

 

 そして忘れてならないのが、「町民による文化センターオープニングを目指す会」の活躍です。町では、住民参加による施設運営を目指し、基本構想・設計の段階から公募による町民委員との会議を重ねてきました。その過程の中から、イベント好き、町づくりに興味がある20代から60代の16人が集まって発足したのが「目指す会」。今回のプレイベントでは、一連の企画の裏方として活躍したほか、アクティビティの一つとして小林さんを囲んでの「Classicサロン」を主催しました。手づくりのハーモニカ型ケーキや和菓子を振る舞うなど町民ならではの心憎い演出で、小林さんは大感激。町民と音楽家との距離がぐっと縮まった会となりました。

 

 多くの人・セクションを巻き込んで展開された美野里町のプロジェクト。行政、学校、町民、子どもたち…、それぞれの経験と感動が、新文化センター運営に向けての何よりのエネルギーとなったのではないでしょうか。
2月には、兵庫県山崎市をはじめ3地域で公共ホール音楽活性化事業が行われる予定(欄外参照)です。お近くの方は、ぜひ覗いてみてください。

 

●美野里町事業概要

 

[出演]小林史真(ハーモニカ)、田村緑(ピアノ)
[プログラム]①中学校訪問コンサート
「小林史真おしゃべりコンサート」(12月5日)

 

②親子で楽しむ「Classic Cafe」(12月6日)※幼稚園児とその父母を対象にした参加型ミニコンサート。
③Classicサロン(12月6日)
④小学校訪問ワークショップ
「ジュースの缶を楽器に変身させよう」(12月7日)

⑤コンサート「小林史真ハーモニカコンサート」(12月9日)

 

●今後の公共ホール音楽活性化事業の予定

◎兵庫県山崎市

日程    2月9日~11日
会場    山崎文化会館
出演    トウキョウ・ウインズ(木管五重奏)
◎福岡県春日市

日程    2月17日、18日
会場    春日市ふれあい文化センター
出演    トウキョウ・ウインズ(木管五重奏)

◎熊本県城南町

日程    2月22日~25日
会場    火の君総合文化センター
出演    青盛のぼる(ソプラノ)、村上敏明(テノール)

 

●公共ホール音楽活性化事業とは

 

地域創造が、クラシックの新進演奏家を地域に派遣し、数日間の滞在期間に地域の公共ホールと協力してコンサートと地域交流プログラム(アクティビティ)を実施する事業。アーティストの出演料、公演に係る旅費、アクティビティに係る経費の一部を地域創造が負担。登録アーティストは2年に一度行われる全国公募のオーディションにより選出される。

 

●公共ホール音楽活性化事業に関する問い合わせ

 

地域創造芸術環境部 羽藤・宮地
Tel. 03-5573-4064

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