「町をあげてのお祭り状態ですよ」との誘いに、沖縄県佐敷町シュガーホールの町民ミュージカル公演『りっか!』を見に行った。 シュガーホールは、サトウキビ畑を切り開き94年に開場した音楽専用ホールで、音楽監督の中村透氏による町民参加型運営で公立ホール関係者にはよく知られている。佐敷中学校吹奏楽部との連携、ジュニア合唱団の育成、町民音楽祭、文化団体が協力する成人式など、町の行事と町民の創作活動とホール運営を一体化した取り組みは、開館から6年、どのような展開をみせているのだろうか。
今回は、それまで別会場で行われていた町の文化祭「さしきまつり」と町民ミュージカルを合体。シュガーホールとホール駐車場に組まれた特設会場を舞台に2日間にわたってイベントが催された。 「さしきまつり」のオープニングは11月4日午後1時。佐敷小・中学校吹奏楽部101名によるパレードを皮切りに、吹奏楽部生徒によるファンファーレに合わせた町長の開会宣言、中高運動部員百数十名を従えた「(みんなで合わせて)2000キロマラソン」の最終ランニングと、開場してたった15分の間に佐敷町民四、五百人が祭りの主役になっていた。この後も、幼稚園児や小学校児童によるエイサーなどが続き、夜には文化協会の琴・三線の演奏家100名と、この日のために三線教室に参加した初心者を含めた200余名の町民による三線の大合奏が行われた。 午後2時、満席のホールで、4歳から81歳までの町民170名が出演するオリジナルミュージカルが開幕。物語は、少年カケルが佐敷町の偉人に導かれ、彼らの若かりし頃にタイムトリップして、海の民と山の民の冒険を体験し、夢を取り戻していくというものだった。 チラシを見ると全出演者が住んでいる地区名付きで掲載され、99年1月に町民の有志20名が集まって開いた「ゆんたくの会」の企画会議にはじまる制作の歩みが詳しく記されていた。 シュガーホールの町民ミュージカルの特徴は、 プロと町民が共働作業している、 シンガーソングライター・三線演奏家・琉球舞踊家・音楽の先生など地元の専門家が創作に参加している、 オーディションメンバーだけでなくジュニア合唱団・老人クラブ・棒術保存会・野球部など地域で活動している団体が参加しているなど、創作活動により町ぐるみの交流が実現している点。
口で言うのは簡単だが、これだけの町民一人一役をコーディネートしたホール側の芸術文化に対する(町をよくするという)信頼感は並々ならぬ ものだと思う。 「民舞をやっている老人クラブにプロを派遣してフラダンスと大正琴を指導してもらった。出演者が3人乗るイカダの仕掛けをつくったのは町の溶接屋、サメの巨大人形は水産高校出身の教育長が指導した。中学生が美術と技術の時間につくった魚100匹を操ったのは少年野球のメンバー、海んちゅ(海の民)の踊りは流派の違う琉舞の人たちによる創作舞踊、波幕を担当した高校生の中には第1回町民ミュージカルの出演者もいる。とにかく4年前とは比べものにならないほどいろんなことが広がった」と言う町役場のキーパーソンの一人、渡名喜元久氏。 出演者の一人で町民劇団のメンバーである津波恭さんは、「若い時には那覇や東京しか見てなくて、いざ地元で結婚して我に返ると足下が全く見えてなかったことに気づいた。それで若い奴が集まれる場をと青年会をつくり、シュガーホールとも関わりをもとうと劇団を旗揚げした。僕らは芝居をやりたいというより繋がりをつくりたくてやっている。ここに来るとホールの人たちがそれをつくってくれる」と言う。
3カ月間佐敷に住み込んで演出助手をやった東京の女優、端田新菜さんは、「3カ月 で300人以上の名前と顔を覚えた。普段からお年寄りや若い人や子どもが出入りしていて、クラシックもあれば三線教室もあり、本当に豊かだと思った」とか。今、スポーツの世界では、学校のグラウンドを拠点にジャンルや世代を越えて活動し、相互交流によるスキルアップを図る「地域総合スポーツクラブ」が注目されているそうだ。ホール運営も同じで、こうした地域の総合力を高める「地域総合文化クラブ」的な取り組みが求められているのではないだろうか。(坪池栄子)
●さしき夢ミュージカル2000『りっか! この風にのって』
[日程]11月4日、5日
[会場]シュガーホール
[主催]川口市
[イメージストーリー]新垣篤
[脚本]上田真弓
[演出]岡村春彦
[演出助手]端田新菜(青年団)
[音楽監督]中村透
[作・編曲]渡名喜宏、瀬底正真、喜久川ひとし、高宮城徹夫、中村透、宮城竹茂、小越友也、真栄城勇
[美術]宮城麗
[振付]瀬川真寿美
[企画]2000年町民ミュージカル「ゆんたく会」
[主催]佐敷町文化のまちづくり事業実行委員会
地域創造レター 今月のレポート
2000年12月号--No.68