小学校との連携など、地元を巻き込んだ一大イベントに
会場となったのは、いまだに視察が絶えないという、24時間・365日稼働・市民の自主管理で有名なアートセンター「金沢市民芸術村」です。前回の高知セッションに引き続き、美術コースが開講されたのに加え、午前0時からロウソクの灯りで怪談噺の会が催されるなど、閉館時間のない(!)施設のメリットをフルに生かしたカリキュラムとなりました。
また、演劇コースの長谷川孝治さん(演出家)をはじめ、ジャズ絵本の語り手の顔をもつホールプロデューサーの能祖将夫さん、自称落語家の学芸員、高橋直裕さんなど、これまでのマネージメント系コーディネーターに対し、“実演系”コーディネーターが顔を揃えていたこともあり、どのコースもイベントが満載でした。その分、現地で受け入れてくださった金沢市民芸術村の方々、およびイベントにご協力いただきました地域住民の方々には大変お世話になりました。本当にありがとうございました。また、体力勝負のカリキュラムに挑み、ひとりの脱落者もなく完走された参加者の皆さま、本当にご苦労さまでした。
◎イベント尽くしのホール入門コース
初日から、全員パジャマ姿にさせられ、延々深夜1時まで自己紹介ゲームが続くなど、入門コースは幕開けからイベント合宿ムードが漂っていました。初日の模様が地元テレビ局で放映されたのですが、「ホール職員の研修ともなるとちょっと違うな!」という雰囲気が画面から立ち上っていました。詳しいカリキュラムは4頁のスケジュール表を見ていただければと思いますが、約4時間のワークショップ、真夜中の怪談噺を含め語りの会が3回、そしてラボとしては初めて研修中に実際に観客を呼んでプロミュージシャンのコンサートを実施した「ゲージュツ村で星まつり」の準備(ちらし撒き、楽器演奏の練習、リハーサル等)と出演などなど。目の回るような4日間だったのではないでしょうか。
まずワークショップですが、劇団青い鳥の演出家で俳優の芹川藍さんがラボの講師として初登場。彼女が俳優志望者だけでなく、障害者、女性、管理職など自己開放の難しい人を対象に行っている「コントロールドラマ」(演劇的な観察力を応用して「自分を知ることによって心と身体をほぐす」試み)という手法を体験しました。「みんなに見られながら一人で歩く」「目印を見ながら歩く」「数人で歩く」「身体の一部に意識を集中して歩く」など、歩くという行為を観察するだけで、人に見られて束縛されていた心と身体が、意識を集中し、みんなと一緒にいることによってリラックスしていく様子が手に取るようにわかります。20数年にわたる演劇の集団創作によって培われてきたノウハウの普遍性というか、可能性を再認識させられました。
また、オープンスペースでのコンサートは約150名の観客を前に午後6時30分にスタート。芝生の向こうに沈む夕日を見ながら日没を迎えるというロマンチックなシチュエーションで感動の一幕となりました。リコーダーバンドの栗コーダーカルテットとたまのボーカリスト、知久寿焼さんの共演は、改めて声や響きが空間を変えていく表現力について考えさせてくれる心に滲みるものでした。
◎空中基地づくりに街歩き、金沢に飛び出した美術コース
美術コースのハイライトは世田谷美術館で行われている教育普及事業の金沢版ともいえる2つの体験プログラムです。まず、7月5日には、金沢市内から車で約30分、全校生徒28名という山間の小さな俵小学校に出かけ、生徒や先生、受講生総出で、造形作家スタン・アンダソンさんによるバック・トゥ・ザ・ネイチャー企画「木霊~空中基地をつくろう」というワークショップを行いました。
午前10時、事前にロケハンしていたアンダソンさんが、子どもたちに、学校の裏山から木を切り出し、校庭にある2本の桜の木の上に空中基地をつくろうと提案。早速、笹の葉を集める班、木を切る班、樹皮をはぐ班、蔦を集める班などに分かれ、道を切り開きながら鬱蒼とした裏山に出陣。アンダソンさんがオノやマサカリを使う姿を見ながら、子どもたちも見よう見まねでまるで林業体験のような材料集めに奔走していました。受講生も汗だくで、最後にはアンダソンさんと一緒に直径1メートル近い大木に杭を打ち込んで4枚の板をつくる大業にも挑戦。午後6時、樹上に基地の土台が完成し、アンダソンさんが日本海で拾ってきた巨大な浮きをブランコ代わりにぶら下げた時には、歓声ともため息とも安堵ともつかない声が上がっていました。
地元小学校との連携はラボとしても初めての試みでしたが、金沢市民芸術村アート工房のディレクター、森田ゆかりさんは、「総合学習の時間として今回のワークショップに協力してもらいました。金沢には地域が学校を支えようという地域教育力がまだ残っています。芸術村としても初めての取り組みでしたが、これをきっかけにこうした試みを続けていければ」と言い、いいモデルケースになったようです。
自然と格闘した翌日には、炎天下の午前11時から午後6時まで、金沢市内約6キロメートルを歩き回るという「パノラマウォーク・イン・カナザワ」に挑戦。「街歩きはゲームと似ている。
上がり手をたくさん知っていればいるほど面白くなる。歩いているうちにひっかかってくるものを省察していくと自分の思考がわかる」という東京造形大学教授の大竹誠さんと「写真は誰でも使える資料だ」という写真家飯田鉄さんの話を聞いた後、全員がカメラ片手に芸術村をスタートしました。用水が網の目のように流れている金沢の裏町を通りながら、お茶屋さんが共同で運営している芸者さんたちの稽古場兼福利厚生施設の西茶屋検番や大正時代のお風呂屋さん、当時のまま残っている遊郭(個人の倉庫になっていて通常は未公開)などを見学。夕方からは金沢の東に移り、最後は実際に地元のお風呂でひと風呂あびて締め括るというディープ金沢を満喫した1日でした。地元からの参加者も「こんな所があるなんて知らなかった。これから金沢を見る目が変わります」と驚くほどで、地域資源について考えさせられた1日でした。
◎5分間劇場にピアノの解体! ここでも続々、新発見
演劇コースでは「登場して、滞在して、去る」のが演劇の基本という長谷川孝治さんの指導で演劇的な動きを体得するワークショップが行われた後、3班に分かれて「夕暮れの劇場」をテーマに短いお芝居づくりに挑戦しました。たった2時間の創作時間にもかかわらず、オールバッハコンサートのロビーを舞台にした男女の痴話喧嘩、1ベルと2ベルの間に舞台袖で繰り広げられる初日のドタバタ劇、劇場事務所に珍入したカニ捕獲劇と、「これじゃあ、誰でも劇作家になれるなあ」とプロの作家を嘆かせるほどの出来映えで、即席“5分間劇場”は大成功となりました。翌日には長谷川作品『秋のソナタ』の一部を2班に分かれて音響、照明付きで演じるなど、今回のラボをきっかけに劇団でも旗揚げできそうな勢いでした。
音楽コースで特徴的だったのが「知っているようで知らないピアノの話」と題して行われた調律師の真鍋要さんによる講義です。日常的に調律師と付き合っているはずのホール担当者ですが、調律についての知識はほとんどないのが実情です。基本講義の後の質疑応答では、「スタインウェイをヤマハの調律師の方に調律してもらうとヤマハの音になるといわれるのですがなぜですか」といった素朴でありながら調律業界の人が聞くとドキリとする質問や、ピアノの弦の上に5円玉を置いたり、弦を止めたりする「内部奏法」への対応、また、「ピアノをどんどん使わせている結果、酷使状態になっているが大丈夫か」といった疑問など、日頃は聞き難い質問が続々。ちなみに酷使については「スタインウェイはそんなことでは壊れないので限りなく使わせてください。たとえ壊れても補修できるので心配ありません。また年1回の調律の回数を増やす必要もありません」とのことでした。
●ステージラボ金沢セッション スケジュール表
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「パジャマで自己紹介」 |
「方言もある自己紹介」 |
「大切な一曲」-自己紹介- |
自己紹介、コース内容の説明 |
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「パジャマで自己紹介」(続) |
「方言もある自己紹介」(続) |
「大切な一曲」-自己紹介-(続) |
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「語りを聞く1」モーニング絵本 |
「現代演劇の歩みを知る」 |
「知っているようで知らないピアノの話」 |
体験プログラムA |
ワークショップ |
「ミュージック工房の活動について」 |
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「演劇におけるホール運営を考える」 |
「“音楽を聞くと言うこと”」 |
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「語りを聞く2」お茶の時間の昔話 |
「演劇における地域を考える」~弘前劇場の戦略~ |
「都民劇場の仕事」 |
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「ゲージュツ村で星祭り1」 |
「企画を立ち上げる」 |
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「語りを聞く3」真夜中の怪談 |
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「ゲージュツ村で星祭り2」 |
「企画の発表会」 |
「コンサートを企画する」 |
体験プログラムB |
「ゲージュツ村で星祭り3」 |
「俳優と劇作家と演出家と裏方になってみる」パート1 |
ワークショップ |
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「広報ツールの活用術」 |
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「ゲージュツ村で星祭り4」 |
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「ディスカッション~言葉の鍵を見つけよう~」 |
「弘前劇場の照明と音響」 |
「コンサートを企画する2」 |
「地域社会と音楽」 |
「俳優と劇作家と演出家と裏方になってみる」パート2 |
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「発表~言葉の鍵を使って~」 |
「発表会~演じてみる」 |
「企画の発表会」 |
「まとめ」 |
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●ステージラボに関するお問い合わせ
芸術環境部 研修交流担当
[Tel] 03-5573-4067