講師 中山弘美
(広報・宣伝コーディネーター)
◎ホールにおける広報・宣伝の業務
それぞれのホールや団体によって広報・宣伝業務の捉え方に細かい違いがあると思いますが、基本的には「ホールの存在を広く知らせること」と「公演やイベントを告知すること」の2つに分けられるでしょう。
前者は地域住民がホールに親近感をもち、ホールの事業への参加や施設の活用を促す業務、後者は、ホールが企画・実施する公演やイベントに多くの観客を動員し、興行の成功につなげていく業務です。どちらもホールのあらゆる事業を活性化させ、ひいては地域文化の質の向上につながる仕事といえます。
では、具体的にどのような仕事が広報・宣伝の業務なのでしょうか。公演制作における主な業務を挙げると、
広報・宣伝企画の立案、
広報・宣伝予算作成、
スケジュール作成、
宣材(ちらし、ポスター、プレスシートなど)作成、
媒体(新聞、雑誌、TVなどのメディア)へのアプローチや広告出稿、
取材対応、公演資料(舞台写真や宣材など)
の保存などとなりますが、ここにホール全体の広報業務(広報紙の作成や情報提供、月間スケジュールの作成など)が加わると、仕事はさらに多岐にわたっていきます。今シリーズでは、主に公演やイベントを告知し、観客動員を促す広報・宣伝の仕事について具体的な内容を挙げてみたいと思います。
◎広報と宣伝の違い
ほとんどのホールや劇団では制作担当者が担っている広報・宣伝業務ですが、少ないながらも広報・宣伝担当者がいる団体もあり、中には「広報」と「宣伝」それぞれに担当を置いている場合やさらに広報を演劇、音楽などジャンルごとに分割しているところもあります。
では「広報」と「宣伝」は異なる業務なのでしょうか。いろいろな解釈や分類の仕方があると思いますが、ここでは次のように分けてみます。
広報とは、メディア(新聞、雑誌、TVなど)に情報を提供し、公演を紹介してもらうことです。資料(プレスシート、宣伝写真、ちらしなど)を記者や編集者が加工し、それぞれの読者層に向けて独自の切り口で取り上げたり、他情報と組み合わせて記事にします。記者や編集者という第三者による客観的な紹介(「今月のイチ押し公演」など)は、観客動員に最も効果的といえます。
一方、宣伝とは、ちらしやポスターの作成をはじめ、メディアへの広告出稿、コマーシャルスポットのオンエア、交通広告(駅貼ポスターや中吊広告)など、有料で公演を告知することです。いつ、どの媒体にどのような内容で展開するかなど、すべて広報・宣伝担当者が立てた予算・企画・スケジュールプランによって実施されます。重点的に告知したい内容や時期、紹介したい出演者なども自由にコントロールでき、公演をより詳しくダイナミックに告知できます。
広報と宣伝は、別々の業務として存在しているものではありません。広報によって得られる「客観性」と宣伝によって実現する「主体性」を両輪として駆動させてこそ、手応えのある効果が生み出されます。
◎まず企画を考える
演目や公演日、チケット発売日が決まったら具体的な広報・宣伝企画を立てますが、まず最初に上演作品について深く理解しなければなりません。この作業は次回以降に述べるちらしやプレスシートの作成、マスコミへのアプローチといった業務にも深く関わってきますが、何より観客動員に大きく影響します。作品を理解しないと、どのような客層に向けて広報・宣伝をしていけばよいかというマーケティングができないからです。演劇と落語の客層が異なるのは明らかですし、同じ演劇でも対象が大人かファミリーか、観劇初心者か演劇ファンかによってちらしの内容や配布方法すら異なってきます。作品を理解して動員する客層を絞り込み、嗜好や行動範囲などを考えて広報・宣伝企画を立てると、より確実で無駄のないプロモーションが展開できます。こうしたマーケティングを基に、自由な発想でいろいろな企画を考えてみるとよいでしょう。
次に予算書をつくるにあたって、それぞれの企画の経費を考えてみます。全企画の実行が不可能であれば優先順位をつけてみましょう。広告費を捻出するためにちらしの枚数を減らした結果、プロモーションの途中でちらしが不足してしまっては有効とは言えません。優先順位は低いけれどプロモーションの核のひとつにしていきたいと思う企画があれば、実施規模を縮小したり他の経費を削減するなど、当然ながら工夫が必要です。またチケットの売れ行きやプロモーションの盛り上がり方によって、実施をやめてみたり追加することもあり得ます。最初に決めた内容を途中で見直す柔軟さが、より有効な広報・宣伝を実現するための力となります。
◎スケジュールを立てる
企画と予算を決めたら、それぞれの企画をいつ実施するかを考えます。宣材をいつまでに完成させ、いつ配布(発送)するか、製作発表会(記者会見)や公開稽古はどの時期が可能で有効か、近隣のホールで類似公演が催されるのはいつかなどを考えるとともに、広報先のメディアについても詳しく把握しなければなりません。雑誌の発売日、番組の放送曜日、新聞記事の掲載サイクル(インタビューは水曜日掲載など)を知れば、それぞれのメディアをうまくリンクさせてプロモーションの山場をつくり出すことができます。
それと並行して留意すべきは、企画の実施が何もなされていない「空白の期間」をつくらないことです。チケット発売後、公演紹介記事が露出するまでの間はちらし配布やDMを重点的に実施し、その間に広告を準備する。その広告が出る頃に雑誌や新聞記事の仕込みを実施するというように、必ず複数の企画の準備と実施を同時に行い、途切れることなく公演情報が露出する状況をつくり出すことです。それによって「いろいろな所で公演情報を目にする」という観客の認識を生み出し、広報・宣伝の基盤を固めることになるのです。 以下に具体的なスケジュールの例を挙げておきますので、各々の条件に沿ってつくってみることをお勧めします。