一般社団法人 地域創造

神奈川県厚木市 厚木市文化会館 厚木シアタープロジェクト

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 1月29日、厚木市の依知南小学校で演出家の横内謙介氏が主宰する劇団扉座によるワークショップが開催された。受講したのは、6年生3クラス86人。7人の役者陣と一緒に横内氏の作品『さよなら先生』の1場面を演じるなど半日間、演劇に挑戦した。

 

 会場の体育館では、プロの音響スタッフが持ち込んだ音響機材を操作。本格的な音響と「目を見る!」「本気で想像して」横内さんのテンポの良い演出に、初め照れのあった子どもたちの表情がみるみる真剣になってくる。「すっごい緊張したけど、本番が一番面白かった」と参加した女の子。

 

 この出前ワークショップは、厚木市文化会館が劇団扉座と進めている「厚木シアタープロジェクト」の一環として実施されたものだ。演劇について“観る”“体験する”“支える”といった複数のチャンネルを設け、厚木市文化会館を拠点に新しい演劇文化を育てようという試みで、99年にスタート。年2回の定期公演を軸に各種ワークショップや関連事業を展開している。

 

 扉座を主宰する横内氏は、神奈川県立厚木高校出身。高校時代、処女作『山椒魚だぞ!』で全国演劇コンクール第2位となり、演劇活動をスタートした。その後早稲田大学で劇団善人会議(のちに扉座と改名)を旗揚げし、現在は劇団活動のほか、プロデュース公演などの脚本を数多く手掛けている劇作家、演出家だ。開館20周年を過ぎ、核となるソフトをもって「独自の事業を発信したい」と考えていた厚木市文化会館の井上允館長が、横内氏に相談を持ちかけたのが98年。「演劇の観客を増やすために、公演だけではないアプローチが必要。拠点となる劇場さえあれば…」と考えていた横内氏の全面的な協力を得て、事業が組み立てられた。

 

 昨年4月に第1回定期公演を実施。第2回は横内氏の高校時代を題材にした『ホテル・カリフォルニア~私戯曲厚木高校物語』を再演。かつての厚木高校生らしき年輩のお客様(?)も多く、全公演満員御礼の大盛況だった。

 

 公演と並び事業のもう一つの核になっているのがワークショップである。演劇を楽しめるようになるかどうかは「初めての演劇体験が大きい」と、昨年秋から小学校への出前ワークショップをスタートさせた。演劇の原点でもある「人前で演じることの緊張感と快感を味わって欲しかった。だから“子ども向け”ではなく“一緒に芝居をつくる”つもりでやりました」と横内氏。本格的な音響機材を携え、プロのスタッフや役者陣と出向いたのもそのためだ。

 

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 付け加えると、依知南小のワークショップが特に盛り上がったのにはわけがある。当日進行を務めた山田先生は、高校時代の横内氏の同級生。「扉座の芝居は、売れない頃からずっと観てます」という山田先生の誘いで、依知南小では多くの先生が文化会館での扉座の公演に足を運んでいた。だから「どの先生もワークショップで何をやるかのイメージがありました」(山田)。「こんなプロの劇団が来るんだよ」と先生たちが事前に話していたおかげで、子どもたちは当日をとても楽しみにしていたそうだ。“観る”“体験する”両方の場があることの相乗効果が現れた好例、と言えるだろう。

 

 そしてこれらを“支える”組織も活動を開始した。機関誌の発行や公演の資金的な支援も行う後援組織〈市民応援団〉と当日運営を手伝う〈厚木サポーターズクラブ〉だ。現在合わせて約80人ほどが活動している。

 

 厚木シアタープロジェクトを取材して、核になる創作団体があり、その団体が地域のことを考えはじめた時、これからの公共ホールの可能性が大きく拡がっていくことを実感した。そのためには、行政的、予算的な壁は大きくとも、継続性が不可欠。厚木では、今後、年2回の定期公演、ワークショップを継続するほか、2001年度からは子どもたちを文化会館に招いて、横内氏の書き下ろしによる演劇鑑賞教室も計画しているという。今後を見守りたいプロジェクトのひとつである。

(宮地)

 

●厚木市文化会館
[開館]1978年
[施設概要]大ホール(1400席)、小ホール(376席)、展示室、練習室、会議室など
[所在地]神奈川県厚木市恩名295-1

 

地域創造レター 今月のレポート
2000年4月号--No.60

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