講師 山名尚志(メディアプロデューサー)
今回は、文化ホールにおけるウェブサイト構築術のまとめとして、企画を立案した後で、ウェブサイトを開設するために必要な具体的な業務の流れを整理してみたい。
●ウェブサイトの置き場所を手に入れる
ウェブサイトを構築するためには、まず、その置き場所、つまりインターネットにつながったサーバ・マシンが必要になる。これには、自前でサーバ・マシンを用意する方法と、すでにインターネット上で動いている大きなサーバ・マシンに間借りする方法(サーバ・レンタル)の2つがある。職員にインターネットに詳しい人がいるとか、大がかりな業務システムやデータベースを構築するといったことがない限り、レンタルのほうが手軽でコスト的にも安く、お勧めである。
レンタル・サービスはほとんどすべてのプロバイダで行われているので、まずは自分のホールが契約しているプロバイダに連絡してみよう。外部のプロバイダではなく、役場の本庁のネットワークを通じてインターネットに接続している場合は、本庁の担当部署に問い合わせる。本庁内にあるサーバ、もしくは、本庁が契約しているレンタル・サーバ内に場所を用意してもらえるはずだ。
レンタル契約が成立すれば、自分のホールのURL(http://www.○○○.ne.jp/△△△/ という形式のWWW上の住所のこと)とホームページを設置する場所が使えるようになる。そこに手持ちのインターネットに接続されたパソコンから、ウェブサイトを構築するためのHTMLファイルやCGIのプログラムなどをサーバにアップロードして、ウェブサイトを公開することができる。アップロードのやり方については、後日、プロバイダから書類や必要なソフトウェアが送られてくるので、それに従ってやればいい。少しわかりにくいかもしれないので、周囲にいるインターネット・ユーザーに相談するか、雑誌やホームページをつくるノウハウを紹介した書籍を購入するなどしてやってみよう。とりあえず、簡単なHTMLファイルをつくり、実際にアップロードしてみよう。アップして自分のURLに行けば、つくったばかりのファイルがネット上に燦然と輝いて世界中に情報を発信しているのを確認することができる。
●自前の住所をもつ
URLについて少し説明しておこう。URLは、どのサーバに載っているかを表す「ドメイン名」と、間借りしている部分についた名前の組み合わせからできている。例えば、「http://www.bekkoame.ne.jp/~○○○/」というURLは、「www.bekkoame.ne.jp」がドメイン名で、ベッコアメというプロバイダのサーバだということを表している。つまりこのウェブサイトは、ベッコアメのサーバ内の一部をレンタルし「~○○○」という名前を付けてウェブサイトをやっている、ということになる。プロバイダからサーバをレンタルする場合、通常は自分の住所の冒頭にプロバイダの名前が付いてくるということになるわけだ。
インターネットが普及するにつれ、企業や団体のウェブサイトは、ドメイン名を入力すするだけでアクセスできるというのが常識になりつつある。例えば、トヨタ自動車だったら、「www.toyota.co.jp」だし、北海道だったら「www.pref.hokkaido.jp」、東京都だったら「www.metro.tokyo.jp」、横浜市だったら「www.city.yokohama.jp」といった具合である。 この例からもわかるように、ドメイン名の付け方には、日本の企業なら企業名の後に「co.jp」、道府県だったら「pref.」の後に自治体名とjpというように明確なルールがある。このルールさえ知っていれば、わざわざ検索サイトで調べたりしなくとも、企業名、団体名を打ち込むだけでウェブサイトにアクセスできる。その分、より多くのアクセスが期待できる。こうした流れの中で、文化施設でも「札幌芸術の森」(www.artpark.or.jp)のように、独自ドメインを取得するところが出始めた。
ドメイン名はJPNIC(※)が発行しているが、独立した組織であれば取得可能で、財団や第3セクターなら施設名や組織名をドメイン名にすることが簡単にできる(この場合、日本の非営利組織という意味で、施設名の後は「or.jp」となる)。組織として独立していない場合でも、ドメイン名管理の規制が緩いアメリカで取ってしまうとか、自治体のドメインを使う(http://hall.city.○○○.jp/)というやり方もあるので詳しい人に相談してみよう。
要は、どこかのサーバにぶら下がったような住所だとマイナーなイメージをもたれかねないし、アクセスもしやすいので、ホール名などを付けた自前のドメイン名を取得しておいたほうが良いということだ。多くのプロバイダでは、サーバ・レンタルと同時に、ドメインを代行取得するサービス(ヴァーチャル・ドメイン・サービス)を行っているので、サーバ・マシンを確保する際に一緒に相談してみよう。
※JPNIC(社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター):「or.jp」や「co.jp」等国内のドメインを管理する団体。「.com」のドメイン名はアメリカのInterNIC(インターニック)が管理している。
●内容物を制作する
サーバマシンを用意したら、ウェブサイトの内容物の制作を行うことになる。原稿段階までは、広報誌やパンフレットをつくるのと同様である。原稿を書き、あるいは依頼し、校正し、レイアウトのデザインを行い、写真やイラスト、アイコンなどの画像を用意する。内部で行うか、外部の編集プロダクションなどに依頼するかは、コストと欲しいクオリティの兼ね合いということになる。
原稿が出来上がったらそこからHTMLのファイルをつくっていく。現在ではワープロ感覚でHTMLをつくることができる、もしくは、ワープロのファイルをHTML化してくれるソフトが多数出回っているので、一通りのものは、専門家に頼まずとも作成できる。ただし、こうしたソフトだけでは、例えば細かなレイアウトの調整がうまくできないなど、完成度がある程度以上向上しない。プロフェッショナルなレベルを望むならば、やはり、プロに依頼することは避けて通れない。
HTMLファイルとともに内容物の柱となるのは各種のプログラムである。サーバ・レンタルのサービスを利用する場合、カウンタ(そのウェブサイトに何名来たかをカウントするプログラム)や掲示板、ウェブ・アンケート(ウェブ・ページ上での簡単なアンケート・プログラム)等のよく使われるプログラムに関しては、予め、レンタルの用意がされている場合が多い。また、何度も述べたように、メーリング・リストや簡易なデータベース、ウェブ・ページの自動生成システム、各種のオンライン・ショッピングのシステムなどに関しては、ネット上でレンタルをしている企業も多い。ネット上で何をやるか(どのようなサービスをするか)を検討し、それに必要なプログラムは出来合いのものを組み合わせて、開発コストを下げるというのが適切な取り組みである。
オリジナルなプログラムを作成する場合には、せっかくつくったプログラムが動かないという可能性もあるので、開発委託をするソフトハウスとサーバ・レンタル業者との間の調整を綿密に行っておく必要がある。
●ウェブを公開する
制作された内容物をWWWサーバにアップロードすれば、技術的には、もうそれでウェブサイトは完成である。しかし、この時点では、誰もウェブサイトの在処=URLを知らない。ウェブサイトが完成し、ちゃんと動くか、間違いはないか確認したら、すぐに広報活動を開始しなければならない。
オンラインで行える手段は、検索サイトへの登録と、大手サイトへのリンク依頼、それから新しいサイトを紹介しているウェブ・マガジンやメール・マガジンへのパブリシティ活動である。金銭的に余裕があればウェブ上でのバナー広告という手段も利用できる。これに加えて、パンフやちらし、名刺、紙袋へのURLの刷り込み、広報誌への掲載、その他各種口コミの利用など、普段行っている広報手段もフルに活用することが求められる。
そして何より重要なのは、ウェブサイトの定期的な更新作業である。毎日は無理にせよ、毎週、毎月、定期的に情報を更新し、年に1度は、ユーザからの声を組み入れ、また、最新の技術を導入して、全体的なリニューアルを行っていく。公開後のこうした着実な努力があってこそ、生きたウェブサイトとして、多数の人に利用されるものに育っていくのである。