講師 山名尚志(メディアプロデューサー)
前回の「インターネットの技術動向」では、ウェブサイトについて、単なる電子チラシではなくホール業務全体をカバーするシステムとして進化しつつあることを概説した。ホールの社内業務をOA化するためにインターネット技術を活用することもできるが、今回は、対外業務に絞ってホールのための典型的なウェブサイトについてその構築内容を整理してみたい。
●情報提供業務
対外的な情報提供の対象としては、一般の地域住民(観客)、マスコミをはじめとしたメディア関係者、ホール利用者の大きく3つがある。情報内容としては、施設に関わる情報(沿革、概要、設備スペック、貸し出し条件、首長の挨拶その他)、組織に関わる情報(人事、組織、その他総務系の情報)、公演・事業に関する情報(公演日程、内容、チケット情報、その他緊急の変更など)を挙げることができる。情報のレベルは、一般住民向けとマスコミや事業者向けの2段階あり、マスコミ向けに関しては、記事に使えるレベルの詳細なプレス・リリース、印刷に利用可能な精細な写真データを、また、貸し館情報を求めている事業者に対しては、ホール図面や設備の詳細なスペックなどの提供が考えられる。
これらの情報はウェブ・ページとして制作されるのが通例である。更新頻度の高くない施設に関わる情報については、ウェブ・ページを一枚ずつ手動で制作・アップロードすることになるが、更新頻度が高い情報に関しては、データベースおよびそれと連動するウェブ・ページの自動生成システムを制作し、データベースに登録するだけでウェブサイト上に公開できるシステムにすることが望ましい。加えて、各種の質問に対応するためのメール・アドレスや質問用の入力フォームを用意することも欠かせない。
こうした情報を公開する際の最大の留意点は、ウェブサイトのメインのコンテンツ(=情報内容)として扱わないことである。トップページには、次に述べる広告・宣伝関係の企画記事などを使い、こうした資料的な情報は、ページの端や下部にわかりやすくリンクを整理して提示するにとどめる。施設紹介や公演・事業情報そのものは読んで面白いものではなく、それをメインとすると、一般のインターネット・ユーザが離れていってしまうからである(目的意識をもって情報を集めている場合には、メインの場所にリンクが置かれていなくとも、アクセスに問題はない)。
●広告・宣伝業務
ホールのウェブサイト構築の第一の目的として考えられるのは、ウェブサイトを通じてのホール事業の広告・宣伝であろう。この際、まず最初に押さえておかなければならないのは、単に公演スケジュールを並べただけでは「面白いウェブサイト」として評価されることはなく、したがって、広告・宣伝の効果は期待できない、ということである。
必要となるのは、インターネットのユーザが何度も訪れたくなるような面白いコンテンツを用意することである。こう言うと「うちのホールには面白いコンテンツなんて」と言い出す方もおられるかもしれない。しかし、それは大きな誤解だ。各種の事業が行われ、そこに住民の方が集まっている限り、面白いコンテンツがないことなどありえない。コンサートにせよ、芝居にせよ、あるいはさまざまな講演会にせよ、それ自体が立派なコンテンツ。文化ホールそれ自体コンテンツの宝庫なのである。後はそれをどういう形でインターネットに載せていけば良いかを考えればいいだけだ。
折角、楽屋にアーティストや役者が来ているのだから、インタビューは取れないだろうか。インタビューが大袈裟なら「ファンへのご挨拶」程度でもいい。講演会の講師に許可を求めて、ネット上で講演内容を公開することも考えられる。ボランティアがいるなら、彼らにレポートしてもらってもいい。などなど、切り口(企画)は幾つも考えられる。
こういったコンテンツの企画・制作に当たって一番参考になるのが、現状では、雑誌の編集のあり方である。どのくらいのタイミングで「新しい号を出す」(=メインのコンテンツを変更する)のか。その際に「トップの記事」は何と何で、それをもとにどう「表紙」(=ウェブサイトのトップページ)を組むのか。連載企画は何がいいのか。雑誌の編集と思えばさまざまなアイディアが出てくる。
こうしたコンテンツのウェブ・ページ化に当たって最も重要となるのは、一頁一頁のレイアウト・デザインと、「読者」をその関心のある「記事」に誘い込むためのページ構成およびリンクの貼り方によるナビゲーション・プランである。グラフィック的に美しいデザインは必ずしも必要ない。それよりも、アイ・キャッチがいいかどうか、目的のページに迷うことなくたどり着けるかといった面での作り込みがポイントとなる。ページ数が多くなるような場合には、全体の構成が一目でわかるサイト・マップを用意したり、サイト内でのキーワード検索ができる検索エンジンを搭載することも検討されよう。
●会員制度の構築
ウェブサイトでの広告・宣伝の最大の特徴は、双方向のメディアであるところから、そのまま潜在顧客名簿の作成に結びつけていくことができるという点にある。具体的には、ウェブサイト上に会員制度をつくり、会員となったユーザに関して、ホールの最新の情報をメールなどにより常に送り届けられるようにすることが求められる。
最も簡単な会員制度としては、ユーザに、そのメール・アドレスを登録してもらうというものがある。このためには、メール・アドレスの登録を促すためのサービス、例えばウェブサイトの更新情報をメールで流すサービスや、人気のウェブ・コンテンツの一部をメール・マガジンとして配信するサービスなどの採用が考えられる。また、より直接的な手段として、懸賞付きアンケートなどの手法をとる場合も多い(ただし、この場合には、懸賞目当てのユーザが多数集まるため、登録者の「質」が確保しにくい)。
また、会員相互のコミュニケーションの場を確保する方法もある。具体的には、ウェブ上の掲示板システムや各種のチャット・システム、あるいはメーリング・リスト・システムなどの採用である。これらのシステムは、会員相互の活動が活発となれば、それ自体が「面白いコンテンツ」を自動的に生み出す仕掛けとなるため、大きな効果を期待できるが、一方で、「お世話係」を用意しておかないと、閑古鳥がないたり、あるいは不穏当な発言が飛び交う可能性があり、運営面では些かの注意を要する。
こうした会員制度は多面的な発展性をもっている。例えば、会員登録とチケットの割引や会報の配布を結びつければ、「友の会」システムとしての活用が可能である(会報については、メールもしくはメール添付のPDFファイルとして電子配布することも可能)。また、ホール・ボランティアと連動させれば、ボランティアのスケジューリングや打ち合わせのための会議システムとしても利用できる。
●予約・販売業務
面白いコンテンツで多数のインターネット・ユーザを集客し、そのうち興味・関心が強い層を会員制度で囲い込む。こうなれば、次に来るのは、施設貸しやチケットの予約・販売である。
予約に限定すれば、メールでのやりとり、もしくは、ウェブ上の入力フォームからの予約申し込み受付だけでも対応は可能である。ただしこれだけでは、職員の人的な対応が必要となるため、施設貸しのスケジュール管理のためのデータベースやチケットの空席管理のデータベースを構築し、ウェブサイトを通じてそこにユーザがアクセスできるようにして、プロセスの自動化を図ることが望まれる。
さらに、電子マネーやクレジット・カードを使ったインターネット上の決済システムを導入すれば、実際のチケット販売までのすべてをウェブサイト上で行うことが可能となる(前回述べたように、今では比較的廉価にこうしたシステム・サービスを提供する企業が増えてきており、単体のホールでもコスト的に見合うものとなりつつある)。ここまでくれば、単なる情報発信から、集客、囲い込み、そして販売に至るまでの、ホールのマーケティング・プロセス全体が、ウェブサイトによって、カバーされることになる。