一般社団法人 地域創造

「リージョナルシアター・シリーズ」

 地域劇団の東京公演をサポートするフェスティバル「リージョナルシアター・シリーズ」が10月19日から31日まで東京芸術劇場を会場に開催された。この催しは東京国際舞台芸術フェスティバル'99の一環として同フェスと財団法人地域創造が共同主催したもので、新聞各紙に大きく取り上げられるなど大盛況だった。特に岸田戯曲賞連続受賞などで話題となっている関西の小劇場が注目を集め、同時に開催されたシンポジウムには熱心は関係者が詰めかけていた。

 

 今回の参加劇団の中で一番人気だったのが、関西の笑いの間を武器にしたシチュエーションコメディを得意とする劇団MONO(京都在住の劇作家・演出家・俳優の土田英生主宰)である。ゲイばかりが住む古いアパートを舞台にした今回の作品について、終演後のロビーで学生風のグループに感想を尋ねると──。

 

 「良質な会話劇だと紹介されていたけどそのとおり。テンポがよくて僕は好き」「ダイニングとか場所をひとつ決めてそこにいろんな人が登場するような芝居が増えてるとどこかで読んだがこれも同じだと思った」とポンポン。よく聞くと自分たちでも芝居をやっているのだという。「関西の小劇場に興味があった。こういう風にまとめて公演してもらえるとあまりお芝居を見たことがない人も選びやすいと思う。MONOが面白かったので他の劇団も見るつもり」。

 

 土田をはじめとして、今、関西では劇作家の才能の開花が続いている。それを受けて26日には、関西演劇人についてのホットな情報を発信している季刊誌「劇の宇宙」の編集長・小堀純を司会に、関西の劇作家3人(MONOの土田、桃園会の深津、199Q太陽族の岩崎)によるシンポジウムが開催された。3人とも旗揚げ8年~十数年クラスで、集団としてのスタイルが成果を発揮しはじめる旬の作家ばかり。

 

 いずれの作家も拠点は地域と明言し、東京に憧れる時代はとうに終わったと声を揃える。(関西と言ってもほとんどが他地域の出身者であると断った上で)、小劇場が盛んになったのは関西の土壌として、住みやすさに加えて、吉本、松竹、伝統芸能、放送局など大阪には独自の芸能ネットワークがあり、町全体に芝居に対する懐の深さがあったからと指摘する。

 

 また、草創期のオレンジルーム(82年から86年に学生演劇を集めたフェスティバルを行った多目的スペース)の活動をはじめとし、関西の劇場人はとても面倒見がよく、劇場が作家を育ててきたという。小堀は「才能はひとりで生まれてくるのではない。発見して育てる人が必要」というが、劇場の果たす役割の大きさを改めて痛感させられた。

 

 「同世代に個性の異なる作家が揃っていて刺激しあっている。地理的に狭いので本当に朝まで演劇論を戦わせている。作家と劇場人とマスコミ人が集まるサロンもあり、この10数年、こうした演劇人がみんなで関西小劇場を盛り立ててきたから今がある」(小堀)。

 

 この他、青森県の弘前劇場は、客席にいたプロの舞台俳優を「俺達より上手い」とうならせていた。弘前劇場は、“生活口語”(標準語で書かれた戯曲を俳優が自分の日常的に使っている生活言語に直して上演する、ある種の口立て芝居。その分、俳優の臨場感が勝っている)で地域演劇の新たな創作の可能性を追求している劇団で、劇作家の長谷川孝治(弘前中央高校教諭)をはじめ、全員が社会人。シンポジウムではこうした社会人劇団の経営実態や稽古場を無料で提供している浪岡町とのパートナーシップなど、地域で活動していくための戦略が披露された。

 

 「僕は地域が何かをやるときに一番してはいけないことはお国自慢だと思っている。今の地域は大量生産品の消費地であり、そういう意味では日本の最先端だ。その日常を描いている地域演劇は東京をリードしている」といった長谷川の言葉は、これまでの地域作家とは一線を画するものだった。日常をモチーフにした創作動向が続く限り、地域から目が離せないとの思いが強く心をよぎった。

(坪池栄子)

 

地域創造レター 今月のレポート
1999年12月号--No.56

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