一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.8 インターネット編② インターネット技術の動向

文化ホールのためのウェブサイト構築術

インターネット技術の動向

 

~情報発信から業務効率化のためのプロジェクトへ~

講師 山名尚志(メディアプロデューサー)

 

  ウェブサイトの具体的な構築方法について考える前に、インターネット(*1)という技術の現在と発展の動向を、おおまかにではあっても押さえておく必要がある。プログラマー・レベルの専門知識が必要なわけではない。しかし、「インターネットという技術を使ってどんなことができるのか。また、どの程度のコストで、実現可能なのか」ということを知らなくては、そもそも企画自体、立てようがない。そこで、今回は、まず、インターネット全体の動向を踏まえたウェブサイト企画の考え方について解説していくこととしたい。

 

●ウェブサイトは「ページ」ではなくなりつつある

 

  かつてウェブサイトは「ホームページ」(*2)と言われることが多かった。サーバと言われるコンピュータの中に、文章やイラスト、写真でできた「ページ」が何枚も何枚も置かれ、それを、手持ちのパソコン上のウェブ・ブラウザを使って、リンクを辿りながら順々に見ていく。各ウェブサイトは、そうしたページの「かたまり」として意識され、故に、その起点となるページ、転じてページのかたまり全体が「ホームページ」と呼ばれていた。

 

  現在でも、個人サイトの多くは、こうした「ページのかたまり」でしかない。しかし、各種技術の発展に伴い、商用のウェブサイトの多くは、次第に、「ページのかたまり」というより「プログラムのかたまり」へとその性格を変化させてきている。例えば新聞社や検索サービスのウェブサイト。アクセスしてみるといかにもたくさんの「ページ」が用意されているように見えるが、実際にはその殆どが「その場で生成されたもの」であり、予めサーバ内にあったわけではない。具体的にいうと、データベースの検索結果が、HTMLファイル(WWWブラウザでページとして読むことができるファイル)(*3)の形式で出力されているだけなのである。

 

  先回の「インターネット活用術」で紹介したサービス系のウェブサイト(交通機関や旅行会社などの予約、販売サイト)となると、「ページ」という印象は更に薄くなる。ウェブサイトの中心はあくまで予約や販売を行うためのシステムであり、そのバックヤードとして稼働する商品・サービスのデータベース、クレジット・カードの認証プログラムなどだ。そこでは「ページ」はシステムをナヴィゲートするための脇役にすぎない。

 

●業務システムとしてのインターネット

 

  今まで述べてきたことは、商用のウェブサイトが、いまや「情報発信のメディア」というよりも「業務効率化のためのシステム」となりつつあるということを意味している。旧い言葉で言えば「OA化」と言われる領域。これを企業・団体の組織内で行えば「イントラネット」、複数の取引先を巻き込めば「エクストラネット」、そして不特定多数の利用者を対象にオープンに展開すれば「インターネット」である。

 

  文化ホールに即して考えるなら、つまりは、ウェブサイト構築を単に「施設やイベントの広報の新しい手段=電子ちらし/電子パンフレット」として捉える必要はない、ということだ。施設を借りたり、公演を見に来る住民相手の業務だろうと、音楽事務所や劇団、装置会社、警備会社といった外部の取引先との業務だろうと、あるいは経理や人事といったホール内の業務だろうと、そこに「書類」がある限り、インターネット技術を使った「効率化」が可能である。

 

  単にページを作成するのではなく、システムを構築するということになれば、当然予算は嵩む。簡単なサーバ用のプログラムを一本用意するだけでも、新規に制作発注すれば数十万円単位になるし、システム全体として考えれば、どんなに安くても数百万、場合によっては億単位の開発となってしまう。しかし、ホールを含む関連部署の「OA化」「システム化」として企画すれば、これは決して無茶な予算ではない。旧来のオフコンやミニコンを利用したシステム化投資と比べ、インターネット技術を利用したシステム構築にかかる費用は、実のところ格段に安い。おまけに、単なる「ホールのホームページ」に比べて、こちらのほうが遙かに役に立つ。

 

  例えば「友の会管理」の業務を考えてみよう。何千人という会員の名簿を管理し、会費をもれなく集め、折々に会報を発行し、自主事業があればダイレクト・メールを送付する。大変な手間だし、郵送費だけでも馬鹿にならない。しかし、一旦、データベース型のウェブサイトとして構築してしまえば、上記の作業は殆ど自動化されてしまうし、郵送費もいらなくなる。その上、インターネットを通じて新規会員を募集し、会費を集め、会員特別割引でチケットを販売することまで技術的には十分に可能だ。ここまでいけば、かなりの額の初期投資をしても、1年~2年で十分に元を取ることができる。

 

●外のサービスを利用する

 

  システム化を図るほどの予算確保の見通しがつかない場合でも、旧来型の「ホームページ」で我慢しなければならないわけではない。自力でプログラム開発ができないなら、外のサービスを廉価に利用すればいい。

 

  かつてインターネットのシステム面でのサービスと言えば、商用接続(インターネット・サービス・プロヴァイダ=ISP)、サーバのスペース貸し(レンタル・サーバ)、それにヴァーチャル・ドメイン(その施設や財団独自のURLの代行取得と管理)といったところがメインだった。しかし現在では、こういったベーシックなレベルを越えて、業務システムのアウトソーシングに近い各種のサービスが提供されるようになりつつある(アプリケーション・サービス・プロヴァイダ=ASP)。

 

  この中で、近年最もサービス展開が進んでいるのがオンライン・ショッピングに関わるサービスである。インターネット上での電子決済システムを自力で構築するためには億どころではないシステム開発費用が必要となる。しかし、「楽天市場」「メタマート」をはじめとするこの種のサービスを利用すれば、僅かな出店料もしくは初期インストール料と月額運営費(初年度費用で考えて100万円未満。月額運営費もしくは歩合だけのところもある)だけで誰でも簡単にネット上での決済が可能になる。こうしたサービスを利用すればチケットやグッズのオンライン販売が手軽に開始できる。

 

  このほかにも、簡単にオンライン上での会員制度を展開できたり、あるいは、業務上のスケジューリングや報告・連絡システムを構築できるサービスを提供している企業も多い。こうしたサービスを上手く組み合わせて利用すれば、相当のところまで、新たなプログラム開発をせずに「業務システム型」のウェブサイトを企画していくことが可能となる。

 

  ホームページとしてではなく、イントラネット、エクストラネットとしてウェブサイト構築の企画を考える。今の時期に取り組むのなら、文化施設のウェブサイト構築にも、こうした視点は不可欠である。そうしてこそ、流行やお飾りではない「実用的なウェブサイト」を作っていくことができるのである。

 

(*1)インターネットとは、TCP/IPと呼ばれる一連の通信規約(プロトコル)群に則って構築されたオープンなコンピュータ同士のネットワーク。このネットワーク上で、各種の文書やデータを、リンクを辿りながら閲覧する技術、もしくは実際に張り巡らされた文書やファイルの網の目のことを、WWW(World Wide Web)と呼ぶ。WWWは、ウェブと略されることも多い。

 

(*2)ホームページとは、ウェブ・サーバ(*4)内のHTMLファイル及びそこに関連づけられた画像や音声等のファイルののかたまりのこと。通常は、ウェブ・サーバ上のハード・ディスクのディレクトリの一つにまとめて格納されている。

 

(*3)関連する文書をリンクを辿りながら読み出すことができるファイルの持ち方をハイパーテキスト構造という。このハイパーテキスト構造でファイルを作成するための言語がHTML(HyperText Markup Language)である。WWW上で読み出されるデータは、このHTML言語で作成されたファイル、もしくは、そこに関連づけられた画像や音声などのファイルで構成されている。これらのHTMLを使って記述もしくは関連づけられたデータは、後述するWWWブラウザ(ウェブ・ブラウザ)によって閲覧することができるため、ウェブ・ページとも呼ばれる。

 

(*4)ウェブ・ページを、インターネットを経由して、世界中の人に読めるようにするためには、ウェブ・サーバと呼ばれるコンピュータ内に格納しておく必要がある。ウェブ・サーバは、ワークステーションもしくはパソコン上に、HTMLファイルを送受信するために使われるHTTPデーモンというサーバ・ソフトをインストールして構築される。

 

(*5)手持ちのインターネットと接続されている端末(パソコン等)から、ウェブ・サーバ内のウェブ・ページを閲覧するためのソフトウェアがウェブ・ブラウザ(Netscape NavigaterやInternet Explorerなど)。このブラウザとウェブ・サーバ間でHTML文書をやりとりするためのプロトコルのことをHTTP(HyperText Transport Protocol)と呼ぶ。これはTCP/IPの一部、実際にユーザにアプリケーションを提供するためのプロトコルの一つである。

 

(*6)HTTPでのウェブ・サーバとのやりとりを通じて、サーバ・マシンに、HTTPでの送受信以外のデータ処理を行わせることも一般に行われている。このためにウェブ・サーバ内に置かれているプログラムのことをCGI(Common Gateway Interface)と呼ぶ。近年では、データベースを始めとする各アプリケーション・ソフトウェアがウェブ対応を進めて来ており、CGIを利用せずに、直接こうしたアプリケーションとのやりとりができるようになりつつある。

 

(*7)インターネットは、接続さえしていれば世界中のどこからでもアクセスできるという利便性がある反面、違法なアクセスが行われ、貴重なデータを奪われたり、あるいはシステムを壊されてしまうといったリスクも背負っている(ハッキング、クラッキング)。こうした事態を防ぐため、通常、組織内のネットワークをインターネットにつなぐ際には、アクセスを制御するためのシステム=ファイヤー・ウォールが組まれることになる。

 

(*8)業務処理や社内連絡用のLANをTCP/IPで構築したものをイントラ・ネットと呼ぶ。社内のシステムがイントラ・ネット化していれば、インターネット上でのやりとりを、社内のシステムに繋ぐことができる。例えば、インターネット・ユーザからの商品の購買注文を、社内の発注システムや決済システムに繋げ、インターネットを通じた直売のシステムを構築することが可能となる。また、取引先の企業との間(例えば決済処理をする金融機関等)を同様に結び、受発注のデータをやりとりするネットワーク(エクストラネット)を構築することもできる。

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