一般社団法人 地域創造

「フランスアートマネジメント講座」レポート

フランス文化政策の実例に学ぶ

 財団法人地域創造主催による初の国際セミナー、「フランスアートマネジメント講座」が9月28日から30日の3日間、滋賀県大津市の全国市町村国際文化研修所にて開催されました。この講座は、フランスの文化政策やアートマネジメントの実例を学び、日本の現状と比較検討して、地方の公立文化施設のこれからの施策に役立てようという目的で行われたもので、全国市町村国際文化研修所(JIAM)が共同主催となり、(社)企業メセナ協議会や在日フランス大使館文化部などの協力を得て実現されました。

 

 フランス側の講師は、ジャック・ラング文化大臣の時代に行政顧問を務めたジャン=ミッシェル・ルカ氏をはじめ、現ナント市文化局局長のジャン=ルイ・ボナン氏、フランスの企業メセナを代表する預金・供託公庫のフランシス・ラクロシュ氏などそうそうたる顔触れの計7名、受講者は地方自治体の文化担当者28名です。初秋の琵琶湖を眺望する絶好の環境の中でフランスを満喫した贅沢な3日間になったのではないでしょうか。

 

●フランス文化行政の歩み~ゼミ1より

 

 初日は、フランスの文化行政がどのような歴史的経過を辿って今日に到ったのか、文化省40年の歴史をふりかえる、ジャン=ミッシェル・ルカ氏の講演から始まりました。「教育省は知識を扱い、文化省は感性を扱い前衛を擁護する」「我々の仕事は天才の言葉=人類の才能を万人に所有せしめることである」といった、初代の文化大臣アンドレ・マルローの言葉が次々に披露されるなど、その高い志と使命感はさすが芸術の国と圧倒されます。

 

 フランスでは1960年代に、96の各県に文化会館が建設されました。当時の普遍的な芸術文化の普及という考え方から、多様な文化を認める方向へと大きな変革をもたらしたのが、80年代の地方分権化政策でした。芸術の独自性とともに、地方の期待にどのように応えていくかという柔軟性が求めらる時代となり、自治体とのパートナーシップを強めた、文化の地方分散政策が図られていきます。

 

 同国には日本の県より広域に分割された27の“地域圏”があり、それぞれに文化省の文化局が設置されています。文化省は基本方針を定めるだけで、地域圏文化局が自治体との連携で創造活動の支援を行うという、より地域の多様性に即したシステムになっています。地方自治体全体の文化予算は国の2.5倍、人口8万から15万の市町村では総予算の17%が文化予算に配分されていることからも、いかに地域が文化政策に力を入れているかがわかります。多くの議論を積み重ね、文化の民主化と地方分権を推進してきたフランス──ビジョン、政策、実践とその一貫した取り組みには感服させられました。

 

●アミアン文化会館の事例~ゼミ2Bより

 

 人口15万のアミアン市に66年、全国に先駆けて建設されたのがアミアン文化会館です。会館の事業費は約2億円。国・県・市の助成金と入場収入で賄われています。運営はアソシエイション(事業団)の形態をとり、職員は館長以下、清掃や警備員まで含めて計37人。全員民間の専門家が任用されています。予算の決定、監査、館長の任命は、国・県・市の文化担当官と地元の文化人から成る理事会が行います。フランスでは自治体直営の小規模会館を除き、大多数の公立文化施設がこのような組織で運営されています。

 

 会館の運営と芸術面の実質的な責任者は館長で館長が交替するとプログラムの内容も大きく変更されるそうです。現館長のミッシェル・オリエ氏は音楽分野に力を注いでおり、新たにレコーディングスタジオを併設して自主プロデュースをするなど、ユニークな事業を展開しています。

 

●ナント市の事例~ゼミ3Bより

 

 国際的な文化交流で知られるナント市。人口は27万人弱ですが、周辺の55万人の人口を抱える21市からなる市街区地域の中心でもあります。このナント地区の文化局局長が、ジャン=ルイ・ボナン氏。予算60億円、職員550人を統括する文化行政の責任者です。この地区の文化政策は市議会議員によって決定されています(実行は文化振興会)。毎月各市の文化局長が集まって情報交換やネットワークづくりを行っているほか、議員や公務員のアートマネジメント研修が実施されています。「例えば施設建設の際にも、目的は何なのか“明確な意識化”が必要である」「地方独自の文化政策を打ち出していくためには、専門能力を備えた公務員の養成が必要」とボナン氏は力説します。

 

 文化政策に国際交流を大きく掲げるナント市では、地方劇団を南米やカメルーンに派遣したり、アーティストの留学を支援するなど、異文化とのパートナーシップの構築に積極的に取り組んでいるそうです。また若手アーティストの育成として、元工場を改装して若者たちに24時間開放したり、契約によるアーティスト・イン・レジデンスなどを実施しています。この契約には、学校教育の現場に参加する義務を条件にするなど、アーティストの社会参加や地域への貢献といったアウトリーチが組み込まれており、まさに地域に根ざした文化政策であると実感させられました。

 

●「フランスは凄い!」で終わらせないために

 

 その他、地方の小ホールと連携してダンスや室内オペラの普及に励む、イル・ロ・フランス・オペラバレエ協会の草の根的な活動。ボビニー劇場国際創造センターやバニョレ舞踊フェスティバルでも名高いセーヌ・サンドニ県の芸術創造や観客の育成活動、等々。盛り沢山のフランス文化政策の実例に、受講生たちは頭もはちきれんばかりでした。

 

 最終日のグループ研究では、5、6人の班に分かれ、ゼミの内容を整理するとともに、自分たちの現場に照らし合わせてシミュレーションして発表。聞きっぱなしでは終われないステージ・ラボ式のセミナーに受講者一同真剣な面もちで取り組んでいました。

 

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●フランスアートマネジメント講座概要
[開催期間]9月28日~30日
[会場]全国市町村国際文化研修所
[主催](財)地域創造、全国市町村国際文化研修所
[企画協力]在日フランス大使館文化部、(社)企業メセナ協議会
[協力]フランス外務省、フランス芸術文化活動協会(AFAA)、関西日仏学館
[全体コーディネーター]根本長兵衛((社)企業メセナ協議会)
[全体コーディネーターアシスタント]熊倉純子((社)企業メセナ協議会)/津村卓((財)地域創造プロデューサー)
[講座コーディネーター]児玉真(カザルスホールチーフプロデューサー)/松井憲太郎(世田谷パブリックシアター学芸員)

 

●講座プログラム
ゼミ1:「概論フランスの文化政策」ジャン=ミッシェル・ルカ(元アキテーヌ地域圏文化局長)
ゼミ2:A「アキテーヌ地方のケーススタディ」ジャン=ミッシェル・ルカ/B「アミアン文化会館~地方分散化のネットワークの変遷」ミッシェル・オリエ(アミアン市文化会館館長)
ゼミ3:A「セーヌ・サンドニ県の文化~大いなる志し」クロディーヌ・ヴァランティニ(セーヌ・サンドニ県文化、青少年、スポーツ部長)/B「文化の民主化:地域文化活動~地方都市における芸術文化の位置づけと公的サービスの考え方」ジャン=ルイ・ボナン(ナント市文化局長)
ゼミ4:「地方行政における芸術文化の位置づけと公的サービスの考え方」児玉真/「世田谷パブリックシアターの事例」松井憲太郎
ゼミ5:A「ナント市の文化政策:異文化への扉」ジャン=ルイ・ボナン/B「イル・ロ・フランス・オペラバレエ協会の活動」カロリーヌ・ソンリエ(イル・ロ・フランス・オペラバレエ協会代表) レクチャー「フランスにおける演劇創作の環境と国際的活動」ヨシ・オイダ(フランス在住演出家・俳優)
ゼミ6:「地方都市で教育普及活動をサポート~フランス最大のメセナ活動」フランシス・ラクロッシュ(預金・供託公庫メセナ・文化事業統括部長)

 

●「フランスアートマネジメント講座」のほか、
今年度は全国市町村国際文化研修所と共同で2つの「アートアプローチセミナー」を実施しました。

 

●「市町村長向け芸術文化事業推進研修」

 

  地域創造の企画する事業としては初めて、市区町村長など地方公共団体のトップを対象としたセミナーを実施しました。参加者は、市区町村長、助役、収入役など計36名。三枝成彰氏、永井多惠子氏の講演会では、講師に対する質問も多く飛び出し、参加者の芸術文化に対する意識の高さを認識するものとなりました。

 

[日程]7月30日
[会場]全国市町村国際文化研修所
[講演]「地域における公共劇場の役割」永井多惠子(NHK解説委員、世田谷文化生活情報センター館長)/「文化は本当に必要か?」三枝成彰(作曲家、東京音楽大学客員教授)

 

●「財政・企画担当部局向け芸術文化を活かした地域づくり研修」

 

  財政・企画担当部局向けの研修(参加者19名)では、各講師の講演に加え、“福祉施策VS文化施策”“都市基盤整備VS文化施設建設”に分かれたディベートを実施。厳しい財政状況の中、文化施策はどうあるべきか、白熱した議論が展開されました。合わせてびわ湖ホール施設見学と、クラシックのミニコンサート鑑賞も行いました。

 

[日程]8月24日、25日
[会場]全国市町村国際文化研修所
[コーディネーター]横須賀徹(水戸市下水道局計画課長)
[講師]青木繁(建築家)、前田恭二(読売新聞記者)
[出演]高橋多佳子、竹村佳子、中鉢聡、久保晃子

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