一般社団法人 地域創造

横浜市 夏休み子ども寄席 ワークショップ

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 今夏、横浜市旭区民文化センター(サンハート)で、「暑~い夏を笑い飛ばせ!子ども寄席ワークショップ」と題したユニークなワークショップが開催された。毎週1回計5日間の稽古で、1人1話をマスターし、最終日には特設高座で発表会を行うという企画に、小学4年生から中学1年生まで12人が参加。柳家三三氏、桂藤助氏、三遊亭歌彦氏ら若手落語家3人が講師を務め、中学生は落語の「寿限無」「あくび指南」、小学生は小噺に挑戦した。

 

 本来、落語の稽古は、師匠の話しぶりを弟子が見て、聞いて覚える“口移し”が基本で、プロが1つの噺を覚えるのに約1カ月はかかるという。稽古期間が限られている今回のワークショップでは、予めテープからおこした特製台本を郵送し、事前に暗記してもらった上で、身振りや話し方を中心にした指導が行われた。

 

 7月29日、ワークショップ初日。「ちゃんと覚えてきてくれたかな」という担当の杉崎栄介さんの心配をよそに、会場には、扇子、手ぬぐいを手にした子どもたちが元気に顔を揃えていた。三三氏、藤助氏の2人が羽織姿で登場、「上下(かみ・しも)」などの基本ルールを説明した後、早速、対面での稽古がスタートした。しっかり台本を覚えてきた子どもたちに「凄い凄い。じゃあちょっと演って見せるからね」と、講師が登場人物の関係性、目線の向け方、道具の使い方などを丁寧に説明しつつ演じてみせる。自分たちの覚えた「文章」が、生き生きとした「噺」になっていく様に、子ども達の目の色が変わった。

 

 ほとんどの子は、落語をナマで見るのは初めて。間近で見るその“話芸”に息を止めて見入っている。「寿限無」を演じる中学1年生の上原央子さんは、「落語って、一人芝居なんですね。一人で何人も演じ分けなきゃいけない。目線の向け方一つ一つまで、落語家さんがいろんな事を考えているのを知って驚きました」。

 

 サンハートでは、オープン以来、いわゆるホール寄席を毎年開催してきた。しかし、通常のホール寄席では、トリを務める真打ちのネームバリューに客足が左右されてしまう。一方若手は、実力があっても発表の場が少ない。本来の“話芸”が楽しめて、しかも若手の発表の場ともなる事業を企画できないかと、昨年からスタートさせたのが、会員制の寄席「三鳩(さんきゅう)亭」である。これは、実力ある若手数人を演者に迎え、ほぼ同じ顔ぶれで年3回、寄席を開催するというもので、3回連続鑑賞を条件に公募した近在の市民約40名が会員。小さな空間で、演者は芸に、観客は鑑賞眼に磨きをかけ、「ここの落語会はレベルが高い」と評判は上々だそうだ。

 

 こうした事業の延長上に、今回のワークショップも企画された。「言い回しをわかりやすく変えるような、よくある“子ども寄席”ではなく、本物の“話芸”に触れられるような企画はできないか」と今回の講師にもなってもらった「三鳩亭」のメンバーに相談。「最初は教室形式で、と提案したんですが、『それじゃあ落語はできない』と一蹴されまして。でも初日までに暗記、対面稽古という方法に子どもたちがついてこれるのか?怖かったですよ」と杉崎さん。対面稽古をフォローするために“舞台の上下”“扇子と手ぬぐい”などの落語豆知識を図解した「子ども寄席通信」を発行するなどの工夫もしたそうだ。

 

 三三氏は、「以前、大人向け講座で『覚えて発表』といったらみんな退いてしまった(笑)。でも、逆に子どもさんならできると思ったんです。落語の登場人物はいつでも一生懸命で、馬鹿馬鹿しいことを大真面目にやっている。そういう人を包み込む温かい笑い、それが落語だと思います。今の子どもたちに、そうしたストレートな笑いの面白さを感じてもらいたかった」と言う。

 

 子どもたちに大切なのは、安易に「わかりやすく」することではなく、芸本来の持つ豊かさ、奥深さを上手く発見させてあげることなのだと改めて考えさせられた。この夏休み、12人の子どもたちはそれぞれ、落語を通じて、その“芸”の世界への入り口を見つけたに違いない。

(宮地俊江)

 

●「夏休み子ども寄席ワークショップ」
[日程]7月29日、8月5日、12日、19日、21日(発表会)

 

●横浜市旭区民文化センター(サンハート)
[運営]横浜市文化振興財団
[施設概要]ホール(平土間/300席)、音楽ホール(音楽専用/103席)、カルチャー工房、アートギャラリー、音楽工房(4室)、ミーティングルーム(2室)

 

地域創造レター 今月のレポート
1999年9月号--No.53

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