●10回目を迎えたPMF
札幌の「パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)」は7月10日、札幌芸術の森で開幕した。このフェスティバルは1990年、今世紀を代表する米国の指揮者で作曲家のレナード・バーンスタインが創設した国際教育音楽祭。ウィーンフィルやベルリンフィルなど、世界を代表する楽団の名手らを講師に招き、次世代を担う世界の若手演奏家を育て、コンサートを通してアジア・環太平洋地域の音楽文化の発展を目指している。指揮者・小澤征爾らを輩出してきた、米タングルウッド音楽祭の“極東版”だ。
この音楽祭、実は計画当初は中国・北京で開催される予定だった。ところが天安門事件の勃発を受けて、開催地が急きょ日本に変更となり、この時期、梅雨がほとんどなく、練習施設も比較的整っていた札幌に、白羽の矢が立った。バーンスタインは、初回PMFのわずか数カ月後、亡くなったが、以後毎夏、途切れることなく開催されてきた。初回は民間主導の催しだったものの、91年の第2回以降は、札幌市などでつくるPMF組織委員会が主催している。
今夏は10回の節目。過去9回のPMFで学んだ音楽家1200人のうち、現在ニューヨークメトロポリタン歌劇場管弦楽団や英フィルハーモニア管弦楽団、カナダのモントリオール響などの名門楽団で活躍中の奏者100人を選び「PMFインターナショナル・オーケストラ(PMF10=テン)」を特別編成。芸術監督のマイケル・ティルソン・トーマス(米サンフランシスコ響音楽監督)の指揮で札幌・大阪・東京でバーンスタイン『交響曲第2番・不安の時代』やマーラー『同第1番・巨人』を演奏、高い評価を受けた。そのパワーあふれる舞台は、札幌発の人材が世界の楽壇で活躍していることの大きな証拠といえよう。
このほか、世界各地の若手演奏家でつくるPMFオーケストラの公演や、講師陣による室内楽演奏会などがほぼ毎日、芸術の森の野外ステージや札幌コンサートホール「kitara」などで開かれている。また今年は、香港の中国返還時に交響曲が演奏されて話題を呼んだタン・ドゥン氏(ニューヨーク在住)が専属作曲家として招かれており、彼の作品の特集演奏会や、バーンスタインの曲を通じて子供たちに音楽の楽しさを伝える「青少年のための音楽会」なども加わり、8月3日までの期間中はコンサート選びに迷うほどだ。
総事業費は毎年約8億円。その半分に当たる4億円強を野村証券や松下電器、トヨタ自動車、日本航空の大手4社が拠出。札幌市や北海道、地元企業などと一緒に“札幌の夏”を支えてきた。空前の不況下、企業による支援継続を懸念する声は少なくないが、10回目以降も助成は続くと見られている。これはバブル期に盛んにみられた宣伝目的の冠コンサートなどとは異なり、「音楽教育を通じ、世界平和に貢献する」というバーンスタインの理念に企業側が共感しているためと見られる。
ただ、関係者の間には事業運営の一層の効率化を求める声も少なくないため、組織委員会は、これまで単独で海外から招へいしてきたレジデントオーケストラ(専属楽団)を、他の音楽関係団体との連携によって負担軽減を図るなどの改善策を進める考えでいる。
PMFは当初、民間事業としてスタートした経緯などから、組織委員会では音楽祭の企画・運営ノウハウの蓄積が遅れ、若手演奏家確保のためのオーディションをはじめとする、事業の根幹にかかわる部分をも外部に委ねてきた。今後は、これらの業務の見直しを進めると共に、内外での知名度の一層アップに向けた広報体制の充実などが、課題となりそうだ。
(北海道新聞文化部 谷本裕)
地域創造レター 今月のレポート
1999年8月号--No.52