一般社団法人 地域創造

ステージラボ静岡セッション報告

個性的な講師陣による多彩なプログラム

 

 今回のステージラボは6月13日、第2回シアターオリンピックスを終えたばかりの静岡県で開催されました。会場は、静岡県コンベンションアーツセンター(グランシップ)と日本平の自然公園内にある静岡県舞台芸術センターの劇場「楕円堂」。芸術文化による情報発信に力を注いでいる静岡県がその中核施設としてオープンさせた話題のスポットです。立派な施設に最初は少々気後れ気味だった参加者も最終日にはすっかり馴染み、いつもながらのお別れ風景が展開していました。

 

 今回のコースは、解説入りワークショップと公立ホールの過去・現在・未来を考えるセミナーで構成された「ホール入門コース」、ステージラボOBが講師を務めた「ホール運営Iコース」、静岡県舞台芸術センターの取り組みを中心に市民参加を考えた「ホール運営IIコース」の3つでしたが、それぞれにコーディネーターの個性があふれた講座展開になったのではないでしょうか。以下、特徴的だったラボのシーンをいくつかご報告したいと思います。

 

●ラボ名物“ ワークショップ ”

 

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 計6つのワークショップが実施されましたが、中でも関西の演劇人(松田正隆、土田英生)によるワークショップは作家性の表れた、創作の秘密に触れるようなものでした。

 

 まず、96年度の岸田戯曲賞を受賞した新鋭で、入門コースの戯曲づくりワークショップを担当した松田さんは、自らの戯曲を解剖しながら書き方のポイントを伝授。ちなみにそのポイントとは――1)居間で家族と会話していると人が訪ねてくるといったように戯曲には内側(居間の家族)と外側(訪ねてきた人)がある。情報をこの内と外にうまく配分して出すこと、2)身近な小道具など手に触れるものを手がかりにすると台詞が出やすい、3)登場人物を設定するには過去の出来事が効果的、4)解決すべき課題や問題を設定すること、5)戯曲は2)の「近い話」と3)4)の「遠い話」を配分するとうまく書ける――など。

 

 参加者は講義の後、課題として書いてきた短い会話劇を元に4つのグループに分かれて戯曲づくりを行い、最終的に演出家の宮田慶子さんの指導で自分たちで演じるところまでを体験しました。

 

 また、ホール運営Iコースでは京都で劇団MONOを主宰し、今、関西で最も注目されている若手演出家・劇作家の土田さんによるワークショップが行われました。「お笑い」で育ったという土田さんの軽妙な話術と進行に、参加者だけでなく見学者も笑いをかみ殺しながらあっという間に3時間。

 

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「舞台に上がると身体は不自由になります。見られていると思うと自分をよく見せたいという自意識によって身体が固まるからです。まずはその感覚を体験してもらいましょう。では、一人ずつ順番に前に出て、誰もいない部屋でテレビを見ているつもりでリラックスしてイスに座ってください。他の人はジーッとその人を見つめましょう、ハイッ!」

 

 みんなの視線に曝されているのを意識した途端、落ちつきを失い、視線は泳ぎ、手足がしゃっちょこばる参加者たち。真剣にやればやるほどうまくいかないという、定番ギャグの1シーンにやってる方も苦笑い。

 

 「“見られる”ということ、“舞台上では身体が緊張する”ということを感じてもらいたかったのと、芝居は“呼吸”でつくるということを認識してもらいたかった。例えば、舞台上で身体をリラックスするには“呼吸”を自然にすればいい。また、観客には役者の呼吸が移るので、客を驚かせるには役者が呼吸を揺すったり、ずらしたりすればいい。そういう“間”と“呼吸”が僕の芝居をつくる時の基本」という土田さん。

 

 ステージラボ札幌でも好評を博した作曲家、坪能克裕さんのワークショップや、静岡県舞台芸術センター所属ダンサー・振付家の竹内登志子さんによる“シロウトでも踊れる振付メソッド”のワークショップなど、いつも以上に充実したプログラムでした。

 

●講師陣の個性パワーに脱帽

 

 ステージラボでは、第一線の実務家やアーティストが講師となるため、参加者はカリスマ性のある個性やエネルギッシュな話ぶりに圧倒されることがよくあります。特に今回は、共通プログラムでご協力をいただいた静岡県舞台芸術センターの鈴木忠志芸術総監督をはじめアーティストの参加が多かったのに加え、落語好きの美術館学芸員(!?)やキャラクターで勝負しているラボOBが花を添えるなど個性派講師がズラリ。

 

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 何といっても圧巻は鈴木芸術総監督による共通ゼミで、舞台装置からして他を圧倒するものでした。夕暮れ間近の午後5時。バスで日本平まで移動すると、そこは富士の裾野の緑と茶畑に溶け込むように文化施設が点在する別世界。茶畑の中を歩くこと5分。日本家屋を思わせる畳敷きの回廊のある楕円形の劇場「楕円堂」で講演会は行われました。プロセニアム型のホールを見慣れている職員にとっては能舞台がモダンに蘇ったようなこの施設を見ただけでかなりの驚きだったのではないでしょうか。(ちなみに「なぜ楕円なのですか」という参加者の質問に対し、「楕円には中心が2つある。能舞台のように1つの中心ではなく、どこにでも中心がとれる劇場で演劇をやりたかったから」とのこと)

 

 2時間近く話された講演の内容を簡単に要約することはできませんが、「今日は芸術家として話をしたい」という前置きの後、「“非動物性エネルギー”が世界的なシステムとして共有化されつつある現在の状況に対し、舞台芸術がその根幹としている“動物性エネルギー(生身のエネルギー)”の価値を再認識する必要がある、というのが芸術家の世界認識。この“動物性エネルギー”を検証するために提唱したのがシアターオリンピックスだ」から始まり、「人間は偶然的な精神の持ち主であり、この偶然性があるから発見がある」という人間観から、「人間というのはわからないものだというのをやるのが演劇」という演劇観、「偶然性の起こる公共的な空間が劇場である」という劇場観まで。鈴木パワーを肌で感じた2時間だったのではないでしょうか。

 

 また、「普及活動は面白いことが絶対条件」「美術館側から発想するのではなく、日常生活を丹念に見るところからしか企画は生まれない」など落語家もびっくりするような語り口で示唆に富んだお話を聞かせて下さった世田谷美術館学芸員の高橋直裕さんには、文化施設の職員は“芸”も鍛えなければと、参加者一同感服させられました。(取材:坪池栄子)

 

この他、貸館派と自主事業派に分かれてラボOBと参加者がディベート対決をしたり、知っているようで知らない舞台美術の製作プロセスを模型を見ながら勉強したりと、ますます多彩に、タフになるステージラボ。ご協力いただきました皆様、本当にありがとうございました。

 

●ステージラボ静岡セッション
[日程]1999年6月29日~7月2日
[主催]財団法人地域創造
[共催]静岡県、財団法人静岡県舞台芸術センター、財団法人静岡県文化財団
[コーディネーター]ホール入門コース:衛紀生(舞台芸術環境フォーラム代表)、ホール運営Iコース:津村卓(財団法人地域創造プロデューサー)、ホール運営IIコース:重政良恵(財団法人静岡県舞台芸術センター制作部主任)
[参加者数]計66名(入門25名、運営I 20名、運営II 21名)

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