このほど、カナダのケベック州モントリオール市で開催された国際舞台芸術見本市「CINARS 98」に招待された。CINARSは、ケベック州政府の強力なバックアップのもと、1984年から開催されてきた芸術見本市。8回目となる今回は、クウィーン・エリザベス・ホテルを会場に、98年12月2日から5日までの4日間開催された。
今回、ブースを出展したのは18カ国150団体。会期中、市内4つの劇場で行われるショーケースでは、182の応募のなかから選ばれた26団体がパフォーマンスを行った。さらに、各カンパニーが自主的に行う「OFF CINARS」が約50公演ある。前回に比べ10カ国多い40カ国以上から約500名が参加するなど、回を重ねるごとに国際的な広がりが生まれているようだ。
CINARS名物となっているのが、その驚異的な過密スケジュ-ルである。今回の2日目を例に挙げてみるとーー。午前8時、朝食中に英国の4つのカンパニーの活動紹介を聞く。10時には市内の劇場に移動して4つのダンスカンパニ-のショーケースを鑑賞。ホテルに戻り昼食の間は、ブリティッシュ・カウンシルが英国の文化交流についてプレゼンテーション。2時30分から会場でブースめぐり。夜は市内の劇場で演劇、パフォーマンス、音楽のショーケースやOFF CINARSをのぞく。終了は夜中の0時。まさに舞台芸術の集中豪雨という感じだ。
ショーケースやOFF CINARSは地元のカンパニーが中心で、ダンスのほかマジック、サ-カスなどセリフのない身体表現が多い。特に、パントマイムと歌と音楽で、コメディータッチのパフォーマンスを展開する『AXIS THEATRE』は、「日本にはない質の高い笑い。子どもから大人まで楽しめる」と、日本の劇場関係者の注目を集めていた。こうした表現が盛んな理由は、ケベック州がフランス語と英語を公用語としていることから、言葉を交えない分野の舞台芸術が普及しやすいからだろう。また、ダンスのステ-ジに映像を加えるなど、ビジュアルに工夫を凝らした作品が多いことも目立った。この見本市の参加者は世界の芸術関係者だけに絞られているが、各国から集まったバイヤーに、地元の作品を徹底的にPRし、地元の芸術産業を振興しようという主催者の強い意志が感じられた。
CINARS 98には日本から10名が参加。日本のプレゼンテ-ションタイムには、国際舞台芸術交流センタ-の曽田修司さん、伊丹のアイ・ホ-ルの志賀玲子さん、世田谷パブリックシアタ-の根本晴美さん、そして私が、国際交流基金トロント日本文化センタ-の青柳俊明さんの総合司会で日本の舞台芸術市場と公立ホ-ル等について紹介した。当然のごとく「日本公演をするには誰に依頼すればいいのか」の質問が多く、3回目の参加となる曽田さんが事前に用意していた海外招聘を行っている日本のプロモ-タ-・劇場リストを配布して対応した。今回、ドイツ、スペイン、オ-ストラリアなど各国の見本市主催者の参加が多く、メキシコでも新たな見本市構想が浮上しているそうだ。これに対し、CINARS代表のアラン・パレ氏は将来、世界舞台芸術見本市協会を創設することも考えているとか。
過去に参加経験のある数人に尋ねたところ、「世界の舞台芸術関係者にダイレクトに接触できるのがCINARS参加の大きなメリット。その場ですぐにビジネスが成立することは多くはないが、この直接のコンタクトはその後、ファックス1本で本音の情報交換ができる関係をつくることができる」のだと言う。CINARSは、世界にネットワ-クを築く大きなチャンスの場なのである。
(芸術環境部企画課長 橋本道政)
●CINARS(シナ-ル)
フランス語のCOMMERCE INTER-NATIONAL DES ARTS DE LA SCENEの略。モントリオ-ルで1984年から隔年開催されている国際舞台芸術見本市。世界の芸術見本市の中で最も成功しているケ-スといわれ、昨年9月に東京で3回目を開催した「芸術見本市」のモデルの一つにもなっている。今回は、昨年の12月2日から5日までの4日間モントリオ-ルのクウィ-ン・エリザベス・ホテルで開催された。
地域創造レター 今月のレポート
1999年2月号--No.46