一般社団法人 地域創造

兵庫県山南町 丹波の森国際音楽祭

r43.gif

 兵庫県丹波地域の10町で4年前から「丹波の森国際音楽祭~シューベルティアーデたんば」という音楽祭が開かれている。丹波の森公苑ホールなど、ホールでの「ゲストコンサート」と、身近な会場にプロの演奏家を呼んで開く「街角コンサート」があり、運営するスタッフのほとんどがボランティアという音楽祭だ。運営部隊は、総合プロデューサーのテノール歌手、畑儀文さんを中心に、音楽祭全体のコーディネートを行うプロデュース部会、街角コンサート部会、事務局(丹波の森公苑)で構成され、街角コンサート部会のもとには、各町毎に街角コンサート実行委員会が組織されている。

 

 この音楽祭の特色は、音楽祭期間中、ほぼ毎週末どこかの町で開かれる「街角コンサート(以下街コン)」である。神社や里山などの様々な場所が会場になっており、各町毎にそれぞれ味があって面白いと聞いて、実際にお邪魔してみることにした。

 

 10月10日。山南町の大歳神社で開かれた「漢方の里に秋の音~お祭りだよシューベルト」。この日は大歳神社の秋祭りで、夕暮れの迫る頃、境内に並べられた椅子は昼間の法被姿そのままの男性や老若男女で満席だった。ステージは、かつて村芝居に使われていたという小さな小屋。突然、「わっしょい、わっしょい」と、開演のベル代わりの子ども御輿で幕が開いた。出演者のトークに会場が爆笑するかと思えば、境内で遊んでいた子ども達が歌声に耳を傾けるシーンがあるなど、皆なが思い思いにコンサートを楽しんでいた。

 

 山南町の街コンは、毎年開催地区を変え、その地区の人達みんなでつくりあげるスタイルで、今年は、安達康さんが、是非自分の住む若林地区を会場にと、コンサートを大歳神社に誘致したのだという。「最初はクラシックなんて分からん、という声もあったんですが、若いもんが盛り上がってるんだったら皆なでやろうと。祭りの日なら体も空けてあるしということになりました」と安達さん。

 

 こうした「街角コンサート」の盛り上がりを支えているものは何なのか。まず第一に挙げられるのが、丹波地域には文化活動に関わるボランティアが数多く育っていたということだ。全国的にも有名になった篠山町のたんば田園交響ホールのステージオペレータークラブのスタッフや、県や町の主催する地域づくり塾の卒業生が各町の街コンスタッフの核となっている。それと、10町が連続してコンサートを行うことで、互いの活動が刺激となり、相乗的な盛り上がりが生まれている点も見逃せない。山南町のコンサートには、他の町の街コンスタッフが何人も訪れていた。今田町の実行委員長である清水豊和さんは「ほとんど全部の町に出かけてます。他の町のアイデアを見て、次はうちはこうしようと考えるんです」。

 

 そして、何より音楽祭の総合プロデューサーである畑さんの存在が大きい。そもそも、この音楽祭は「シューベルト歌曲全曲演奏会」で知られる畑さんが、シューベルトの故郷であるウィーン第13区と、丹波10町が姉妹提携を結んだのを知り「丹波全体に音楽を響かせたい」、と行政に働きかけたのがきっかけではじまった。「ありきたりの鑑賞会に疑問があったんです。もっと普段着で楽しむ雰囲気をつくりたかった」という畑さんは、街コンの出演者の依頼や、プログラムの相談から出演まで丹波中を駆け回り、各町の打ち上げにも必ず“出演”する。そんな畑さんの人柄のせいで、みんなが気負いなくコンサートづくりを楽しめている。

 

 4年目を迎え、街角コンサートでは、一つの新しい試みを行った。去年まで無料だった街角コンサートを原則有料にしたのだ。山南町の街コンの入場料は500円。お客さんが減るのでは、と心配もあったが、どの町もお客は全く減らなかったという。各町のスタッフが各町仕様でつくりあげる「街角コンサート」を通じて、地球の人みんなが自分流のコンサートの楽しみ方を見つけている。「丹波の森国際音楽祭」は、そんなコンサートの在り方を提案する場でもあるようだ。

(宮地俊江)

 

●「丹波の森国際音楽祭~シューベルティアーデたんば '98」
[日程]9月1日~10月23日

 

<ゲストコンサート>
第1部「やっぱりシューベルト」
[日程]9月12日 [会場]たんば田園交響ホール [出演]ジョセフ・エルウォーディ、ティルマン・クレーマー
第2部「たっぷりシューベルト」
[日程]9月26日 [会場]丹波の森公苑ホール [出演]ティルマン・クレーマー、幸田聡子、趙静

 

<サロンコンサート>
[日程]9月20日 [会場]お菓子の里 丹波 ウィーンの館 [出演]足立さつき、トーマス・シューベルト

 

<街角コンサート>
春日町ふれあい広場(9月1日)/丹南町・お菓子の里丹波 屋外(9月5日)/篠山町・春日神社(9月6日)/青垣町・高源寺(9月11日)/篠山町・小林寺(9月19日)/氷上町・ゆめタウン内 ポップアップホール(9月24日)/市島町・北奥公民館(9月25日)/今田町・陶の郷里山林(9月27日)/山南町・大歳神社(10月10日)/西紀町・黒豆の館(10月11日)/柏原町・県立柏原高校同窓会館(10月23日)

 

地域創造レター 今月のレポート
1998年11月号--No.43

カテゴリー