●地元の人形劇団と手をたずさえて10年
今年も、8月の約3週間、「富浦人形劇フェスティバル」が開催されました。この事業は、劇団貝の火を主宰される伊東万里子先生が富浦町に稽古場を開かれたのを機に「子どもたちに豊かな文化を」と始まったもので、今年で10年目を迎えました。
8月2日、手づくりのくす玉割りでオープニング。「役行者(えんのぎょうじゃ)」と「竜子姫」の人形を持った遠藤町長と伊東先生に10周年を記念してくす玉を割っていただきました。
この10年、さまざまな劇団の人形劇を紹介してきましたが、一方で、劇団貝の火などの協力を得て、人形劇をもっと町民の方に身近に感じてもらおうと、地域の素材を盛り込んだ新しい人形劇の制作と上演を行ってきました。前述の「竜子姫」「役行者」とは、オリジナル人形劇『竜子姫物語』の登場人物です。富浦町にある大房岬を舞台とした伊東万里子先生の脚本による創作劇で、第2回のフェスティバルに初演され、以降毎年公演を重ねています。今や主人公の「竜子姫」はすっかり子どもたちに人気のキャラクターとなりました。今年も、参加型のイベント「竜子姫まつり」では、チビッ子たちの熱気が会場を埋め尽くしました。第3代ミス竜子姫には、一芸で、秋田節を民舞で披露した、和田町の山田真弓ちゃんが選ばれました。一芸のレベルも年々上がり、観るほうとしては楽しみが一つ増えた感があります。
さらに、95年からは、富浦町の人たちにも馴染みの深い南房総を舞台にした『南総里見八犬伝』の舞台化に着手しました。脚本は伊東万里子先生で、劇団貝の火、オフィスやまいも、たかつ人形座の3劇団が共同で上演します。95年に第1話、97年に第2話を初演。特に第2話は、人形作家として活躍する川本喜八郎氏に人形の制作を依頼。舞台美術、音響、照明とも充実していて、大変迫力のある舞台に仕上がっています。小学校や、町内のイベント係などから「ぜひうちでも公演してほしい」との話が度々あるほど。1時間50分という大作で、セットも大がかりなため、なかなかほかの会場で公演するのが難しかったのですが、1時間程度の短いバージョンも制作し、今年は希望のあった郡内の小学校で公演が実現しそうです。
また、フェスティバルの始まった翌年から、観るだけでなく演じる楽しみを子どもたちに、と年間を通じて「富浦人形劇学校」を開講しています。フェスティバルでは、その発表公演が毎年行われ、今年も一生懸命に演じる子どもたちに惜しみない拍手が送られました。そのほか、フェスティバルでは8年連続して文楽公演を実施しています。今年は最終日に吉田簑太郎氏ほかを迎え『増補大江山─戻り橋の段』を公演。文楽は年々ファンが増え、今年は2公演で満員に近いお客様をお迎えすることができました。
第10回を終了し、10年で観劇者数は延べ6万人を超えました。人口5900人余りの小さな町が行う事業としては、認知されてきたのかなと感じています。町の公民館を期間中は貸し切り、照明や音響も完備した劇場につくり替え、本格的な人形劇を上演していく、富浦ならではのフェスティバル。これからも人形劇が町の文化として根を下ろしていけるよう、人形劇フェスティバルの改革に取り組んでいきたいと考えています。
(富浦町役場 鈴木一範)
●第10回富浦人形劇フェスティバル
[主催]富浦人形劇フェスティバル実行委員会
[日程]8月2日~24日
[会場]千葉県富浦町公民館
[出演劇団・団体]劇団貝の火、オフィスやまいも、たかつ人形座、横浜人形の家、大徳俊幸グループほか
地域創造レター 今月のレポート
1998年10月号--No.42