ホール職員のための参考資料
講師 坪池栄子(文化科学研究所プロデューサー)
今回は、制作基礎知識シリーズ番外編として、編集部によく問い合わせのある「ホールに常備しておくべき参考資料」についてご紹介したいと思います。ホールの事業内容によって揃えるべき資料は異なりますが、自主事業を企画したり、広報宣伝資料を作成する際にあると便利な人名・作品辞典、用語辞典などのレファレンスを中心に選んでみました。
●まずは自分の目で確かめよう
ホール職員になったら、まず、大型書店か、もしくは図書館に出かけ、芸術文化関係についてどのような出版物が出ているか、自分の目で確かめてみてください。本の表題をざっと見るだけで、かなりの情報収集になります。
一般的に言うと、この領域についてはさほど出版活動が活発とは言えません。したがって、新刊が続々発行されて購入が追いつかないということはありません。ホール職員が利用する範囲で考えるなら、レファレンス類を揃えた後は、1)地元の情報誌と専門雑誌1、2誌の定期購読に、2)業界団体・関連団体の発行物を加え、3)専門雑誌などで紹介される新刊を適宜チェックするというのが基本的な考え方でしょう。心得として言うなら、定期購読する雑誌が決まったら、1年分のバックナンバーは揃えておきたいものです。ざっと目を通すと業界の最新動向がわかりますし、人名、団体名などのレファレンスとしても役立ちます。
芸術文化領域を専門にした出版社は、クラシック関係の音楽之友社、洋楽系のミュージック・マガジン、ジャズのスイングジャーナル社、音楽実用誌のリットーミュージック、美術関係の美術出版社、映画のキネマ旬報社、演劇関係の晩成書房など限られています(このほか、老舗出版社から各種辞典や戯曲全集の類が発行されています。また、詳細ジャンルに対応した専門誌や情報誌が必ず1誌はありますので、特定ジャンルに力を入れる場合はそうした雑誌を探してください)。こうした専門出版社を洗い出し、既存の発行物リストを入手して、必要な資料があるかどうかチェックしてみましょう。
●プロフィールや連絡先を調べるための資料
現在活動しているアーティストのプロフィールや連絡先については、基本的には専門雑誌を発行している出版社が年に1回発行する年鑑を使うのが情報が新しくて正確です。例えば、日本人のクラシック演奏家は音楽之友社の「音楽年鑑」、美術の現代作家は雑誌「美術手帖」の増刊号「BT年鑑」が一般的です(全国の美術館を紹介した別冊「美術館ガイド」もあります)。こうした年鑑には1年間の業界動向が整理されていることが多いので、目を通しておくといいでしょう。ちなみに年末には新聞の文化欄でジャンルごとの総括が行われるので、新聞データーベースなどで数年分を検索してみてください。
劇団については日本演劇協会が監修している「演劇年鑑」の巻末に名簿が付いていますが、詳しいプロフィールはありません。演劇人については、パソコン通信などを活用して人名データベースで検索するほうがいいでしょう(日外アシストなど有料のものがあります)。国際交流基金とエース・ジャパンが共同で運営しているJapan Performing Arts Net(http://www.jpan.org/)などいくつかの業界団体がデータベースをつくっていますが、烏合集散の多い業界なので、新聞記事検索なども合わせて活用することをお薦めします。そのほか、マスコミ活動を行っているタレントや所属事務所については、宣伝会議刊「マスコミ電話帳」に連絡先が掲載されています。
●用語や作品の内容を調べるための資料
クラシック音楽事典は、音楽之友社刊「音楽事典上・下」、三省堂刊「クラシック音楽作品名辞典」、白水社刊「図解音楽事典」などさまざまなタイプのものが出版されています。見比べて、使い勝手のいいものを選んでください。"百見は一聞に如かず"ではありませんが、音楽用語を実際に耳で聴いて確かめられるCD-ROM「音でわかる楽典」(音楽之友社)という優れものもあります。美術辞典は新潮社の「世界美術辞典」などたくさん出版されています。演劇用語は「演劇映画舞踊テレビオペラ百科」(平凡社)、ホール機構や舞台の裏方用語は「裏方用語事典」が手軽で便利です。
作品の内容については、古典関係は百科事典的なものでカバーできますし、ガイドブックも多いですが、新作は日頃から情報誌などを細かくチェックしておくか、新聞記事検索で確認するのが手っ取り早いと思います。ちなみにCD目録としては「作曲家別クラシックCD&LD総目録」「コンパクトディスク総カタログ」、映画ガイドとしては「ぴあシネマクラブ邦・洋」などがあります。戯曲については、戦後から現在までをカバーした「現代日本戯曲全集」(三一書房)が現在刊行中です。新作は「せりふの時代」(小学館)、小・中・高校演劇の戯曲は晩成書房の戯曲集があります。
●業界団体の発行物も活用しよう
業界団体が作成している発行物にもホール職員の実務に役立つ参考資料があります。地方公演を予定している団体の公演リストを集めた「公演事業資料」(公文協)、全国のホールの施設概要がわかる「全国ホール名鑑」(全国ホール協会)はよく知られています。手前味噌になりますが、公立文化施設の最新情報と動向がわかる地域創造レターと雑誌もお役に立つのではないでしょうか。
また、クラシック関係の業界団体である日本音楽マネージメント協会やポップス関係のACPCが発行している加盟団体リストには、所属アーティストと団体の連絡先などが掲載されており、出演交渉をする時に活用されています。このほかにも、業界にはさまざまな団体や連絡会があり(日本芸能実演家団体協議会、日本オーケストラ連盟、全国オペラフォーラム、芝居小屋会議etc.)、リストや報告書を作成していますので、集めると役に立ちます。また、全国の音楽祭リストが掲載されているヤマハ音楽振興会発行の手帳や、文化団体・施設のイエローページが付いている「ぴあ手帳」なども情報源として使えるでしょう。
●入門書的なハンドブックが欲しい
ホール・マネージメントの入門書としては、「芸術経営学講座」(東海大学出版会)を1セット揃えておくといいと思います。実務に直接役立つというものではありませんが、基本的な考え方は押さえられるのではないでしょうか。ホールの裏方実務をマスターするという意味では、仕込みから音響、照明までを詳しく解説した「STAFF」(晩成書房)がお薦めです。高校演劇の現場の指導者が生徒のために書いた入門書で、ビデオ版もでています。
古典を鑑賞する手引き書にはいろいろなものがあります。例えば、オペラだと本格的なものとしては「オペラ名曲百科上・下」(音楽之友社)、入門書では「オペラワンダーランド」(ぴあ)、歌舞伎、能、狂言、文楽については、三省堂からでているハンドブックが便利です。歴史解説、業界構造、鑑賞の仕方、作品ガイドまでが大変コンパクトに整理されています。音楽の鑑賞の手引きもジャンル別にいろいろと出版されています。シリーズとしては立風書房の「200CDシリーズ」が古楽、ジャズ、クラシック、ロック、オーケストラなどを多彩な切り口で紹介しています。
●芸術文化領域の教養に触れたい
ちなみに、芸術文化領域の教養に触れてみたいということでしたら、大手出版社が発行している新書(岩波新書、中公新書、ちくま新書など)や選書の中に参考になるものがあります。図書館の新書コーナーに行って(書店よりも既刊本が揃っています)、表題をながめてみてください。テーマを絞って歴史的な流れを解説したものや現代的な課題を扱ったものが多く、専門書に比べてはるかに読みやすくなっています。ガイドブック的なものも多いので、目録を入手してチェックしましょう。また、巻末の参考文献をうまく活用すると、芋づる式に面白い資料が見つかります。自分が興味のもてるテーマを決めて(できるだけテーマを狭くするのがコツです)、何冊か読んでみてください。