新理事長就任あいさつ
どうぞよろしくお願い申しあげます。
私は、自治省の財政局長としてこの財団の設立準備に携わっており、今回の理事長就任については格別の感慨がございます。
振り返りますと、課長時代から、地方団体がもっと自立性、自主性をもって地域づくりができればいいなあと考えておりまして、地域の人たちが自分で企画して自分で実施できる財政システムの開発と整備に取り組んでまいりました。その中で一般にも有名になったのが「ふるさと創生1億円事業」です。
こうしたさまざまな制度を活用していただく中で、地域に立派な文化施設もたくさんできました。使われていないと批判する人もいますが、地域が自主的に施設選択をする中で市民が育つということもあるわけです。卵が先か鶏が先かではありませんが、箱がソフトを育てるところもあります。とはいうものの、遅れているソフトの充実に対する支援の必要性も痛感しておりました。
それで1年半の準備期間を経て立ち上げたのが、この財団法人地域創造です。当時は、地域にいいものを安く提供することと、芸術文化を担当する職員の人材育成に力を入れる必要を感じていました。今回着任してみて、この3年間、地域の皆さまのご協力により、期待に違わぬ活動が行われていたのを知り、大変嬉しく思っております。
特に私が大切だと思っているのが、人材育成です。地域創造にも年2回の研修事業(ステージラボ)があり、数百人の卒業生が全国で活躍していると聞いています。何についても言えることですが、行政とか施策とか言っても、基本はすべて人です。人を得ないと飛躍的な発展はありません。地方分権にも関係してきますが、分権が進めば進むほど、自分たちで決められることが増えていくので、すばらしい指導者と情熱があれば、いろいろな発展が考えられるようになります。そのためにも、市町村に人材がたくさんいなければいけないのです。
ただ、人材育成はマニュアルでやれることではなく、非常な情熱家がいるとか、誰かがどこかで力を入れないとできません。例えば、毎年夏に行われている「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」というのがあります。これは、指揮者の小澤征爾さんの活動のすばらしさもありますが、これを実現するために、松本市、長野県は大変な努力をしたと思います。型通りに仕事をしていたのでは、こうしたものすごいエネルギーのいることはできなかったでしょう。つまり、こういう大変なことをやろうというところに、人は育つのです。我々としては、こういう人たちを少しでもバックアップできる仕組みを考えていきたいと思っております。
芸術もスポーツも基本は同じで、感動するということではないでしょうか。感動するとは、自分の感覚に非常に素直になれるということ。これは人間の基礎だと思います。人によって好き嫌いがあるので、何に対して感動するかは違いますが、人生は自分を感動させてくれるものを探す旅のような気がします。もし、住んでいる地域によって感動するチャンスに恵まれないとしたら、それは淋しい。どこにでも出会いがあり、誰でも感動の担い手になるチャンスをもてるような地域づくりがしたいものです。
日本は、戦後50年で世界に冠たる経済大国になりました。国民所得が上がり、人々の欲望が多様化した。それに連れて、行政に対する要望も多様化してきました。これからは、中央に依存しないで、地域が自分たちで欲求を掘り出し、自分たちで決めて、自分たちで責任を担っていくことが求められています。芸術文化の施策についても、同じことが言えるのではないでしょうか。これまでのように建物づくりで終わるのではなく、市民と一緒にソフトづくりについて考えていただければと思います。微力ながら財団もお手伝いできれば幸いです。
(聞き手 坪池栄子)
●遠藤安彦(えんどう・やすひこ)
昭和15年(1940年)生まれ。中学時代はバスケット、大学時代はゴルフとスポーツ好き。91年からはじまった自治省と韓国内務部との日韓内政交流事業がきっかけとなり、韓国語の勉強をはじめたそうです。今では高校生の教科書が読めるほどで、「日本語の語順と同じで英語よりよほど覚えやすいよ」と勧められました。イタリア旅行のためイタリア語も勉強中とのこと。ちなみにクラシック音楽ではモーツアルトよりベートーベン、CDよりライブ。「21世紀は情報問題が大切になるので財団でもそこを勉強したい」そうです。
1998年1月に自治省事務次官を退官、2月1日に財団法人地域創造理事長就任。