一般社団法人 地域創造

兵庫県東条市 第8回日本木管コンクール

東条町文化会館 藤本めぐみ

 

●小さな町の大きなコンクール

 

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 去る10月2日から5日までの4日間、東条町文化会館コスミックホールにおいて、「第8回日本木管コンクール クラリネット部門」が行われました。第1位は、東京芸術大学音楽学部器楽科卒業後、ドイツ国立ケルン音楽大学に留学し、帰国されたばかりの糸井裕美子さん(26歳)。今後の活躍が期待されます。

 

 コンクールが始まったのは1990年。東条町では、コスミックホールの開館にあたり、特色ある事業を模索するなかで、若い芽を育てる「木管コンクール」に着眼しました。都市型のヴァイオリン、ピアノのコンクールは多いけれど、町内をはじめ近隣市町には吹奏楽人口が多く、器楽への関心が高いにもかかわらずコンクールが少ない。そうした実態を踏まえ、最も身近な木管楽器でのコンクールを開催することになりました。幸い日本フルート協会、日本クラリネット協会の賛同、協力を得ることができ、会館オープンの年から『日本木管コンクール』がスタート。現在までフルート、クラリネット部門を隔年で実施してきました。

 

 今年のクラリネット部門では過去最高162名の出場申し込みがありました。出場者は、20歳代前半の若手演奏家が中心。「小さな町の大きなコンクール」として、これまでにも小林美香(フルート)、赤坂達三(クラリネット)など数々の実力ある若手演奏家を世に輩出してきましたが、若い彼らの成長と益々の活躍を糧に、年々評価も高まり、若手の登竜門として定着してきたようです。若い奏者の間では通称「東条のコンクール」と呼ばれているとか。

 

 

●手づくりコンクール

 

  なんと言っても本コンクールの一番の特色は、地元住民や音楽愛好家など有志たちによるボランティアスタッフの活躍です。延べ400人余りのボランティアは、企画、会場、広報、接待、オペレーター(音響・照明・舞台)ほか8つの委員会に分かれコンクールを支えています。

 

  広報委員会の発行する速報「かわら版」は、期間中の毎日、ボランティアスタッフ数名が連日深夜まで手づくりで編集、発行しているもので、本コンクールではもうすっかりお馴染み。スタッフがインタビューした審査員のコメントや、各日の結果などがすぐ翌朝の「かわら版」に掲載されるなど内容豊富で、出場者をはじめ関係者の大切な情報源ともなっています。昨年からは、日本木管コンクール公式ガイドブック、「Lucky A」(愛称らっきゃ・・・東条弁で「だいじょうぶ」の意とラッキー(幸運)を掛けたもの)の作成を始めました。「東条弁ディクショナリー」や、飲食店など周辺情報を満載した「東条周辺マップ」は、出場者にも大好評でした。

 

 また、第5回より一般の聴衆が審査員として参加する「コスモス賞」を設けています。二次予選演奏者の中から、観客に最も感動を与えた演奏者1名を選ぶもので、過去の受賞者はいずれも本選に進出するなど、素人といえど聴く耳は確かで、過去の受賞者にも何よりの励みになると好評を博しています。

 

 

●若い才能を育てるコンクール

 

 95年からは、地元の若者を育てていこうと「木管クリニック」を開催しています。町内をはじめ近隣の中高吹奏楽部生を対象に、クラリネット教室、フルート教室を開催。楽器の扱い方、構え方、音の出し方、奏法から音楽に対する姿勢に至るまで、講師の熱心な指導で基礎の基礎から丁寧に学ぶことができるので、受講生にも大変人気があります。

 

  若いコンクール入賞者のその後のバックアップにも力を注いでおり、第1位に輝いた奏者たちは、ソリストとして翌年プロのオーケストラとの協演の権利が得られます。本年第1位の糸井さんは、来年4月12日、コスミックホールで関西フィルハーモニー管弦楽団と協演する予定です。また、数年後には「さとがえりコンサート」として東条コスミックホールでのコンサートの機会を提供しています。コスミックホールは今後も、若い演奏家を続けて支援していく方針です。

 

●第8回日本木管コンクール

 

[日程]10月2日(木)~5日(日)
[会場]東条町文化会館(コスミックホール)
[審査員]磯部周平、小川哲生、武田忠善、浜中浩一、松代晃明、宮本淳一朗、村井祐児
[結果]1位/糸井裕美子、2位/井上弦、3位/重松希巳江、入選/中野仁視、入選・コスモス賞/高子由佳

 

 

●過去のコンクール入賞者

 

[フルート部門]小林美香、安藤史子、中川佳子、倉田優、菊池香苗、藤井香織ほか
[クラリネット部門]赤坂達三、佐藤路世、原田綾子、松本健司、亀井良信ほか

 

 

●東条町文化会館(コスミックホール)

 

  1990年4月、兵庫県東南部に位置する人口7800人余りの小さな町、東条町に誕生した。シューボックス型、固定座席570のホール。ホール残響2.2~1.9秒と、優れた音響が自慢で、生音の美しいホールとしてこれまで内外トップクラスのアーティストが来演している。

 

地域創造レター 今月のレポート
1997年12月号--No.32

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