一般社団法人 地域創造

埼玉県越谷市 ロンドン・シンフォニエッタとともに

●誰もが参加できる文化の育成を目指して

越谷サンシティホール芸術監督 坪能克裕

 

○「ロンドン・シンフォニエッタ」のワークショップ

 

 世界で最も信用と実績のある「音楽教育のプログラム」をもつロンドン・シンフォニエッタのメンバー6名が来日し、9月11日から24日まで、越谷サンシティホールを中心に、ワークショップやコンサートを開催しました。参加者は、小学校児童・中学校生徒・現代邦楽研究所会員・日本全国から任意参加の音楽教師・レジデントアンサンブルの6つのグループです。

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 その内の1つ、越谷小学校では、6年2組の児童が合唱と打楽器のワークショップに参加しました。打楽器のワークショップは、いくつかのシンプルなリズムを練習し、そのリズムをメンバーの指揮にあわせて組み合わせ、強弱をつけてつなげていくと、1つの曲ができあがるというもので、そのプロセスがとても楽しく体験できるようになっています。

 

 使われたのはティンパニ、大・小太鼓、和太鼓など7種の楽器。"指揮"といっても、「僕のスピードについてこれるかな?」とメンバーが楽器の列の前をダッシュするのに合わせ、子どもたちが次々にドラムを叩く、といった具合で、子どもたちは思わず夢中になって演奏してしまいます。

 

 現代音楽の語法で、子どもから大人まで、自分たちの技術でだれでも参加できるプログラムなので、ロンドンでは障害児とともに、または刑務所などでも活動が行われています。「教育プログラム」というと、啓蒙活動かクラシックの普及を目的に、たとえばオーケストラの演奏会で、曲目や作曲者を面白おかしく紹介するような「音楽鑑賞教室」のように思われがちですが、そうではありません。

 

  世界の民俗音楽などの多くは、市民の手でつくられ、芸術にまで育成されたものです。クラシックの名曲も簡単な構造で出来ているものが多く、その構造を応用することで誰にでも"創造"が可能になるのです。つまり音楽の"仕掛け"(構造)を分析し応用する術を持てば、誰でも「つくって表現すること」が可能なのです。「教育プログラム」とはその"手だて"のことを意味しています。決して音楽家の"技術指導"ではありません。が、その結びつきはクラシックファンが子どもから増えていくことになります。

 

 もちろん、これは音楽だけの問題ではなく、文化全般に通じることですが、その手だてが分かると、自分たちで創造・育成が可能になっていくわけです。その手だての確認として、今回ロンドンの仲間にもお手伝いいたただいた次第です。

 

 

○越谷サンシティホールの取り組み

 

 サンシティホールでは、突然、思い立ったようにこのような企画をはじめたわけではありません。

 

 「地域文化振興」は、それにより何か真新しいことが生まれるように思われがちですが、そんなことはありません。"目先"が変われば凄いことなのです。それは"新しい、人と人との結びつき"による『文化の再構築』を意味しているからです。

 

  そのためにサンシティホールでは、これまでも"文化リーダー"の育成に努めてきました。「歌のおねえさん・歌のおかあさん」「市民プロデューサー」「舞台製作スタッフ」「魔法の学校」など各種の育成講座を多数継続させています。そしてその"リーダー"が街のあちこちで自分たちの手で創造活動を展開させているところです。全国から集まる学校の先生方も、昨年夏に同種の講座に参加され、全国ネットで活動されています。

 

  各リーダーを通した"結びつき"は、多種多様な成果を生み始めていて、それこそ市民の手で文化を築き上げています。プロの手を借り、そして"みんなで参加"の文化育成が現在必要ではないでしょうか。

 

 なお、この方法に"パテント"はありません。私たちは仲間として時間のある限りみなさんと情報を交換させていただきます。

 

 

●ロンドン・シンフォニエッタメンバー

 

ピーター・ヴァイゴルド(作曲家/演奏家/ワークショップ・リーダー)
フレイザー・トレイナー(作曲家/教育プログラムコーディネーター)
ジョン・ウァレス(トランペット)
マシュウ・バーレイ(チェロ)
ジョン・ラン(ベースギター)
デイビット・ホッキングス(打楽器)

 

 

●サンシティ・レジデント・アンサンブル

 

  演奏と教育プログラムのプロとして、サンシティホールを拠点として活動するアンサンブル。クラシック・ポップス・現代音楽を応用し、市民(子どもからお年寄り、障害者)と鑑賞だけでないオリジナルな文化育成が可能な手だてをもつ。現在、メンバーはオーディションにより選ばれた19名。ホールに登録され、サンシティホールの自主事業などにおいて活動する。

 

地域創造レター 今月のレポート
1997年11月号--No.31

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