一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.2 コンサートを実施する③ パッケージ購入について

講師 高橋利枝(文化科学研究所研究プロデューサー)

 

 ホールが自ら主催者になりリスクを負って行う事業は、すべてホールの自主事業です。ただ、その形態は、西欧のオペラハウスなどのような、企画・演出から始めて全く新しい舞台作品を制作し上演する「自主制作」、企画・制作された公演を購入する「パッケージ購入」などさまざまです。

 

  日本の大半の公共ホールでは、機能や人材、経費などの面から、先に述べたような西欧型の自主制作を行うことは現実的には難しいことが多いので、ここでは、公共ホールで最も多く見られる鑑賞系自主事業の形態である「パッケージの購入」について、特にクラシックに視点を置いてお話したいと思います。

 

 

●パッケージとは?

 

  パッケージとは、アーティストのギャラ・交通費、当日の舞台まわりの運営に関する費用などすべて込みで料金設定がなされている公演を指し、基本的にはツアーの切り売りと位置づけられます(*)。音楽事務所などからこれを購入すると、基本的には、ホールは何もしなくても、当日になればアーティストがやってきて演奏が始まります。ただし、事前の広告宣伝、チケット販売、公演当日のお客さまへの対応(モギリ、案内など)などはホールが行うべき範疇となります。

 

 これを購入した場合、チケット収入とパッケージ料金の差額はホールが負担することになります。このように、金銭的なリスクはすべて負うということから、この公演はホールの自主事業(=ホールが主催者)と位置づけられます。なお、主催者であるホールは、このほかに、公演内容・公演の安全確保などに責任をもつ必要があります。

 

*日本人アーティストの場合は、交通費、宿泊は別途という場合が多い。

 

 

●パッケージの仕組みと情報収集

 

 海外招聘の場合、招聘元は、公演日程の確保のために、オペラやオーケストラで公演の3年以上前、その他で2年以上前に海外のマネジメントと交渉を行います。

 

 この時点で、同時に、公演費用を決定づける大きな要素についても交渉が行われます。具体的には、日本での最低公演回数、アーティストや随行員の飛行機や宿泊のランクなどについてです。これらがすべて決まれば、日本での公演回数が決定すると同時に、それにともなうギャラ、来日にあたっての交通費、滞在費などが算出されますので、この金額に、国内での交通費(売り先ホールの場所はこの時点では未定なので、何カ所かを仮定して試算)と当日の舞台まわりの運営費などを加えて、全公演の総費用を算出します。これを1公演あたりに割り振ったものがパッケージ価格となります

 

 このようにして決定したパッケージの情報については、各音楽事務所からホールに提供されるアーティストリストにより知ることができます。これを見て興味深い公演について資料を請求すると、より詳細な情報が提示されます。さらに、お馴染みのものとして、公文協リストもあります。ただし、各音楽事務所のリストは、毎年秋から冬にかけて翌々年度の公演情報を提供するのに対して、公文協リストは、毎年6月発行で翌年度の公演が掲載されますので、音楽事務所のリストの段階で申し込みが多くあった場合には、売り切れということもありえないとは言えません。

 

 そのほかの情報入手手段としては、やはり音楽事務所や個人とのネットワークが重要となるでしょう。また、他ホールで素晴らしい演奏を見たら、その公演に関係している音楽事務所に直接電話して(紹介等がなくても問題はありません)、次にツアーが行われるときには、買う買わないは別にして、声をかけてくれるように依頼しておくという方法もあります。

 

 このようにして情報を入手したら、ホールサイドでは購入の有無、日程などを検討することになります。一方、音楽事務所サイドでは、申し込み状況などによりツアーの移動経路や演奏者の休日などを勘案しつつ、アーティストを抱えているマネジメントなどと交渉しながら、最終の日程を決定していきます。

 

 このような流れですので、基本的には公演日の1年半~2年前から申し込みは可能になりますが、やはり申し込みが集中するのは、翌年度予算の目処がついた時期ということで、公演前年度の秋から冬が多いようです。

 

 海外招聘・日本人にかかわらず、ツアーの中で日程が空いていれば、最低1カ月前でも、公演を買うことは不可能ではありません。ただし、最低でも3カ月はないとチケットが販売出来ないですが・・・。

 

●パッケージ公演の成功のために・・・

 

 実際のホール運営においては、パッケージの仕組みよりも、どのソフトを選べばいいのかが最も重要な点になると思われます。ただ、ソフト選択については、そのホールの目的、長期的視野に基づく年間プログラムの中での当該事業の位置づけ、自主事業費、地域性などを踏まえて行われるべきものであるため、ケースバイケースで、一概にどんなソフトがいいとは言えません。

 

 そこでここでは、具体的な例として、グリーンホール相模大野の活動内容をご紹介します。

 

 このホールではさまざまな活動を行っていますが、公演については、定例と単発の組み合わせ手法をとっています。これは、単発でいろいろなパッケージを購入することで音楽事務所やアーティストと付き合ってみて、本当によい公演については定例公演化して実施していくというものです。これによって聴衆も育成されてきますし、回を重ねることで有効な広告手段などのノウハウが蓄積されるため職員の負担が軽減され、その分、また新しい単発公演に力を入れることができます。

 

  例えば、「ウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団」は、当初は単発事業として行われましたが、「クラシックにはあまり馴染みがなかったけれども楽しかった」というお客さんを多くひきつけたこともあり、翌年からは、ニューイヤーコンサートとして継続実施しています。

 

 また、個々の事業をシリーズの中の1公演という位置づけにしていくという方法もとっています。例えば、毎年、来日の大規模オペラ・バレエ・オーケストラを1公演ずつ行いますが、それぞれ単発の事業とせずに、3事業をまとめて毎年恒例の「クラシック・ベスト・コレクション」シリーズとして位置づけます。また、これはオリジナル事業ですが「MUSIC LAB 音楽の実験室」として、毎年テーマを決めて実験的なクラシック事業を複数展開しています。

 

  このようにシリーズ化することによって、個々のアーティスト名が分からなくても、公演のおおまかなイメージやテイストがお客さんに伝わりやすくなりますし、広報活動も効果的に行うことが出来ます。例えば、前述の「音楽の実験室」では、以前にカウンターテナーのコンサートを行ったことがありますが、その当時はまだカウンターテナー自体への認知が非常に低く、単発公演として実施したのでは集客は難しそうでした。しかし、「音楽の実験室」シリーズの一環ということで公演イメージが伝わり、小ホールながらほぼ満席になったそうです。

 

 以上、グリーンホール相模大野の例をご紹介しましたが、ほかにもパッケージ事業を有効に活用して、個性を発揮している例は数多く見られます。

 

 パッケージ購入とは、いわば、当日運営ノウハウ付き公演を音楽事務所から完全に買い取って、それをお客さんにチケットというかたちで小売りする形態と言えましょう。

 

 その意味では、アーティストの知名度や曲名などの公演の力で集客したくなるものですが、「パッケージソフトとはいえ、契約したからには主催者はホール。だから、ソフトは厳選して選択するし、それをより多くの方々に楽しんでもらうために、広告宣伝手法もチケット販売も努力する」というグリーンホールのお話にあるように、パッケージを買えばすべておしまいではなく、主催者としてホール全体のプログラムを作成し、それによって聴衆を育成していく姿勢をもつことも大切なことのようです。(協力:グリーンホール相模大野)

 

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 音楽事務所が組織している業界団体「社団法人日本クラシック音楽マネジメント協会(マネ協)」(正会員は66団体)が、年に1度発行している『クラシック音楽マネジメント・ガイド』。所属している演奏家や海外アーティストの招聘スケジュールが掲載されている。

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