一般社団法人 地域創造

ステージラボ松山セッションリポート

開催地との交流が印象的なコース内容

 

 今回のステージラボは、台風11号が接近するなか、四国の松山市で開催されました。飛行機の欠航を心配したりと、事務局はちょっとしたパニックでしたが、後半は天候も回復し大過なく事業を終えることができました。ご協力をいただきました松山の皆さま、本当にありがとうございました。

 

 

●開催地との交流を深めたダンス

 

 プログラムをご紹介した際にも触れましたが、松山市ではアマチュアのダンス活動がとても盛んです。今回の会場となった松山市総合コミュニティセンターを運営している松山市施設管理公社の久光浩二さんによると「故神野寛先生が愛媛大学に設立した現代舞踊研究部を足がかりに普及をはじめ、その後、現在の牛山眞貴子先生が多くのダンスファンをつくってきたことがきっかけになりました」とのこと。今ではクラシック、ジャズ、大学のサークルなどを合わせて市内で約20団体が活動しており、6月に開催されたフランスのコンテンポラリーダンス『アデュー』も超満員だったそうです。

 

 今回はこうした土地柄を考慮し、山田せつ子さんのレクチャー付き公演を一般のダンス愛好家にも公開する試みを行いました。地元の文化人に混じってたくさんの若いアマチュアダンサーたちが熱心に見学していたのが印象的でした。その中のひとり、18歳の女子大生は、「山田さんの踊りは決まったかたちがなくて自由だなと思いました。私は小学校5年の時からモダンダンスを習っています。周りを見てもダンスをやっている人は多いですね。公演は2カ月に1回ぐらい見に行きますが、愛媛大学ダンス部の発表会やそのOBがやっているモガの公演は楽しみにしています」と話してくれました。

 

 ラボのスタッフを手伝ってくれたのがその愛媛大学ダンス部の面々。今回のコースの中で一番女性が多く、平均年齢も29.9歳と若かった演劇・ダンスコースの人たちと一緒に山田さんのワークショップに特別参加して汗を流しました。「こういう人たちが文化施設を支えてくださっているのかと思って感動しました」とホール職員にエールを送る一幕もあり、思わぬところで温かい交流が生まれていました。

 

 

●経験を分かち合う場に

 

 初のマネージャーコースは、平均年齢50.4歳(内9名が館長または副館長)とさすがに管理職ばかりの重厚な雰囲気でスタートしました。スケジュールが進むにつれ、雰囲気が和やかになってくるのと反比例して質疑の内容はどんどんシビアに。 例えばチケット販売に関しては、地元の商店や個人が販売した場合の処理について(チケット委託業者のマージンと同等の10パーセントキックバックetc.)、招待券について(招待券が全体の8分の1を超えると有料チケットが売れなくなる、招待者には現券を配布しないetc.)、効果的な販売方法について(いろんなところに出張カウンターを設けて販売する、地元商工会の景品にするetc.)といった具合でちょっとした経営会議でした。

 

 また、創作ミュージカルの再演問題についても白熱した議論が行われました。せっかくつくったのだから他の地域でも公演したいという希望に対し、コーディネーターの横須賀さんは水戸芸術館での経験を踏まえ、「再演でも制作費が下がらないケースが多い。他のホールで買ってもらうためには1ステージ当たりの価格を安くする必要があるが、それでは原価割れして、結局、自分のホールの事業費を足すことになる。作品に自信があるのなら、キチンとした宣伝をして見に来てもらった方がいいと思います」とアドバイス。津村さんは「公立ホールとして再演する意義、他の地域で公演する意義をキチンと考えていく必要がある」と改めてホール側の意識を問い直していました。

 

 「出演者が喜ぶことは」という質問には、黒部市国際文化センターの石川さんから「単純ですが、料理のケータリングを充実したり、イベントが終わった後にホワイエで簡単な打ち上げパーティをやると喜ばれます。それと楽屋付きの職員をひとり決めて、紹介しておくと重宝されますね」と実務的なアドバイスがありました。「うちでは誰でも参加できる1000円の有料パーティをやっています」という参加者も。 日頃、交流する機会の少ないマネージャーたちが、立場を越えて、お互いの経験を分かち合う場になったのではないでしょうか。

 

 

●シミュレーションがイメージを広げる

 

 音楽コースでは、ゆふいん音楽祭のプロデューサーが講義を行った後、早速、そのノウハウを応用した音楽祭の企画づくりに入りました。音楽部会、営業部会、ボランティア部会、聴衆部会に分かれて議論が行われ、営業部会の多少皮算用っぽい予算書も何のその、最後は立派な「第1回オト・おと・音のフェスティバル」の企画書が出来上がりました。具体的な演奏家名をあげながらの真に迫った会議で、翌日の打ち合わせには"何故か"音楽監督候補からのコメントまで届く念の入った演出で、ちょっとしたお芝居のようでした。

 

 また、テレビ愛媛、愛媛新聞という地元の2大メディアから本物の記者が出席して実施された共通ゼミ2の「公開プレス発表」にはホール担当者を代表して久光さんが出演。仮の企画書を手に何とか記事にしてもらおうと大奮闘しました。企画の目的や内容を記者に突っ込まれる度に見ている方も自分のことのように冷や汗もので、「担当者の熱意に免じて記事にしましょう」の一言が出て、会場全体に安堵感が広がりました。

 

 毎回定評のあるホール運営入門コースですが、今回は最終日にピアニストで指揮者の増田宏昭さん、演出家の岩田達示さん、歌手の太田小百合さんなどを迎えたオペラのワークショップを実施。歴史上の名場面や人物をオペラ形式で演じ、それをあてる「クイズ・オペラ」では、創意を凝らした表現に、参加者は「こんな楽しみ方があるんですね」と目から鱗の様子でした。

 

 何かと開催地域との交流が印象的だった松山セッション。今後とも受け入れ地域の方々と協力してステージラボを盛り立てていきたいと思っております。今後もどうぞよろしくお願いします。

 

●ステージラボ松山セッション
[日程]8月5日~8日
[会場]松山市総合コミュニティセンター
[主催]財団法人地域創造
[共催]松山市、財団法人松山市施設管理公社

 

○ホールマネージャーコース
[コーディネーター]横須賀徹(元水戸芸術館事務局長)、津村卓(地域創造チーフディレクター)
[講師]鍵岡正謹(高知県立美術館館長)、石川幹夫(財団法人黒部市国際文化センター事務局長補佐)ほか

 

○ホール運営入門コース
[コーディネーター]関水秀樹(藤沢市芸術文化振興財団プロデューサー)
[講師]本杉省三(日本大学理工学部助教授)、井上允(厚木市文化会館館長)ほか

 

○自主事業演劇ダンスコース
[コーディネーター]志賀玲子(アイホールダンスプロデューサー)
[講師]佐藤まいみ(神奈川芸術文化財団プロデューサー)、桜井圭介(ミュージシャン、ダンス批評)ほか

 

○自主事業音楽コース
[コーディネーター]児玉真(カザルスホールチーフプロデューサー)
[講師]竹津宜男(PMF組織委員会オペレーティングディレクター)、加藤昌邦(ゆふいん音楽祭事務局長)ほか

 

●ステージラボに関する問い合わせ
財団法人地域創造芸術環境部
研修・交流担当 杉田敏、西村直己
Tel. 03-5573-4066 Fax. 03-5573-4060

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