一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.1 映画上映会を実施する③ 映画業界の仕組み

今回は映画上映会を実施するに際して知っておきたい映画業界の概況と仕組みを簡単にご紹介します。

講師 山名尚志(マルチメディア・プロデューサー)

 

 

●映画市場の概況
 
  映画という文化ジャンルの第一の特徴は、国際化が極めて進んでいることです。1995年の状況を見ると、日本国内での売上の63パーセント(配収ベース *1)、上映本数の52.6パーセントが外国映画(洋画)となっています。

 

  第二の特徴は、全国で公開されるメジャーな映画とそれ以外の映画の差が極めて大きいということです。毎年公開される600本程度の映画のうち、松竹・東宝・東映の大手3社が全国に配給する邦画は60~70本ほど、ハリウッド映画といわれる大手のアメリカ映画は100本ほどにすぎませんが、これだけで売上は全市場の8~9割に達します。大手3社が関わっていない日本映画、アメリカ以外の国から輸入された外国映画は、本数的には全体の7割を占めるものの、観客数としては少なく、見に行く人はまだ限られています。

 

  上記は民間の映画館で公開されている映画に限った状況ですが、実際にはこれに加え、市民団体や自治体による上映会、映画祭が全国津々浦々で行われ、過去の名作、芸術映画、実験映画、短編映画、ドキュメンタリー映画などが年間何百本も上映されています。

 

  一口に映画といっても、全国で公開されるメジャー映画、それ以外の単館からせいぜい十数館でしか公開されない劇場公開映画、さらには劇場以外の場所で上映される(=ノン・シアトリカル)映画と、概ね3つに分かれているということを、まず、確認しておいてください。

 

*1 配収
配給収入の略。映画の配給段階で入る収入のこと。映画館での売上(興行収入)から映画館の取分(概ね半分程度)を引いたもの。配収から配給経費と配給宣伝費を差し引いた残りの金額を、さらに、配給会社と製作会社で分け合う。

 

 

●メジャー映画の業界構造(1) 邦画メジャー

 

  映画業界は、製作(作品を企画・製作し、完成フィルムにする)と配給(出来上がったフィルムを複製して各映画館にレンタルするとともに宣伝を行う)、そして興行(映画館での上映)の3部門に分かれています。邦画業界の特徴は、松竹・東宝・東映という大手3社が、この3部門すべてを押さえているところにあります。つまり、この3社が、映画作品をつくりそれを全国の映画館に流すとともに、映画館自体を直営や独占的な配給契約によって系列化して運営しているわけです。このような体制をブロック・ブッキングと呼んでいます。

 

  しかし、70年代以降、邦画業界が衰退に向かうにつれ、このブロック・ブッキング体制も崩れてきました。初めに崩れたのが製作部門で、当初は自社内の撮影所ですべての映画をつくっていたのが、次第に独立の制作プロダクションに発注するようになり、さらには他社との提携での製作、すでに出来上がった作品の配給の受託などが当たり前になってきています。また、配給の点でも、映画館数が邦画専用館を中心に激減したことにともない、地方を中心に、系列関係がかつてほどはっきりしたものではなくなってきました。

 

  加えて、最近では、ワーナー・マイカルやAMCといった英米系の映画館チェーンの日本進出が業界を震撼させています。これらのチェーンは、邦画に関しても、ブロック・ブッキングを拒否し、独自の判断で上映作品を決定しているからです。邦画業界の構造は大きな変化の過程にあるということができます。

 

 

●メジャー映画の業界構造(2) 洋画メジャー

 

  洋画メジャー映画(アメリカ映画 *2)の場合、製作は米国になりますから、国内では配給と興行という2部門のみです。このうち配給は、米国映画配給会社の現地法人(UIP、フォックス、ワーナー、ソニーなど)と大手のインディペンデント系(=米国系ではない)配給会社(松竹富士、東宝東和、日本ヘラルド、ギャガなど)が行っています。

 

  邦画メジャーとの最大の違いは、上記の配給会社が、系列の映画館網をもっておらず、従って映画作品ごとにどの映画館に流すかを契約していくというフリー・ブッキング制になっていることです(慣習的なつながりはあります)。先に述べた大手3社は、ここでは、最大手の興行チェーンとして登場してきます。例えば、「東宝洋画系公開」という宣伝文句がよく映画の広告に出ていますが、これは、東宝が系列化している洋画専門館で全国で公開するという意味です。洋画の興行チェーンとしては、このほかに、東急系や先ほど述べた英米系などがあります。

 

  ただし、近年では、系列の崩れに加え、邦洋混映館の増大、邦画でも大作については洋画系で公開することが多くなっている(一般的に洋画館の方が大きくて設備もよい)ことから、邦画・洋画の興行面での区別は、かつてほど明確ではありません。

 

*2 洋画メジャー映画
70年代以降、映画市場は急激にアメリカに一極集中してきた。現在では、世界中に輸出され、巨額の興行収入をあげている映画のほとんどが、アメリカのハリウッド系の製作・配給各社でつくられるものに限定されてしまっている。したがって、洋画メジャーとは、そのままハリウッドのメジャー(ワーナー、20世紀フォックスなど)、ミニ・メジャー(ミラマックスなど)各社が関与している作品ということになる(大手がメジャーで、中堅がミニ・メジャーということなので、時代によって多少の移り変わりがある。例えばディズニー系の映画を配給しているブエナ・ヴィスタは、かつてはミニ・メジャーであったが、現在はメジャーの仲間入りをしている)。
ただし、配給作品をすべて自社のスタジオで製作していた1960年代までとは異なり、現在ではハリウッドでも独立系のプロデューサーが製作を仕切り、資金も、世界各国の映像企業や各種の投資組合から募る場合が増えているので、ハリウッド系=ハリウッドのメジャー各社が資金を出した映画とはいいにくくなっている(全米での配給権のみを買い取っている場合も多い)。

 

●ミニシアター系(非メジャー系)の映画公開

 

  1980年代以降、上記のメジャー映画(商業映画)の業界構造が次第に崩れていくなかで、既存の興行の系列に属さずに独自にアート・フィルムなど全国公開向きではない映画を上映する映画館が増えてきました。これらを一般にミニシアターといいます。

 

  ミニシアターには、東宝や東急などの大手資本によるもの(女性向けのヨーロッパ映画が中心)、大手3社の配給しない(独立系の)日本映画の上映を目的としたもの、上映会活動が発展して館となったものなどいくつものパターンがあり、それぞれ特色をもってプログラムをつくっています。配給は、フランス映画社、アップリンクなどのミニシアター系の配給会社が手がけている場合が通例ですが、独立系の日本映画の場合には製作したプロダクションが直接映画館に持ち込むことも珍しくありません。また、かつては、東京にあるミニシアターでの単館ロードショーというのが標準でしたが、地方中核都市に類似の館が登場していくにつれて、多い場合には十数館程度でミニ全国公開をやる場合も増えてきています。

 

  洋画にしても、邦画にしても、大型の娯楽作品だけが映画ではありません。ミニシアターは、そうしたメジャー系の流通網ではこぼれてしまう多様な映画作品、映像文化を人々に届ける機能を果たしています。

 

  今まで述べてきた通り、映画の配給・興行といっても、邦洋やメジャーかそうではないかによって大きく状況は異なります。自治体で映画に携わる場合には、こうした業界の構造を踏まえ、ミニシアター系の映画製作・配給・興行を中心に、映画文化の発展・普及のために「非」営利的な努力をしている関係者が多数いることを念頭においていただければ幸いです。

 

●業界構造一覧

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