一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.1 映画上映会を実施する② プログラム企画編

講師 岩崎ゆう子(エース・ジャパン)

 

地域の映画環境に合ったプログラムをつくろう

 

  プログラムをつくる場合、その地域の映画環境がどういう状況であるかということを踏まえて、自分のホールで何をやるか考える必要があります。地域に映画館があるのか、どんな映画をやっているか、自主上映グループはあるか、同地域のほかの文化施設ではどんな文化事業を実施しているか、といったことをまず調べてみましょう。

 

●地域のタイプと上映会の目的

 

(1)近隣に映画館がまったくない

 

  いちばん近い映画館でも電車やバスで1時間以上という場合、とにかく、映画を大きなスクリーンで見るという体験、楽しみを提供することが上映会の大きな目的になるでしょう。特に、そうした経験のない子どもたち、かつては映画の大ファンだったけれど今は映画館から遠のいてしまった年配の方々に足を運んでもらえるような上映会ができるととてもいいと思います。

 

  そういう上映会にするためには、子どもが対象だからアニメーションをやるとか、固定観念にとらわれず、企画の担当者が心から見せたいと思える映画をできるだけいい環境で見せられるよう配慮することに尽きると思います。ただ上映するだけでなく、例えばパンフレットをつくったり、会場に関連のポスターを貼ったり、ポップコーンや飲み物を販売するなど、映画館の楽しさを味わえるような雰囲気をつくるのもいいかもしれません。そして、何曜日の何時に行けば映画を楽しめるというふうに定着できればいいと思います。

 

(2)映画館は大小とりまぜてたくさんある

 

  こういうところで公共ホールの上映会に期待されることは、映画館では上映されない映画を上映すること、あるいは映画館とは異なる視点で映画を組み合わせて特集上映をすることだと思います。多少語弊のある言い方ですが、映画館は娯楽としての映画の楽しみを提供し、公共ホールは文化として映画を普及する役割を担うという面があるかと思います。例えばエース・ジャパンでは秋から、フランス「ヌーヴェルヴァーグ育ての親」とも称されるプロデューサー、ジョルジュ・ド・ボールガールが製作した作品を6作品ほど集めた特集上映を全国に巡回する予定(主催:川崎市市民ミュージアム *1)ですが、こういう企画は、非劇場用フィルム(*2)であるということもありますが、採算を考えると映画館ではできない、公共の文化施設でやるべき企画だと思います。

 

  また、前号でも紹介したように「非劇場」用のフィルムを配給(貸出)しているところのリストを集めて、自分なりの視点で組み合わせた特集上映を企画するのもいい方法だと思います。上映とあわせて講演や対談を開催し、映画に対する理解を深めるというのもいいでしょう。

 

  ただし、こういう企画の場合、誰にでも楽しめるものにはなりにくいということがありますので、企画の目的とターゲットをはっきりさせて、きっちり広報する必要があるでしょう。

 

(3)映画館はあるが少ない

 

  映画館が少なく、上映される映画が非常に限られている、いわゆるミニシアター(*3)と呼ばれるような映画館がない地域もあります。こういう地域でよく聞くのは映画雑誌や新聞の文化欄などで批評されるような映画が地元では見られないという不満です。この場合は、自分なりに雑誌や新聞などを調べてみるのもいいし、地域の自主上映グループなどから情報を得て、上映企画を立てるのがいいでしょう。毎月1回とか隔週で1回とか、定期的に上映会を開催しながら、年に1度はフェスティバルを開催するというのもいいと思います。

 

*1 「レトロスペクティヴ/ジョルジュ・ド・ボールガール」の巡回
この件について、より詳しい資料を希望される方はエース・ジャパンまでご連絡ください。

 

*2 非劇場用フィルム
契約書の定義によって異なるが、公共ホールや体育館、工場など通常映画館として使用されない施設での上映権しかないフィルムのこと

 

*3 ミニシアター
系列以外の作品を独自に上映する小さな映画館

 

●企画の幅を広げる

 

  以上、3つのパターンを紹介しましたが、いずれにも共通することを少し付け加えたいと思います。まず、映画上映を単独で企画するだけでなく、他の文化事業との関連で映画を上映してみるということです。例えば地域の美術館でポップ・アートの展覧会をやるときに、アンディ・ウォーホルの映画を上映するという類のことです。国際交流事業と連携してアジア映画の上映会を行うのもいいでしょう。福岡市の「アジアマンス」で開催される「アジアフォーカス・福岡映画祭」はその代表的な例といえます。

 

上映会は舞台芸術や美術展などに比べるとフィルムがあればできるという手軽さがあり、関連企画としては立ち上げやすく、上映会をあわせて開催することによってイベント全体を盛り上げることができます。映画のテーマに着目して、映画を通じて女性問題を考えるとか、食料問題を考えるといったシンポジウムが行われることもよくあります。

 

  名古屋では近隣のミニシアターと公共ホールである愛知芸術文化センターが連携して1つの企画を実施するということもあります。例えば、文化センターで韓国の実験映画の特集をやるときにミニシアターでも韓国映画を上映すれば広報などでもお互いにメリットがあるし、企画の厚みを増すことができます。

 

  いずれにしても、自分のホールの中だけにとどまらず、周辺に協力者をもつことが重要です。自主上映グループの協力をあおぐのもいいですし、それ以外にも文化関係のグループや町づくりグループなどに映画の上映に関心のある人、詳しい人がいるはずです。そういう潜在的な協力者を見つけることが大きなポイントと言えます。実際、このような協力者を得て、すばらしい映画祭や上映会を開催しているところも少なくありません。映画上映を単独で考えず、地域の諸々の環境、つながりの中で考えることで、企画の内容も上映会の方法も広がっていきます。

 

●広報の必要性

 

  どんな文化事業についても言えることですが広報は非常に大切です。企画の内容にふさわしいチラシをつくること、それを置くべき場所に置くこと。予算規模の小さな映画上映だからといって手を抜かず、プレスリリースもして、地域の情報誌には必ず掲載してもらうこと。有力な観客対象、例えば自主上映のグループ、子ども向けの映画だったらPTA、ほかの文化サークルなどを調べて情報が届くようにするなど。当たり前のことをきちんとやることが重要です。

 

 そして、上映会に来た人たちが満足して映画を見終えることができるように、心配りを忘れずにやっていけば、きっといい上映会ができあがることと思います。

 

どうぞ、みなさん大いに上映会を開催してください。

 

*「映画上映ネットワーク会議:地域の映画祭・映画上映を考える(第2回)」
8月25日、26日にHAGI世界映画芸術祭に続いて開催される「映画上映ネットワーク会議」の分科会では「上映会開催のノウハウ」がレクチャーされます。この分科会ではフィルムの調達から扱い方、著作権の問題や上映プログラムの立て方、広報の方法に至るまで、映画評論家の大久保賢一氏(長年にわたり自主上映活動を行い、映画祭のコーディネーターとしても活躍)と堀三郎氏(アテネ・フランセ文化センター/数々の映画祭の制作を担当)が解説。初めて上映会を企画される方にはもちろんのこと、上映会を実施してきた方にとっても示唆されるところの多い話が聞けるものと期待されます。ほかにパネルディスカッション「地域の映画祭・映画上映・欧州における試みと日本の現状・」、分科会「共同企画・共同実施の可能性を探る」なども行われます。どうぞ、ご参加ください。(お問い合わせはエース・ジャパンまで)

 

●財団法人国際文化交流推進協会(エース・ジャパン)
〒107 港区赤坂2-17-22 赤坂ツインタワー1階
Tel. 03-5562-4422 Fax. 03-5562-4423

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