暗闇で点滅を繰り返す無数の赤い発光ダイオード。現代美術作家宮島達男さんの作品は、規則的に点滅する発光ダイオードで1から9の数をあらわすというもので、終焉としてのゼロを排することで、永遠に続く「時間」を視覚化した光と数のインスタレーションである。1988年にヴェネチア・ビエンナーレで発表されてから、発光ダイオードを使った一連の作品は国際的にも高い評価を得ている。
その宮島さんが、今、「柿の木プロジェクト」という新しいプロジェクトを進めている。これは、時間をテーマにした創作活動を行ってきた彼がコンセプターとなり、10年かけて「被爆した柿の木」をモチーフに一連のアート活動を行い、その成果を『時の蘇生』というアート作品として発表しようという試みだ。
プロジェクトの発端は、95年、長崎で滞在制作中に被爆した木々に興味をもち、被爆した柿の木を「治療」していた樹木医の海老沼正幸先生と出会ったこと。海老沼先生は、再生した柿の木から苗木を育て、平和への願いを子どもたちに伝えようと各地の学校で植樹活動を行っていた。50年の時を経て再生した苗木の美しさに感動した宮島さんは、美術家としてこの植樹に関わろう、そしてこうした営みをアート作品にして社会に還元しようと「『時の蘇生』柿の木プロジェクト」を思い立った。
プロジェクトの内容は、宮島さんが発起人の一人になった実行委員会が主宰して、植樹の受け入れ先の学校を募集し、これに賛同するアーティストと受け入れ先の子どもたちがジョイント・パフォーマンス「MEET THE KAKI」を行いながら柿の木の植樹をするというものだ。第1号植樹は96年に東京で行われ、今年は、熊本、岩手、秋田の3カ所で植樹が行われた。
3月24日、天気雨ならぬ天気雪の中岩手で行われた江差市広瀬小学校の第3回植樹に参加してみた。これは、今春で退官された広瀬小学校の松本賀久也校長先生が、子どもたちに何か残したいと考え、受け入れ先として応募したとのこと。
植樹に先立って、宮島さんと子どもたちによる2つのパフォーマンスが行われた。今春卒業した20人の子どもたちに、宮島さんがビデオを回しながら「10年後の自分、10年後の柿の木、10年後の広瀬」などについて質問し、記録する。体育館に10年後の柿の木を描いた巨大な紙が広げられ、「今日は、この柿の木の周りに10年後の皆さんの顔を想像して絵を書いてください」という合図で、クレヨンを持った子どもたちがわっと紙の上を占拠。全校生徒106人が1枚の紙の上に勢揃いし、思い思いに自分の顔を書いていく。あっという間に柿の木を全校生徒の似顔絵がびっしり囲むドローイングが完成した。
10年後、何本かの成長した柿の木に発光ダイオードを取り付け、広瀬小学校では同窓会を開き、ビデオとドローイング作品が子どもたちと再会し、日本各地で柿の木に関わった人たちがイベントを開く予定だという。
プロジェクトの企画趣旨には「それは変化し続ける。それはあらゆるものと関係を結ぶ。それは永遠に続く」とある。宮島さんは「このプロジェクトでは、"被爆2世柿の木"に関わって人々の自発的な表現行為がどんどん生まれていく。そうした人たちを皆アーティストだと考えています。子どもたちが柿の木に水をやればそれもパフォーマンスだし、僕自身のやっていることも、柿の木にジョイントするひとつのパフォーマンス。柿の木を中心にしてこうした人々が起こした行動と、人々の関わりが広がっていく関連性の構造をすべて作品としてとらえたい」と言う。
(宮地俊江)
●「時の蘇生」柿の木プロジェクト実行委員会
[本部]〒302-01 茨城県北相馬郡守谷町守谷甲4413-1 Tel. 0297-48-5772
[東京事務局]〒140 東京都渋谷区神宮前4-16-12 青山ビル301 Tel.03-5479-0205
※尚、実行委員会では年4回「NEWS KAKI」という媒体を発行し、プロジェクトの模様を伝えるとともに、植樹先を募集している。
地域創造レター 今月のレポート
1997年5月号--No.25