「公共ホール・劇場とボランティアに関する調査」経過報告
調査研究事業「公共ホール・劇場とボランティアに関する調査」は、現在、報告書づくりに向けて最後のまとめの作業を行っているところです。そこで、今月号ではこれまでの経過を振り返るかたちで、調査内容の一部をご紹介しましょう。
●調査の目的
これまで文化ボランティアに関する調査がいくつか行われていますが(*1)、ホールのボランティアに的を絞って行われたものはなく、ホールにおけるボランティア活動の実情は十分に把握されていませんでした。しかし、企画制作といった中核業務に携わるケースの多いホール・ボランティアは、それだけ地域の芸術環境を変えていく可能性を秘めているとも言え、その現状や課題を明らかにすることは、これからのホール運営を考えていく上で参考になると思われます。
ちなみに、1996年に財団法人地域創造が全国の公共ホール・劇場約1800施設を対象に実施したアンケートによると、ボランティアが何らかのかたちで施設の運営に携わっているとする回答が1割を上回り、過去に文部省が行った社会教育調査の結果(*2)と照らし合わせると、ボランティア参加の割合は増加する傾向にあるものと推察されます。近年のボランティアへの関心の高まりも考えると、今後もその傾向は高まるものと思われます。
以上を踏まえて実施されたのが、今回の「公共ホール・劇場とボランティアに関する調査」です。そこでボランティア活動に積極的と思われる43施設に対するアンケート調査、有識者による研究会、現地事例調査(国内7施設、米国6施設・団体)が行われました。
*1 代表的なものとして、東京都生活文化局コミュニティ文化部「文化行政とボランティアに関する調査報告書」(平成6年5月)
*2 文部省「社会教育調査報告書・平成5年度」によれば、全国の文化会館1,261館のうちボランティア活動実施館数は49館(4%)である。
●ボランティア導入状況に関するアンケートより
ボランティアの導入状況をおおまかに把握するため、ボランティア活動に積極的と思われる43施設を対象に、施設特性、ボランティア制度の概要、運営方法・課題についてアンケートを実施しました。その結果、導入時期で最も早かったのが喜多方プラザ文化センターの1983年で、また、90年以降にボランティア制度を導入した施設が全体の8割に上っていることがわかりました。
施設のスタッフ数では、10人以下のところが25施設と6割を占めていました。ボランティアの業務内容については、企画・制作、広報・宣伝、舞台・音響・照明、受付・案内、教育普及、その他の選択肢で質問したところ、8割の施設が複数回答を寄せ、業務が複合化している傾向がうかがえました。
●現地事例調査より~国内7施設
前述の43施設の中から、立地都市の規模、施設特性、ボランティアの位置づけ、業務内容などの点でタイプの異なる7施設(*3)を選び、施設運営者とボランティアの双方にインタビューを行いました。
詳しくは最終報告書をご覧頂きたいと思いますが、全体の傾向としては、どの施設でもボランティアがホール運営において主要な位置を占めていることが明らかになりました。こうした背景には、制度内容が充実している、ボランティアが業務に習熟している、などがあると思われますが、それ以上に重要なのが、行政側とボランティア側を仲介する熱心なキーパースンがいるということでした。行政の仕組みとボランティアの要求に折り合いをつけ、集団内の人間関係を円滑にまとめていくキーパースンの存在が目に見えない大きな要素になっていると思われます。
また今後の課題として共通していたのは、ボランティア活動を限られた人たちのものにするのではなく、その成果を市民全体にどのように広げていくかという点でした。
*3 喜多方プラザ文化センター、中島町文化センター、武生市文化センター、いまだて芸術館、大阪府立青少年会館、たんば田園交響ホール、春日市ふれあい文化センター
●ボランティア・アンケートより
この7施設で活動しているボランティア181人を対象としてアンケートを実施しました。全体標本数も少なく、施設特性による偏りもあるため、あくまで傾向を確認するためのものであることをお断りした上で、その結果の一部をご紹介しましょう。
まず、性別では男女ほぼ同数で、これは約9割を主婦が占めている美術館のボランティアと比べると、興味深い結果と言えます。また、年齢層も10代から60代までと広範にわたっていました。職業別では、7割以上の人が有職者でした。
ボランティアを始めた理由としては、「音楽や演劇が好きだったから」「劇場やホールの仕事に興味があったから」がともに全体の5割以上で、ホールの活動に興味をもって参加した人が多数を占めています。ひと月の活動時間は平均11時間30分という結果がでました。また、ボランティア活動のための研修会等への参加にも月平均5時間30分の時間があてられていました。活動費用の自己負担額では、7割が年間1万円未満と回答しています。
ボランティア活動をしてよかった点として、6割以上の人が「新しい友人や趣味の合う話し相手ができた」とし、逆に問題点としては「仕事が大変である」「研修や講習をもっと受けたい」という回答が目立ちました。活動への要望でも3割近くの人が「研修や講習を受けさせて欲しい」として、技術面でのサポートの必要性が読みとれる結果となっています。一方で、ほぼ同数の人が「運営の方向性に関しても意見が反映される様な環境を」求めており、施設側への要求の質が高度化しているのではないかと考えられます。
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●報告書づくりに向けて
地域創造では、2月26日のシンポジウム「地域に開かれた公共ホール・劇場~市民ボランティアの可能性をめぐって」において幅広い意見を集約した後、3月末を目処に調査・分析結果を調査報告書としてまとめ、地方公共団体の文化行政担当部局、公立ホール・美術館等に配布する予定です。
◎調査日程・内容
「公共ホール・劇場とボランティアに関する調査」では、ボランティア活動に積極的な全国43施設を対象にしたボランティア導入状況に関するアンケート調査、有識者による研究会(2回)、現地事例調査(国内7施設、米国6施設・団体)が実施された。
6月 ボランティア導入状況に関する施設向けアンケート/第1回研究会
7月~10月 ボランティア従事者へのアンケート/現地事例調査(国内7施設、米国6施設・団体)
12月 第2回研究会
2月 シンポジウム
3月 報告書発行(予定)
●問い合わせ
地域創造芸術環境部調査担当 加川香 Tel.03-5573-4066